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あれからいつの間にか寝てしまったらしく次に起きたのは夕日が差し込む頃だった。
ソファに横たえて寝かされていた私の上にはフワフワモコモコな厚手のブランケット。誰が掛けたんだろ?
朝はよく寝たと思ってたけどまだ寝れるんだね。でも、さすがに寝過ぎかな?
ーそんなことはないっすよ。死にかけてたんだから休まなくちゃダメっす。-
実感はないけどね。
私の隣でくつろいでいたうっきー君の頭を撫でた。
ーリリアナはそうかもしれないっすけど、体が悲鳴を上げてるのは本当っす。
回復には、よく寝てよく食べることが一番っす。ー
...この間、起こさなかった?
ー起こしたっすよ。人は食事をしないと死んでしまうんすよね?だから起こしたっす。-
なるほど?まぁいいや。健康的な生活をすればいいんでしょ?
ー健康的な生活?-
あー。朝起きて、食べて、飲んで、寝る。みたいな?
ーそんな感じっす。-
あっ、言い忘れてたけど、おかえりなさい。
ーなんすか?それ?-
...帰った時の挨拶だよ。うっきー君はただいまって言うんだよ。
ー挨拶っすか!それは言わなくちゃダメっすね。
ただいまっす!-
おかえりなさい。
「お目覚めですか?リリアナ殿下。」
起きたことに気が付いたのかアピスさんが声をかけてきた。
「うん。起きました。」
ブランケットを軽く畳もうとしたけど、腕が短い!
仕方なくソファを降りて畳もうとするとアピスさんに止められた。
「殿下。そのようなことは私共がやります。」
いや。使った物を片付けるだけだよ?それもダメなの?
「片付けるだけだよ?ダメなの?」
「そのような些事は私共がいたします。どうかごゆっくりお過ごしください。」
手早くアピスさんにブランケットを回収された。あーフワモコがぁー!!
...ゆっくりって昼から今まで寝てたからどうしよう。
もう夕方だし。部屋から出ちゃいけないみたいだし。
やることがなくて部屋の中をウロウロと窓の近くまで行くと...
「あれ?...リラの木がない。」
応接室の右側の窓から見えた庭にあるリラの木がなくなっていた。
...なんで?木だよ。普通なくならないよね?部屋を移動した覚えもないし。
分からないなら聞いた方が早いか。
「ねぇ。誰...」
後ろを振り返りながら呼ぼうとするとすぐ後ろにアピスさんがいた。
ビッグゥゥゥ!!
おっどろいたぁー。誰か叫ばなかった私を褒めて。...なにずっと見てたの?
「いかがなさいましたか?」
いつ見ても素敵な笑顔ですね。アニメならキラキラしてそうだよね。
「この窓からリラの木が見えたのになくなっていて、何か知らないですか?」
アピスさん背が高いね。上向いているからこれ、首痛くなりそう。
「リラの木ですか?」
「そう。あの辺りにあったハズなんですけど...」
リラの木があった辺りを指さした。
少し考えたアピスさんはやっと答えに行きついた様で口を開いた。
「あぁ。そういうことですか。
一昨昨日とこの部屋は棟が違いますからリラの木は見えませんよ。」
「...へっ?私、移動したの?いつ?」
たっぷりと間が開いた後、被っていた猫がずり落ちた。
やっちまったぜ。お姫様だから上品にいこうと思っていたのに。
ーそんな無駄なことしてたっすか。ー
そこうるさい。
アピスさん驚きすぎてない?瞬き多いし。綺麗な顔してるし。まつ毛なが。
ー残念にもほどがあるっすね。ー
「残念って言うな!」
ー思いっきり口に出してるっすよ。ー
ぎゃーーーー!!あわわわわどうしよう。どうしよう。
ドキドキしながらアピスさんを見上げると少し笑ってる?
それを見た瞬間、息も、心臓も止まった気がした。
「まだ御快復はしておられない御様子ですね。
ここは冷えますのでソファでお待ちください。お茶をお持ちいたします。」
アピスさんがお茶を入れに少し離れてからようやく口が動いた。
「...あっ。はい。すみません。」
間近で見るイケメンの笑いは心臓に悪い。なんか凄いの見た。
ーお茶飲むなら俺も飲むっす。ー
...一気に日常に戻さないでよ、この余韻を楽しませてよ。
ーお茶ぁ。ー
「はいはい。アピスさん。お茶は三つ頼める?」
「かしこまりました。」
ースイキンも起こすっすか?-
わざわざ起こしちゃ可哀そうでしょ。アピスさんを誘ってみようかと思ってね。
望む答えとは限らないけど、いろいろ知りたいからね。
何を聞こうか。そんなことを考えながらソファに移動した。
低いソファだから一人で座れるので座ってうっきー君とお茶を待つ。
ちなみにうっきー君はローテーブルの上にいる。
「お待たせいたしました。」
アピスが紅茶をローテーブルに置いていく。
「待ってたっす。」
そう言ってうっきー君の輪郭がはっきりとしてきた。
不思議だよね。私の目にはずっとうっきー君が見えているのに他の人達は今みえる様になったんだから。
アピスさんもいきなり出てきたうっきー君を凝視してる。
「ねぇ。アピスさんもお茶を飲まない?」
「殿下。...では、ご同伴をさせていただきます。」
「どうぞ。」
口で勧めればアピスさんはは私の対面の一人用のソファに腰かけた。
さて、なにを聞こうかな?
「殿下。この...方はどなたでしょうか?」
考えていると先にアピスさんがうっきー君を示しながら聞いてきた。
...そういえばアピスさん達には説明してないね。
「うっきー君っす。」
自己紹介し出したけど、それだけなの?私の時もうちょっとあったでしょ。
「森の妖精王の配下でうっきー君。森の妖精さんです。」
追加で紹介しておく。てか、それ以外知らない。
「一つ忘れてるっすよ。リリアナ。」
「えっ?何忘れてたっけ?」
「リリアナと契約してるっす!!それを言わなきゃだめっすよ。」
「あぁ。」
思わず手のひらを打ってしまった。
「また、忘れてたっすか?」
「わ、忘れてないよ。...ただ、その契約ってよく分からなくて?」
室内にいるすべての人達の視線が刺さってる気がする。
「...その様子だとスイキンは教えてないっすね。
それじゃ俺が教えるっす。森の妖精講座っす!」
うっきー君がローテーブルの上に立って白衣と博士帽をかぶりだした。
「...それ、どこから出したの?」
「ん?出してないっすよ。服と帽子も魔法で作っただけっす。」
魔法!?っすっごー。楽しそう!!
「魔法に興味を持つ前に妖精の事っす。うっきー君の妖精講座始めるっすよ!!」
「よろしくお願いします。」
「まず、今までのおさらいっす。
妖精は形はなく、実体もなく、個もない。大いなる流れの存在っす。ここまでは大丈夫っすね。」
「うん。世界を動かす力の流れそのもので、力の流れだから形はないし、一つの流れだから別々に見えてても同じ存在なんでしょ?あっあと普通、見えない。」
「そうっす。それでもって死というものもないっす。」
「あれ?世界の力の流れだから世界が終わらないと死なないって言ってなかった?」
「それは森の妖精王の話っす。森の妖精王は力の核だから世界が終わるまで何人にも殺せないっす。でもって、妖精は死ぬんじゃなくて消えるっす。」
「...消える?」
「消えて世界の流れに帰るってことっす。」
「...へぇ。」
イマイチわからない。
「理解できなくてもそんなもんって思っておけばいいっすよ。
それで、今日のテーマは契約っすね。
契約とは古の契約に基づいていて人が妖精に名と個と形を与え妖精が人を守護を与える約束事のことっす。一度契約したら破棄は出来ないっす。契約すると妖精と人につながりが出来て妖精に人の事が分かる様になるっす。」
「えっと、うっきー君と契約したからうっきー君が出来たってこと?」
「まぁ、そういうことっすね。」
「で、破棄は出来ないと。つながりって念話的な?」
「念話が分かんないっすけど、普段話してる口に出さないやつっす。」
「なるほど。他には?」
「それだけっす。」
「えっ?...それだけ?」
「これだけっす。リリアナが絶対、知っておかないといけないのは俺がリリアナを守護していて味方って事くらいっす。」
「おぉ。うっきー君かっこいいー。」
うっきー君に対して拍手をしているとお腹が鳴った。
...聞こえた?
「いいお時間ですので夕食のご用意をさせていただきます。」
アピスさんがそう言い席を立って離れていった。めっちゃ聞かれてるよ!!
ああー!!アピスさんに何も聞けなかった。
肩を落としながら窓を見れば外に暗い闇が広がっていた。




