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「まず、リリアナ今まですまなかったな。」
首相さんがゆっくりとした調子で話し出した。
「デイジーの離宮でそのようなことになっているなどと思いもよらぬことだった。
だが、そなたが無事で本当によかった。
これからそなたは王族となる。
なんぞ分からんこともあるだろう。困ることもあるだろう。迷い悩む時もあるだろう。すべてを叶えられるという訳ではないが父としてできうる限りの力になろう。
本当に無事でよかった。」
...?
首相さんは私の無事を喜んでくれているみたいだけど...
ケガしてないよ。
デイジーの離宮での話?
別に物置にほっとかれただけで何をされたわけではないし。
誘拐もされてないし。むしろ自分で出て行ったんだけど...?
魂の話でもないだろうし...
今、首相さんの言葉に困って悩んでます。ってのも...
あっ、そうか!
「無事を喜んでくれてありがとうございます。
あの、では、どうすれば王族をやめられますか?」
ん?なんか間違えた?
首相さん達ピシリッて感じで止まっちゃったよ。
「リリアナは王族をやめたいのか?」
首相さんが先程よりゆっくりと問い掛けてきた。
「はい。」
はっきりしっかりと首を縦に振り頷く。
「リリアナ!貴方は言っている事の意味を分かっているんですか?」
ダリオさんが横から口を挟んできた。
「ダリオ。私がリリアナと話しているんだ。」
「すみません。」
さっきまでの聞き取り調査でダリオさんに丸投げなのかと思ったけどちゃんと首相さんなんだね。一声でダリオさんが黙ったよ。
「やめてどうするのだ?」
「世界を見て回りたいです。」
「王族であっても世界を見て回ることは出来るぞ。」
「でも、一人で自由気ままに旅は出来ないですよね。」
「...それは、...確かに、出来んな。
だが、降籍の許可は出せん。」
はっきりとした声で拒否された。なんでさ。
「理由を聞かせてもらってもよろしいでしょか?」
ダメもとで聞いてみる。
「まず一つ目。我が国は女王国。
次代の王位継承権を持つ者を簡単に降籍はさせられん。
二つ目。そなたは被害者だ。
何の理由もなく非もない者を降籍をさせられん。
三つ目。幼すぎる。
リリアナ。まだそなたは3歳だ。以上が理由だ。
それにそなたは女性だ。もし、降籍が出来たとしても一人で自由気ままに旅をすることは難しいと思うぞ。」
王.位.継.承.権?マジか。落ち着けー。考えろ。
二つ目の被害者って...デイジーの件?だよね。
三つ目は確かに。私も3歳児が自由気ままに旅したいって言ったら全力で止める。
ん?待てよ。そなたは女性だ...?
「この世界の女性は旅が出来ないのですか?」
「出来ないわけではないが、女性が旅をする時は共に護衛を連れて馬車で移動するのが普通だ。
この世界では女性は大事にされるものだ。出生率も低く、成人するまでに病気になる率も高い。出産で命を落とす可能性もある。だからこそ、家の中で大事に育て守るのものなのだ。
リリアナ、一人で自由気ままに旅などと決して許可できんぞ。」
はっきりと不許可頂きました。
「旅の不許可の理由は分かりました。
では、王位継承権の放棄も出来ませんか?」
「「「「「なっ!!」」」」」
「出来ん。夕食会の席でも話したがそなたは王家にとって55年ぶりの女児だ。
空席の王位に就く者権利を持つ者は今この国ではそなたしかおらん。
旅に出たいなどという理由で継承権の放棄を認めるわけにはいかない。」
...私しかいない...?えっ?何それ。
55年ぶりって出生率低すぎない?どれだけ女性いないのさ。
「ツヴァイ。リリアナ。今、決めなくてもよいのではないか?」
リドラス曾おじい様が穏やかな声で私と首相さんに言い聞かせるように言った。
「ツヴァイ。リリアナが王位に就くかはこれからゆっくりと大臣達を交えて考えていけばいいのではないか?成人まであと12年もある十分な時間だろう。
リリアナ。お前はまだ3歳。旅に出る出ないに関わらず成人までは家で過ごしなさい。
それでどうだ?」
「おじい様。」
首相さんは曾おじい様に言われて納得したらしく大人しく椅子に座りなおした。
確かに私はまだ3歳。成人までっていうのも頷けるけど...
「リリアナ。家に居たくはないか?」
曾おじい様の一言に驚いて顔を上げた。
「あっ。えっと。あの。」
曾おじい様の言葉はあまりにも胸中を言い当てていて言い淀む。
「...無理もない。今のお前にとってツヴァイは血のつながった他人であろう。たった数回会っただけの者を父とは家族とは呼べんよな。
リリアナ。無理も我慢もしなくていい。だが、ゆっくりでいい家族になろう。少しづつでいいお前の好きな物や嫌いな物を教えてくれ。私もお前に教えるから。」
...曾おじい様の優しい言葉に戸惑っていると。
「...そうだったな。まだ、たった数回しか会っていないのだったな。
リリアナ。急いですまんかった。」
首相さんがそう言って私に軽く頭を下げた。
驚いて固まっていると、私を膝に乗せている森の妖精王に頭を撫でられた。
「俺からもすまんな。少しお前の父をいじめすぎたようだ。」
さび付いたブリキの様にゆっくりと森の妖精王を見上げた。
いじめ過ぎた...?
ちょっと!いじめすぎたって何?何をやったのさ!相手は首相さんだよ!!
「やっあの、別に気にしてないです。...あの、森の妖精王がすみません。」
私も頭を下げた。もうね、それしか言えない。
森の妖精王がほんっとすみません。
「では、成人までは王家にいるということでよいな?」
曾おじい様にまで言われちゃったしね。...
「分かりました。よろしくお願いします。」
そう言って今度は深く頭を下げた。
あれからしばらく雑談をして首相さん達は帰っていった。
帰り際に夕食を一緒に食べようって誘われた。
夕食会は単純に後宮に王家の人間が集まって食べてるからそんな名前が付いたんだって。正式なモノではないから出席は自由だけど、仲良くしたいからおいでって。
...最初からそう言って欲しいよね。
それからドレスは好きな物を作っていいって。あの衣裳部屋にある服はデイジーの好みから商会に集めさせたものなんだってさ。だから気に入らなければ着なければいいって。簡単に言われた。
あと、王宮内での外出は自由だけど、演習場とかのほうには危ないから行かないようにって。街へは護衛の問題もあるから申請制で大きくなったら許可するってさ。
今日の話し合いで決まったことはこんなカンジかな?
曾おじい様の言う通りゆっくりと家族になっていければと思えた日だった。




