41
今日が来た。
とは言っても面会をするのは昼頃だからなにしてよう?
今日の服はあの衣裳部屋から発掘したオレンジ色のロング丈のワンピでお腹の所に大きなリボンが付いているタイプ。スカートの裾の部分にはフリルが付いているから気を付けて歩かないと踏んで転びそうだけど勝負服はやっぱり派手なのがいいよね!
あの衣裳部屋にあるのすべてロング丈のスカートしかないんだよね。ボトムとか膝丈スカートとかの文化ないのかな?あと着ようと思う服なさすぎ。
着替えが済んでどうしようかと思っているとアピスさんに呼ばれた。
「失礼いたします。リリアナ殿下。
首相からご連絡がございまして、予定を早めてもよろしいでしょうか。」
早める?昼前になるって事?
「いつくらいになるのですか?」
「それが...今すぐにでもと言われまして。」
今すぐ!?早すぎない?用意は...あっ、終わってるわ。
ーいいんじゃないっすか?早くやったほうがあとでのんびりできるっすよー
うっきー君。...それもそうだね。
「分かりました。どこへ行けばいいですか?」
「殿下はこのままで。こちらに首相がご訪問くださります。」
...来るのかよ!!
コンコン
来た。来ちゃった。落ち着け―深呼吸。吸って―吐いて―。
「リリアナ殿下。首相がいらっしゃいました。」
「お通ししてください。」
私も立たなくちゃ。私もソファの横に立って入ってくるのを待つ。
「面白そうなことをやってるな」
...いきなり隣から声が聞こえた。この声は...
「森の妖精王!!」
なんで!?びっくりしたぁ!!
室内に入ってきた首相さんが森の妖精王に目を向ける。
「これは、森の妖精王様。ここは我が国の王宮の一室ですがどこかとお間違えでは?」
首相さんが丁寧だけど探る様に森の妖精王を見てる。
「貴殿が森の妖精王ですか。私はリリアナの曾祖父リドラスと申します。
曾孫が世話になったみたいですな。」
あっれー?最近見てなかった曾おじい様もいる。
てか人多くない?子供相手に何人で来たの?椅子足りるの?
あと、これだけ入っても余裕なこの部屋ってわかってたけど広いね!
なんて現実逃避をしている間に森の妖精王と曾おじい様のなぜか聞いている方が寒くなる会話が続く。王族こわっ。
「して、森の妖精王は本日は何用でこちらへ?」
「俺が祝福を与えた子に会いに来て何が悪い?」
見定める様に問う曾おじい様と悪びれずに答える森の妖精王。
まだ続くのかなこれ?
「ん?飽きたか?」
頭撫でるの好きだよね。
今日は気を使ってか優しく髪を乱さないように撫でてくれた。
「別に飽きてないよ。ただいつまで続くのかなって思ってさ。」
「ははは。すまんな。退屈だったか。」
森の妖精王は私を抱き上げソファに座った膝の上に私を乗せた。
抗議を込めて見ていると。まったく悪びれずに
「椅子が足りないと困るからな。」
「...確かにそれは困るね。」
ひとり言聞いてたな。
私達が座ったので首相さん達が空いている席に座る。
「リリアナ今日は土産を持ってきたぞ。ほら、これ。」
「あっ。花のジュースだ。ありがとう。」
素直な感謝が口からでる。これほんっとに美味しいからね。
どこからか取り出したカゴに入っていたのは森の妖精王の城に遊びに行ったときに飲んだ花の蕾。これ、飲んでもいいかな?美味しいんだよね。
「俺も飲みたいっす」
「ワタクシの分もよろしいですか?」
ローテーブルの上にスイキンとうっきー君が出てきてジュースを欲しがる。
もしかしたらお茶を用意してくれているかもしれないけど飲んじゃお。
スイキンとうっきー君に蕾を手渡していくと蕾がグラスの形で花を咲かせる。
「えっと、飲みますか?」
首相さん達にも飲まないと思うが聞いてみた。
「よろしいのですか!?」
一人テンション高めで聞き返してきた。誰?
「は、はい。どうぞ。」
腕が短いので蕾を届けようとしたら森の妖精王がテンション高い人に蕾を投げた。
投げたよ。この人イイの?
「かまわん。」
しばらくして紅茶もすべて運ばれてきた。これで準備完了。
口火を切ったのはダリオさん。
「リリアナ。今までと違い話せるようで安心しました。
本日は今までの経緯とそちらの方について伺いたくて訪問をさせていただきました。
話していただけますか?」
優しく丁寧な口調だけど目が一切笑ってないね。隙あらば切るってか?
「話せと言われても...なんのことだか。」
今までの経緯ってなに?
「話していただけないと?」
いや、だから何について?
「おい、お前。」
今まで黙って花のジュースを飲んでいた森の妖精王が口を開いた。
「リリアナに腹芸なぞ出来んぞ。本当に何も分かってないからな。」
...腹芸?踊る方はやったことないな。ってボケてないで。
これは出来ないほうの腹芸のことだね。うん。出来ない。私、とても素直。
「で、なんの経緯ですか?」
首をかしげながらダリオさんに聞いてみた。
「ゴホン。では、順番に行きましょう。
まず、リリアナ、貴方は生まれてから連れ出されるまで離宮から外に出たことはないですね?」
「記憶にある限りではないです。」
「フィリップがあなたの世話をしていたと聞きましたがそれはどうですか?」
「そうですよ。いつも物置にフィリップがご飯を持ってきてくれて一緒に食べて一緒に寝てました。」
...フィリップ、元気にしてるかな?...会いたいな。
「離宮破壊事件があった時は何をしてましたか?
「...物置にいましたよ。ご飯を食べていました。」
「もし、よろしいですか?」
スイキンが鼻を上げてアピールした。何を言うつもり?まさか...
「その離宮破壊事件とは水魔法で壁を壊した件ですよね?でしたら。
それをやったのはワタクシです。」
あっさり言っちゃった。スイキン捕まったらどうしよう。
...それを依頼したの私だから主犯は私か!!
「あの、でも。それは。えっと。」
焦ってうまく言葉にならない。
「リリアナ。落ち着きなさい。」
首相さんに落ち着いた声で言われて、森の妖精王がジュースを手渡してくれた。
一口飲んで落ち着くと今度はちゃんと話せた。
「ありがとう。
名前は知らないんですけど、乱暴な貴族の人が物置に押し入ってきてフィリップを殴りつけて、私も殴られそうになったりして、ナイフを持ってフィリップを押し倒したのでスイキンに頼みました。」
「やってやりました。」
ニッコリ。どや顔で鼻を上げるスイキン。
やり過ぎなのは確かなんだけどね。
チラッと付いてきた人に目配せしたね。速記してるのかな?
「...そうですか、では続いて貴方が王宮からフィリップとどうやって消えたかです。」
「それは...」
私が答える前にスイキンがまた口を開いた。
「それもワタクシですね。」
ニッコリ。どや顔で鼻を上げるスイキン。パートツー。
それ気に入ったの?
「と言いますと?」
「えっとフィリップにおんぶしてもらってスイキンの魔法?能力?で消えて走って出て行きました。」
あの地下通路は言いたくないから出来ればこれで。
「音は消せないので水音で誤魔化しました。」
「まぁ、いいでしょう。ではそちらのスイキン様は今の内容に相違ございませんか?」
少し探る様に見つめられたが許されたらしい。やった!
「ええ。間違いありません。」
しっかりと力強く頷いてくれた。
「...失礼ですが、なぜリリアナと物置におられたのでしょうか?」
「なぜ?リリアナは生まれた時からずっと見守ってきた子だからですね。」
そうなんだよね。さすがに赤ちゃんの時の記憶は朧気だけど、確かに物心ついた時からカラフルアメーバがずっと室内にいた。なんか懐かしいな。
カラフルアメーバのスイキンを思い出しているとまた森の妖精王に頭を撫でられた。
頭、撫でられるの好きだから別にいいけどさ。撫ですぎじゃない?
「ありがとうございました。海の妖精様にお話を聞けるとは光栄の至りでございます。」
わぁー超丁寧。そんな言葉すぐに出てこないよ。妖精って偉いの?
「別に偉くない。人が勝手に崇めるだけだ。」
森の妖精王がいきなり声に出したから首相さん達が驚いている。
「そうなんだ。なんかごめん。あまりにも丁寧な対応だったからさ。」
「かまわん。まぁ怒りを買わん様にするのは間違いではないがな。」
「どういう...待って、自分で考える。なんか出てきそう。」
「いいぞ。考えて見ろ。」
すべての答えをもらっても面白くないし、考えることを放棄しちゃいけないよね。
「...分かった!災害だ!
海の妖精は津波。空の妖精は嵐。森の妖精は...何?」
「惜しかったな。森の妖精は飢饉だ。」
「ダメじゃん!...えっ?敬語使った方がいいの?」
「今更すぎるぞ。」
「それもそうか。」
もうすでに結構やらかしてるのに今更取り繕ってもねぇ。
「仲良しですね。」
「仲良しっすね。」
スイキンとうっきー君の温かい目と首相さん達の丸い目で見られてなんかいや。




