52
昨日は一日中お兄様とお話していて楽しかったー。
今まで気が付かない振りをしてたけど、今までまともに動いても話してもいないからすぐにこの体は疲れるね。まだ幼いせいか翌日には治っているけど体、鍛えなきゃなー。
このひ弱な体でいくら大人と一緒でも何も対策も立てずに王宮を出て行ったのは無謀だったわ。
反省。
最近、恒例になっているアピスから本日の予定を聞いていると服を作る件のデザイナーがもうすでに登城しているらしい。でも、待たせておくことも大事なことだから急がなくていいって言われて着替えるために衣裳部屋に連れて行かれた。
着替えながらリカにデザイナーはどんな人か聞いてみるとデイジーが贔屓をして王宮御用達の名を与えた人らしい。
「それってさ、一昨日、私が捨てた服のデザイナーってこと?」
「そうなりますね。」
「宝石とかフリルとかリボンとかそこまで付けないで欲しいんだけど...」
「ご安心を。相手はデザイナーです。
殿下のご意向が第一になりますので気に入らなければ作らなければいいだけの話ですから。」
そっか、作らないっていう選択肢もあるんだ。
「ありがとう。リカ。
デザイナーとの席には3人も同席するんだよね。」
「はい。あっ!そうでした。一つ伝えることがありました。
デザイナーとの席では殿下は話さなくて構いません。私共に耳打ちして頂ければご要望をお伝えいたします。」
「デザイナーと話すなってこと?」
「はい。王家の方が軽々しく下々に話し掛けるわけにはまいりませんので。
これが数回続いて、殿下の御用達の地位を確立すればお話をしても問題ありませんので、しばらくは御辛抱ください。」
「んー。...分かったわ!」
「大変良いお返事をありがとうございます。
さて、ご用意が出来ました。本日も大変、可愛らしいですよ。」
「ありがとう。」
今日の服は紺色のロング丈のワンピース。Ⅴネックの半袖で腰元に黒いベルトを締めている。靴は同じく紺色。髪型はまだショートで結べないから梳かしただけで、アクセサリーとして少し大きめのダイヤのネックレスをしている。
...このダイヤのネックレス落とさないよね?
リカがお勧めしたから付けてみたけど結構大きいよ。落とさないか不安になってきた。
鏡の前でチェックをしているとアピスとフォルカーが後ろに立ったのが見えた。
「ねぇ、これ、おかしくない?」
「大変可愛らしいですよ。殿下は落ち着いた装いも似合いますね。」
「可愛らしいと思います。」
アピスは綺麗に笑いながら答えてくれたが、フォルカーは真顔で答えた。
フォルカー装いにあんまり興味を示さないからね...
まだ数日だけだけど3人と話すようになって、誰が何を得意か、どんな性格か、だんだん分かってきて3人と話をしているのも楽しいんだよね。
「さて、用意も出来たし、早くデザイナーに会っちゃおう。」
「「「かしこまりました。」」」
どんな服出来るのかな?たのしみー!
今まで知らなかった事なんだけど、私の現在使用している部屋は他国の王族が来賓客としてきた時の客室なんだって。で、今いるこの部屋は王宮内で王族が商人とかの客人と会う時用の応接室らしい。
言われてみると、私が使っている部屋の方が調度品が凄い気がする。
私が一人掛け用の奥の席に座って服飾ギルドのギルド長とデザイナーが膝をつき挨拶を受けている所なんだけど、このギルド長、話が長いうえに見てると鳥肌が凄いんだけど!!デザイナーもかなり派手派手のギラギラで目に優しくないし。
いや、これでセンスあるかもしれないからね。人を見た目で判断しちゃだめだよね。
私が何も言わなくてもアピスがどんどん話を進めてくれてデザイナーが羊皮紙みたいな物を取り出してフォルカーに渡して、フォルカーからアピスに渡って私に開いて見せてくれた。
...あっ。私に渡さないんだ。
目の前で開かれる羊皮紙を見てみるとどれも派手派手。中には宝石を縫い付けて作るのであろうド派手なコートや、原色を使って描いたであろう七色のドレスとか、金のチェーンで作る予定らしい帽子が描かれていた。これはいつ使うんだろう?注目を集めるって事は出来そうだけど...チェーンの帽子は防御力あるのかな?重いだけの様な気がするけど。
反応に困り一緒に羊皮紙を覗いていたリカを見上げた。
私の視線に気が付いたのかリカが私にだけ聞こえる様に囁いた。
「これはないですよね。」
コクン
「殿下は他のお召し物をお望みです。他に案はございませんか?」
デイジーの御用達かぁ。
...この中から選んだのかな?って思っていたら、デザイナーが立ち上がって口を開いた。
「殿下はファッションがよくわかっていらっしゃらない御様子。
殿下。ファッションとは自己主張です。己を表すために気飾るのです。殿下は王族なのですから、そのような没個性のワンピースなど着てはなりません。もっと派手に!もっと優雅に!」
わー。語りだしちゃった。...没個性で悪かったな!
定番のスタイルは古くから愛されているからこその定番なんだぞ!その中でどうやって個性を出すかが楽しいんだ!!
「その点、デイジー様は田舎より出てきた最初の頃はファッションは御存じない様子でしたので、懇切丁寧にお話をしましたところ御理解頂きまして、最近ではわたくしのデザインはすべてお買い上げ頂きました。特に宝石をふんだんにお使いになったドレスが王族として気品のあるドレスだと絶賛しておられました。」
アピスを呼んで耳を近づけてもらう。
「ねぇ。あの人、大丈夫?
センス云々はおいといてもファッションは楽しむものでしょ?宝石を付けているから優雅で気品があるなんておかしいよ。優雅も気品も自分で磨き上げるものでしょ?」
私の言葉にアピスはいつもと何かが違う笑顔を少しみせた。
私が驚いている間にアピスは私をかばうように前に出て服飾ギルド長とデザイナーに厳しい態度で退出を促した。
「これ以上の殿下に対する無礼は見過ごせません。ご退席ください。」
「なっなぜ!!」
「おい、君!!私を誰だと思っているんだ服飾ギルド長だぞ。子爵家に喧嘩を売るつもりか!」
子爵家!そう言えば身分制度についてはきちんと聞いていないなー。
「服飾ギルド長でも子爵家でもここは王宮。王の御座すところでございます。
そして貴方方の前におられるのは我が国の王女殿下。これ以上無礼を働くというならば廊下で待機している騎士達を呼びますよ。」
えっ?廊下で騎士が待機してるの!?あー。王族が外部の人間と会うからか!!警護だよね。知らない所で守られてたんだねー。知らなかった。
アピスの騎士を呼ぶの言葉で事の重大さを理解したのか途端に二人とも青ざめた。
「それからまだ何かおありならば私、アピス・ラナンキュラスにどうぞご連絡を。」
「ラッ!ラナンキュラス!?...侯爵家の方でしたか。そうとは知らずに大変失礼をいたしました。」
「これ以上、殿下に御不快を与えぬように謹んでお願いいたします。」
あれれー?声だけを聞くと優しい柔らかい声なのにアピスの後姿のむこうに見える服飾ギルド長の顔色が青から白になったぞ?あと、リカが小声でアピスこえーって言ってるのは聞こえなーい。
それからアピスに脅された二人は逃げる様に出て行きましたとさ。
「殿下。脅してなどおりません。優しくお願いをしたのです。」
アピスこえー。




