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フォルカーさんによりお茶がローテーブルに運ばれて来たら早速アピスさんが口を開いた。
「では、まずはこの国の事をお話しさせて頂きます。」
私一人は大きいソファに座らせて、アピスさん達は近くに立ったままで話す気だ。 ...どうしよう。気になる。
いいや!好きにさせてもらおう。
「ちょっと待って。アピスさん達も座って。」
えー。なんでそこで二人で顔を見合わせて相談するのさ。
「殿下。私共は殿下の側仕えです。
マナーとして殿下とお席を共にすることは出来ません。」
...マナー。...あぁ、そっか。
マナー云々の事は分らないけど、席を一緒に出来ない理由は何となく想像がつく。多分、身分制度があるからだよね...?
でもさ、立たれていると気になるんだよね。
「でも、今回は側仕えというより教える立場だから問題はないんじゃないの?」
「殿下。マナーですので申し訳ございません。」
むー。アピスさんこの間は座ったくせに...大袈裟作戦で行くか。
燃えよ!あるかもしれない女優魂!!
「お願いします。
私は前世、一般市民でしたから教えを乞う際に立たせているなど、とても心苦しくて気が咎めるのです。」
そう大袈裟に話した後、少し悲し気に顔を伏せてみた。
「...仕方ありませんね。今回だけ特別ですよ。」
やったね!捨てたもんじゃないね。私の女優魂!!
渋々だけどアピスさんが頷いてくれた。
「ラナンキュラス様ですが!」
でもそこに待ったをかけるフォルカーさんがいた。
えー!!そこは頷いておきなよ。私の女優魂が頑張ったんだからさー。
「フォルカー。今はまだマナーよりも殿下に多種多様な物事を御理解を頂くことが先決だろう。」
どう説得しようか考えているとアピスさんがフォルカーさんの説得を始めてくれた。
現在、私の中でアピスさんの株が上昇をし続けております。
さっすが完璧王子!いーい仕事しますね。
この方、外見だけのダメ男じゃないんです。中身もそろっているんです。
よっ。完璧王子!
なんてくだらない事を考えている間に説得は終了したらしい。早いね。
「では、どうぞ。お座りください。」
手で示せば二人とも向かいにある一人掛けのソファに座ってくれた。
「では、まずこの国の事をお話しさせて頂きます。国の名はジャノヒゲ女王国で最高位者に女王陛下を有する君主制の国になります。場所は大陸の東側に位置してこの大陸では一番の大国です。そしてこの大陸では女性の人口が少ない為に女性は優先的に保護をされます。以上になります。」
一息で言ったね。
...アピスさん。教える事には向かない人なのね。さすがにフォルカーさんも驚いたらしくアピスさんを凝視してるよ。
...うん。前世があってよかった。濁流の様に説明されてもなんとか理解できてる?
アピスさんの言葉を脳内で反芻していると疑問が湧いてきた。
「えーと。聞いてもいいかな?
首相さんも確か『私が55年ぶりの女児』とか言っていたけど女性はそんなに少ないの?」
「はい。王家においては先代女王の御生誕以降殿下が御生誕なさるまで55年間女児は生まれておりません。故に殿下は王家で唯一の女性となります。」
そんなにいないんだ。...?あれっ?唯一?私の母親は?
「...ねぇ、私の母親は?」
私の問いにアピスさんが息を飲み私の顔を見ながら慎重に話し出した。
「現在、殿下の御母上様、デイジーは罪人として収監されております。」
「・・・えっ?罪人!?なんで?」
「離宮に騎士団が入ったことにより過去の犯罪が明るみに出ました。」
「犯罪って何を...あっ、誘拐!!」
「はい。誘拐事件もございました。」
...一度しか見たことは事ないけど凄い性格してたもんね。
も?
「誘拐事件もって他にもあるの?」
「ございますが...まだ殿下にお伝えするには早いかと...」
短い間だけどアピスさんが私の質問に対して口を濁すのは初めて見た気がする。
...言いにくい事を聞いてごめんね。
それでも、血のつながった母親なんだから、『知らない。』はしたくない。
「アピスさん。言いにくい事かもしれないけどすべて教えて。
一度しか見たことはないし、デイジーの事は何も知らないけどそれでも母親なの。あの人が血のつながった母親なの。
お願い教えて。」
「殿下。...かしこまりました。」
それからアピスさんに聞いた話は私がした離宮破壊や王都に下りたことの裏側の話だった。
首相さん、ダリオさん、レオナルドさん並びに騎士団の皆様。
すみませんでした!!!!
いや。まさかね。裏でそんなこんながあったとは。マジすみません。
デイジーの離宮に騎士団を踏み込ませるって事は政治的にも文化的にもすべてを敵に回しかねない程の大事だったんだって、でもその結果、殺人、横領、奴隷売買、国家反逆罪等いろいろな犯罪の証拠が出てきたらしい。
現在は裁判中なんだけど他国への逃亡の恐れから収監されていてるんだって。
それから首相さんとデイジーはすでに離婚をしているから首相夫人じゃないんだってさ。
そして私とデイジーが起こした一連の出来事を首相さん達と騎士団の皆様はここ数日前まで不眠不休で片付けていたらしい。
「すみません。まさかそんな大事になるとは思わず...」
騎士団の人達どんなに忙しくても毎日、この部屋も警護してくれていたんだね。
本当に頭が下がります。
そんな思いを抱いて小さくなっているとアピスさんから容赦のないお言葉が飛んできた。
「反省をなさるなら今後は実行する前に一言ご相談をして頂けますようにお願い申し上げます。
それから殿下は王族にで有らせられます。私共や騎士達は仕える身でございます。どうか私共に敬称等は付けぬよう、頭を下げぬように併せてお願いいたします。」
何となく分かってはいたけど、ついね『すみません。』って口から出ちゃうんだよね。
「...はい。分かりました。」
そういえば騎士団に女性の方に...謝ってはいなかったよね?大丈夫だよね?
少し前の事を思い出そうとしているとアピスさんが私の考えを呼んだように言い当てた。
「もうすでに何かをされたのですか?」
...なぜバレた?そしてやった事が前提なの?
その言葉に少しバツが悪くなりながらも正直に話した。
「朝、起きた時にいた女性の騎士様と少しお話をしたことがありました。」
「騎士に様はいりません。
しかし、女性の騎士ですか。...知っているか?」
アピスに心当たりはないようでフォルカーに話を振った。
「知りません。そもそも騎士団は規律で女性は入団出来ないのではないですか?」
フォルカーさんがすぐに答えた。
「殿下。その女性の事をもう少し詳しくお教え頂けますか?」
「えっと、明るい茶髪の優し気な雰囲気の方で声は少し低いのかな?
初めてお会いしたのは王都の宿屋から帰る馬車の中で、次に会ったのは朝、応接室に行ったらお茶を入れてくれて、その時に少しだけお話をしました。」
アピスとフォルカーが少しだけ考えだして先にフォルカーが思い至ったらしく口を開いた。
「殿下が女性と仰った方は男性です。副騎士団長です。」
「え?ええええええ????
男性!?あの人、男の人なの!?すっごい美女だったよ!!」
前世の記憶なら間違いなく世界の美女レベルだよ!!
男!?あれが!?
「はい。男性です。確かに整った顔立ちをされているお方ですが、副騎士団長です。見た目通りの優しいお方ではありません。
それから、このことは副騎士団長の前で決して仰ってはなりません。」
ぉう。...何だかよく分かんないけど恐ろしい事になるのは分かった。
「さて、ではそろそろお話を戻させていただきます。」
戻すってどこに?
「デザイナーの件になりますが、ワンシーズン90日、お召し替えの御衣裳も含めると150着ほどの御衣裳が必要かと思われますが、いかがいたしますか?」
「90日で150着!?そんなにいらないです!
...オシャレは好きですけど。でも、そんなにいりません。」
「...失礼いたしました。女性は毎日違う服を着なければならないと思っておりました。」
なんでそんな風に思ってんのさ。
「そういう人もいるかもしれないけど私はそこまで必要ありません。
そうですね。とりあえず衣裳部屋にある服を仕分けしませんか?」
「仕分けでござますか?」
「はい。どんな服が何着あるか分からないと決めようがないですから。」
「かしこまりました。では、作業の為に召使いを連れて参ります。」
アピスはそう言ってから一礼をして応接室から出て行ったのをソファに座ったまま見送った。
「...召使いってなに?」
フォルカーの滑った音がどこからか聞こえた気がした。




