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あれから庭師のおじさんのオススメ場所に行くためにバラの庭園を通り抜けしてる時にふと、この間来たときに発見した不思議生物を思い出した。
「そういえばこの間ここで不思議生物を見つけたんだ。」
「不思議生物?どんなっすか?」
今は私を抱き上げるアピスとうっきー君を肩に乗せるフォルカーが私達が話しやすいように並行して歩いてくれている。リカは後ろで荷物持ち。
凄いよ。日傘と大きめのカゴを二つを一人で軽々と持ってるの。
ちっからもちー!!
「バラの影から出てきて小人みたいな姿で緑色の体にピンクの髪をしてた。見ていたら手を振ってきたから手を振り返したのにすぐに逃げられちゃったの。」
「殿下。不用意に変なものと接触しないようにお願いいたします。」
不思議生物を説明したら速攻アピスの苦言がきた。
変なものって...酷くない?不思議生物!UMAです。
「...多分、妖精じゃないっすね。」
「妖精じゃないならナニ?」
「見てないから分かんないっすけど...
リリアナが見えてアピス達は気が付かなかったんすよね?
...なら精霊じゃないっすか?」
...新しい種族の名前が出てきたよ。今度は精霊だってさ。
「えー?どう違うの?」
「全然違うっす。分かりやすく言えば、精霊は事象そのものっす。例えばあの鳥の精霊ならあの鳥という種が消えるまでの存在っす。」
「事象そのもの。...なんか凄そう。」
「古臭い精霊は森の妖精王なみに昔からいるっすからね。ただ、よくは知らないっすけど精霊は生まれ変わるって聞いたことがあるっす。」
「へー。この大陸っていろんな種族が共存しているんだね。」
「「「「「共存?」」」」
「えっ?そういう関係じゃないの?」
私が皆の驚き様に驚いていると、フォルカーが直ぐに思い違いを教えてくれた。
「申し訳ございません。『共存』という言葉を知らぬためにお答えできません。」
「あっそっち!『共存』っていうのは共に在るって書くの。この場合は共に生きるって考えるのが正解かな?」
「なるほど。確かにこの大陸には多様な種族が存在しております。これはいい言葉を聞きました!」
あれ?フォルカーなんか一人テンション高くない?
また変な事を言った?アピスは真顔だし、リカは変な顔してるし、うっきー君は頷いてるし。
私またなんかやった?
庭師のおじさんが教えてくれた場所は静かで美しい場所だった。
色とりどりのバラを通り抜けた先に大きな噴水がしぶきをあげていて、その奥には立派な生垣が緑の壁を作りだしていた。あっ、反対側に白い東屋がある。
「穏やかでいいところっすね。」
「そうだね。あっちに東屋があるから行ってみよう。
アピス、降ろして。」
「かしこまりました。転ばぬようにお気を付けください。」
「はーい。」
地面に降ろしてもらい軽い返事をしながら駆け出した。
「あっ!リリアナ!!走っちゃダメっすよー!!」
うっきー君が走り出した私を焦って追ってくる。
やーだーよー。待ったないよー。
...こんな事、前にもあった気がするような?
あれから中庭で目一杯、遊んで昼食を食べてからお昼寝をしたらもう夜のとばりが落ちる頃だった。
寝過ぎた。お腹空いた。ゴハン食べに行こう。
リカに身だしなみを整えてもらって夕食会のために後宮へ馬車で移動して歩いて晩餐室へ。
...遠い。馬車で後宮まで30分かかるって結構遠いよね。
晩餐室に入ったらもうすでに私以外は揃ってた様で急いで席に着いた。
「揃ったな。では、夕食にしよう。」
首相さんのその言葉で夕食が側仕え達の手によって運ばれ始めた。
今日のゴハンは何だろなー。後宮のゴハンは手が込んでいて綺麗に盛り付けられているから食べていて楽しいんだよね。たまにハンバーグとか食べたいくなるけど...
「リリアナ。今日は何をしてたのですか?」
私の左隣に座る天使なお兄様から声がかかった。
「今日は...そうだ!聞いてくださいお兄様。バラの庭園の奥に綺麗な噴水と緑がある場所を教えてもらったんです。今日はそこでうっきー君と鬼ごっこして遊んでました。凄く疲れたけどとても楽しかったです。」
「バラの庭園の奥?行ったことがない場所だ。
今度、僕とも一緒に行こう。その鬼ごっこってどんな遊びなの?」
「鬼ごっこは鬼役の子が他の子を捕まえる遊びです。で、捕まったら鬼役の交代です。」
「それは大変そうだね。」
「うん。うっきー君酷いんですよ!私には手の届かない木に登っちゃうの!」
「リリアナ。ルーク。その辺りで食べた始めなさい。食事が冷めてしまいますよ。」
話し込んでいたらダリオさんに食事を促され、話し込んでいたことに気が付き周りを見たら暖かな目で見る首相さん達がいた。
やっちまったぜ!!妙に気恥しくなり急いでスプーンを手に持って食べ始めた。
「本当に随分とルークと仲良くなったのだな。」
「いい事ではありませんか。父上。」
「昨日はグラッドの親父の膝に乗せられてたよな。」
首相さんが目を見張り、レオナルドさんが嬉しそうに話し、アポロさんがニヤニヤとからかってきた。
別にいいでしょ。...まだ子供だもん。
スープを飲みながらアポロさんを抗議の意味を込めて見つめた。
チッ!今日もカッコいい!!
「そういえば、リリアナ。今日は服を作るはずでしたよね?」
お兄様の左隣で優雅にナイフとフォークを使うダリオさんが口を開いた。
「...?そうですね。その予定でした。」
「作らなかったのですか?それはどうしてです?」
「どうして?...着たいと思う服がなかったからです。」
私の言葉を疑ったらしいダリオさんは壁際に立つアピスに目を向けた。
嘘じゃないよ。本当だよ。他にも理由はあるけどさ...
「発言をお許しください。
確かに殿下の好まれるお召し物はございませんでした。ですがそれ以上に、服飾ギルド長及びデザイナーの態度が目に余ったため退く事を命じました。」
「なるほど。よく分かりました。」
ダリオさんの言葉にアピスは何も言わずに一礼を返した。
「リリアナ。いいですか?報告というものは正確性というものも必要です。
今度から一からすべてを報告しなさい。」
えっ。めんどっ。やだ。
「ヤダじゃありません。」
「えっ?口に出してないよね!?なんで!?」
「「「ブッ!!!」」」
話を聞いていた首相さん、レオナルドさん、アポロさんが一斉に噴き出してむせている。
汚いなー。
「お兄様どういうこと?」
「えっと、多分。リリアナは素直ってことだと思うよ?」
私が素直?お兄様何言ってんの?
それから何度、誰に聞いてもはぐらかされてしまった。
「顔に出すぎだろ。」
「確かにな。アポロより素直とはな。」
「まったくだ。お前達二人もあのくらいの頃はとても素直で可愛らしかったのだがな。」
「いつの話だよ!っつうか兄貴!!俺が素直ってなんだよ!キモチワリィ。」
「ははは。悪い悪い。それにしても今までとまったく違うな。」
「あぁ。で?なんでわざわざ夜に呼び出したんだよ?」
「食事の席でアピスから報告があった服飾ギルド長とデザイナーを覚えているか?」
「確か、態度が目に余ったとか?でしたっけ?」
「あぁあれか。それがどうしたんだ?」
「先ほど詳細な報告書が届いてな。少々気になるから調べようかと思ってな。」
「そりゃ、兄貴の領分だ。」
「こら。俺に押し付けるな。手伝え。...また、デイジー関連ですか?」
「あぁ。苦労を掛けるが頼んだぞ。」
「分かりました。父上。」
「はぁ。了解。親父。」




