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翌日、身支度が終わって今日はどうしようかと悩んでいる所にアピスが手紙を持ってきた。
「手紙?誰からの?」
「この刻印はツヴァイ様でございます。」
手紙を貸してもらい裏面を見ると蝋印がキレイに押されていた。
ほっおー!!蝋印で封した手紙なんて初めてもらった。かっくいー!!
赤い蝋の真ん中に鷲を象ったシンボルが押印されている。このシンボルが首相さんを表してるんだね。
「開けさせていただきます。」
借りていた手紙を返したらペーパーナイフでアピスが開いて中を取り出してからまた渡してくれたが手に持ったまま固まった。
「いかがなさいましたか?」
「アピス。私、字読めない。」
...室内にしばしの沈黙が落ちた。
「代読いたします。」
「お願いします。」
「手紙の内容は『昨夜の夕食会で言い忘れていたことがあったので手紙を書いた。読めなければ誰かに代読を頼みなさい。後宮4階に先代女王が使用していた居室がある。貴賓室では何かと不便でだろうからそこに移りなさい。内装は好きにして構わない。お前の愛する父より』以上になります。」
まず、手紙に代読頼めって読めないのに書いてどうするのさ!
あとナニ!!愛する父って自分で言うか!?
手紙一つに突っ込みどころが多いわ!!それよりも
「引っ越し!?」
「でございますね。しかし先代女王の部屋ですか。」
「...どういうこと?」
アピスの話す意味が分からずにアピスを見つめる。
「殿下にお話しをするのはちょっと...憚れることですので。」
「えっ?それ、逆に気になるやつじゃん。教えてよ。」
「申し訳ございません。それよりも本日はいかがなさいますか?」
「教えてよー。もぅ!」
これ絶対に教える気がないな。
「そうしたら今日はその先代女王の部屋に行ってみるって言うのは?
内装変えてもいいなら間取りとか知りたいしダメかな?」
「かしこまりました。では手配をいたしますので少々お待ちください。」
「で、その先代女王の部屋ってなにかあるの?」
「では、失礼いたします。」
むー。ケチ!
あれからしばらくして用意が整ったらしく馬車に乗って後宮にやってきたのだけどこんなに大きかったの!?明るい時に見えた後宮は、高さは4階建てかな?ただ、中央付近の王宮と後宮をつなぐ門から建物の端っこが見えないの!!こんなに大きい建物だったんだ!!
いつも晩餐室にしか行かないから知らなかった。
後宮に入ると召使いが寄ってきて私達を案内しだした。
アピスを見上げると。
「申し訳ございません。さすがに後宮内部は不慣れでして後宮の召使いに案内させております。」
「そうなんだ。いきなり現れたから誰かと思っただけだよ。」
先代女王の部屋に行く途中、騎士が2階に上がる階段で警護をしていた。
あれっ?なんか違うような...?
「服の色が違う?」
王宮での騎士の服は確か青を基調としていたはず。今ここにいるのは白を基調として飾りも豪華な騎士服を来た人達が立っていた。
「あの白い騎士服は近衛騎士です。後宮での警備は主に近衛騎士が担当いたしますのでこれからは、よく見ることになられるかと思われます。」
2階に上がって他の階段に向かう途中に私は力尽きた。さすがにこのひ弱な体じゃ4階まで歩きは無理。もう疲れた。何でも防犯の為に階段は1階しか上がれないようになっていて内部も複雑な造りなんだってさ。にしてもさ階段、遠すぎない?
「アピス。もうダメ。抱っこしてください。」
こんな事言いたくないけど仕方ない、もう歩きたくない。
「かしこまりました。」
皆、私の足に合わせてくれて歩いていたからそれからは速かった。...ちぇ。
4階の階段を登りきるとケバケバしいほどの金ぴか廊下が迎えてくれた。
最近こんなのばっかりな気がするー。
綺麗に掃除はされているみたいでゴミどころか誇り一つ落ちていない廊下を少し進んでいくと。
モザイクなしでは見れない彫刻やいかがわしい絵画がずらりと並べてあった。
ここまでくるといっそ凄いわ。曖昧表現一切なしなんだ。はへぇー。
妙な関心をしながら周りを見渡しているとアピスにそっと目を塞がれた。
「殿下。見てはなりません。
すぐに下に降りるぞ。」
見てはなりませんって見えないし。
私を手で目隠ししたまま他の人に早口で告げアピスは多分、引き返して行った。
「執務中に失礼いたします。
リリアナ殿下付きアピス・ラナンキュラスでございます。急ぎ御用があり参りました。」
「ん。...アピスか。入れ。」
「失礼いたします。」
「どうした?このような昼に訪ねてくるなど...リリアナに何かあったか?」
「本日、お手紙をお渡ししたところ殿下がどの様な場所か見てみたいと仰られ、後宮4階、先代女王の部屋に向かいました。」
「リリアナが昼に後宮に来たのは初めてではないか?そうか。そ、う...か...!?
行った!?あのババアの部屋に!?」
「辛うじて廊下で目隠しをして引き返しましたが...」
「廊下...そうか、廊下か。良かった。」
「よくありません。いくら殿下に前世の記憶があると言われても殿下はまだ幼いのですから!
もう少々お考えを...?なぜ廊下なら良かったのですか?もしや...」
「居室や寝室はもっとヒドイ。」
「...失言をお許しください。」
「構わぬ。あれらは召使い達にすべて倉庫に入れるよう命じておこう。」
「ありがとうございます。
それから殿下が内装を考えるために見取り図が欲しいと言われておりますが、こちらはいかがなさいますか?」
「4階のみの緊急用通路を抜いた見取り図ならば構わん。」
「ありがとうございます。
あと一点ご報告が。どうやら後宮に殿下をよく思わない者達がいるようです。」
「そう断じれる理由は何だ?」
「殿下は気にされておりませんでしたが、出迎えもなくまた、四階へ向かう際はわざと遠回りをしておりました。あと、恐らくですが廊下に普段はない絵画を置いたようです。これはフォルカーが廊下の絵画をすべて動かして壁の色あせを確認いたしました。」
「分かった。それはこちらで対処しよう。」
「お願い申し上げます。」




