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私とお兄様が二人掛けを使い曾おじい様が反対側の一人掛けソファに座りお茶も運ばれたころ、うっきー君が窓をすり抜けて入ってきた。
そういえばお兄様は空の妖精を使役してるってうっきー君が言ってたっけ?
うっきー君は声だけを応接室に響かせた。
「もう来てたっすか!リリアナ!俺のこと忘れてないっすか!?」
「忘れてないよ。今、座ったところだもん。」
ローテーブルに上がったうっきー君に疑いの眼差しを向けられた。
ヒドイ。忘れてないのに...
「ご紹介しますね。彼はうっきー君。私と契約している森の妖精さんです。」
私の言葉を合図にうっきー君は姿を現した。
何度見ても不思議。私にはうっきー君がずっと見えてるのに存在感が増したことが分かるんだもん。
「初めましてっす。俺は森の妖精のうっきー君っす。
そっちのハーフ竜人はこの間、見たっすね。」
曾おじい様は驚いた様子もなく口を開いた。...ハーフ竜人?
「この間は御挨拶もしないで失礼いたしました。森の妖精様、リリアナをいつも見守ってくださりありがとうござます。」
なんか照れるね。...こういうの。あれ?お兄様は?
お兄様に目を向けると口を開けたまま停止していた。あれ?
「...お兄様?」
手を目の前で振ってみると再起動したらしく興奮した様子でうっきー君に話し掛けだした。
「初めまして。森の妖精様。僕は森の民のマツエイのルークです。本日はゴソンガンを拝すエイヨを頂きまして光栄でございます。」
お兄様!?
なんか難しい言葉で一気にうっきー君に話し掛け続けているけど、うっきー君ほとんど聞いてないよ!!あーなんか、ユーノさんの血を感じるわー。このテンション高めで難しい言葉使うカンジ。間違いなくあの人の子供だね。そう言えば外見もよく似てるよね。
あと、視界に入れないようにしてるんだけど、うっきー君が出てきた時からお兄様の側仕えのエルフさん泣きながら五体投地で拝んでるんだけど...アピス達が対応に困ってるけど放置でいいよね?
部屋がカオスになってきたね。
...空の妖精さんはどこにいるんだろう?さっきから見えないよね?来なかったのかな?
そう思いながら室内を見回すと曾おじい様の膝の上に黒い団子が優雅?に座っていた。
いた!!なんでそこにいるのさ!!いろいろ驚きだよ!
はぁ。お茶のも。...空の妖精さんお茶いるかな?
...頼むか。飲まなかったら私かうっきー君が飲むでしょ。
「アピス。お茶をもう二つお出しして。」
「かしこまりました。」
曾おじい様に目を向ければお兄様の暴走には慣れているらしく優雅にお茶を楽しんでいた。
...私もお茶のも。
カップを持ち上げようと手を伸ばしたらうっきー君が膝の上に飛び乗ってきてお茶を強請った。
「リリアナ。俺のお茶は!?」
言いながら私を揺すらないでお茶飲めないから。
「今、アピスに頼んだからもうちょっと待って。」
「分かったっす。」
「空の妖精さんもお茶を飲みますか?」
もう頼んでしまったが一応、曾おじい様に膝の上の黒い団子Ⅹに声を掛けてみた。
「リリアナは空の妖精様が見えるの?」
お兄様が驚いたように問い掛けてくる。
「?お兄様は見えないのですか?」
「リリアナは珍しいって言ったの覚えてないっすか?妖精を見えて話せるってのは本当に珍しいっすよ。」
「そうなのですね。僕は話せるだけだから空の妖精様のお姿は見たことがないんだ。」
悲しそうに眼を伏せるお兄様。
悲しんでいる時もまたイイケド...やっぱり笑顔がいいよね。
それに姿を現してくれるようにお願いすればいいだけだし。
「あの、空の妖精さん姿を現して戴けませんか?
お飲み物や森の妖精王から頂いた果物もありますのでどうかお召し上がりください。」
もう一度声を掛けてみたが...
反応なしか。どうするべきかと悩んでいると...
ーふん。お前が森の妖精王に祝福を受けし者か。何の取り柄もない小娘ではないか!!物で妖精を釣ろう等と片腹痛いわ!!
誇り高き妖精の恥さらし共め!-
妙に高い声で人を小馬鹿にする言葉が聞こえた。
「そうでございますか。空の妖精様は人の食べ物などお召し上がりにならないのですね。」
こんな奴!来客としておもてなしなんかしてやんない!!
一人で指くわえて見てろ!!フン!!
「リリアナ何事ですか?」
パッションピンクなゾウさんが寝室の壁をすり抜けて空中を漂いながらソファにやってきた。
「うるさくてごめんね。起こしちゃった?」
「いいえ。目が覚めました。
挨拶がまだでしたね。おはようございます、リリアナ。」
「おはよう。スイキン。何か食べる?」
ローテーブルの上に着地して曾おじい様に鼻を上げて挨拶をしたスイキンに聞いてみた。
「では、ジュースと昨日、森の妖精王から頂いた果物をもらいましょうか。」
「むっ?森の妖精王様がいらっしゃっていたのか?」
スイキンの言葉に曾おじい様が反応した。
「いいえ。森の妖精王はいらっしゃってません。
数日前から気が付くと部屋の何処かに果物かジュースの入ったカゴが置かれていて森の妖精王が贈ってくれたのだろうとうっきー君達が言ってました。」
「そうなのか。リリアナの事と言い、森の妖精王様には何かお礼をしなければならないな。」
お礼...確かに。でも、何がいいんだろう?
「そうですね。曾おじい様、何かいい物を知っていますか?」
「...難しいな。相手は森の妖精王様だ。下手な物はおろか人の価値のあるものでも失礼に当たる可能性がある。」
「エルフでは森の妖精王様に捧げるのは酒や果物らしいのですが...」
お兄様が自信がなさそうに口に出した。
「ルーク。それは信仰としての捧げものだ。リリアナはお礼を渡すのだ。」
「贈り物ですか...難しいですね。」
スイキンまで一緒に悩んでくれた。ありがとう。森の妖精王が喜ぶことかぁー。
「失礼いたします。お茶のおかわりと果物をお持ちいたしました。」
「ありがとう。アピス。」
アピス達がいろいろな物を配っていく最中、またもや妙に高い声が今度は室内に響いた。
「私に森の妖精王のジュースと果物をすべて寄こすのだ。」
「空の妖精様!!」
その声にお兄様が驚いたように立ち上がり周りを見渡したが声を出した黒団子Ⅹはもうすでに食べる準備万端の様子でローテーブルに移動していた。
「お兄様。ですが先程、私は空の妖精に物で釣るなと叱責をされました。
まさか、森の妖精王から頂いた果物、欲しさに姿を現すなどそのような事は誇り高き空の妖精様に限って有り得ない事かと。」
先程の若干のイラつきを思い出しお兄様に与えるは必要ないと言ってやる。
「リリアナ。そんなに怒らないでください。」
「そうっすよ。空のってそんなカンジっすから。」
私の怒りを感じたのか二人になだめられた。
「そんなって、初対面の相手を小馬鹿にして皆を馬鹿にすることが?」
「「そうですね。/そうっすね。」」
二人揃って大きく頷くってそれはそれでどうなの?
「空のとっとと出てくるっす!じゃないと果物あげないっすよ!!」
うっきー君がローテーブルにいた空の妖精に話し掛けると空の妖精の存在感が増した。
なんというか黒団子?太り過ぎの人型っぽい姿で黒いツンツンヘアーで黒い服を着ている2頭身。
大きい黒団子が二つ串に刺さったような姿だった。
...甘いモノが食べたいな。
「あっ!!森の妖精王へのお返し前世のお菓子はどうですか?」
「なんで俺を見てお菓子の話になった!!」
私の発言に叫ぶようにつっこみを入れたのは空の妖精さん。
「団子に似てたからです。悪気はないのでご容赦ください。」
悪意はあるけどね。
「団子ってなんだ?」
なんか言ってるけど無視しよう。話が進まない。
「それよりも森の妖精王からの頂きものですがどうぞお召し上がりください。」
私の言葉か合図になったようで皆が思い思いに手を伸ばし始めた。




