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ジャノヒゲ女王国  作者: くまごん
2ー森の妖精王と遊ぼうー
32/118

32ーツヴァイ視点5ー

「おはようございます。ツヴァイ首相。」

 少し遅めの朝、執務室で仕事に取り掛かろうとした時ワジール宰相がやってきた。

 おざなりな挨拶をすると周囲を見回し、何も言わずに私の机の書類を手に取って確認しだした。

「あぁ。おはよう。

 今日は開始するのが少し遅くなってしまってな、まだ何も手つかずなんだ。」

 なんだか責められているような気になりなんとなしに言い訳をしてしまったが言い終わった後に失言したことに気が付いた。イジワールならきっと...

「ほぅ。珍しいですね。真面目が取り柄の貴方様が遅くなるなど。

 何か悪い事がございましたか?」

 心底楽しそうな笑顔で目を光らせながら聞いてきた。

 なーにが何かございましたか?だ。意地の悪い奴め。だからイジワールなんだ。

「大したことではない。昨夜少し飲み過ぎただけだ。」

「さようでございますか。

 リリアナ殿下に相手にされなかった事がそこまでお辛いのですね。

 不肖このイジワール同情を禁じえません。聞いた所によると昨夜の夕食会はまるで葬式の様な有様だったとか。ですが、仕方のない事でございます。殿下はまるで人形の様に話さず動かずよく出来た作り物だと評判でございますから。」

 どこかに口の軽い噂雀がいるようだな。

「で、言いたいことはなんだ?」

 昨夜の酒が残っていて考えることがめんどくさくなった私はイジワールに直球で問いかけた。

「お前な...はぁ。

 夕食会はもう少し上手くやるべきだったな。殿下をよく思わない連中はたくさんいる。少しの粗でさえ面白可笑しく焚きたてるだろうよ。ふんっ。子供相手によくやる。

 ...これで殿下への風当たりが更に強くなった訳だ。」

 呆れたようため息をついた後、俺に忠告をしだした。

 なんだかんだで40年来の親友でこの国の宰相だ。俺を心配しているのだろう。

「だが、血のつながった家族なんだ。

 リリアナだけ毎晩の夕食の席に座らせないわけにもいかないだろう。」

 それに私としてもリリアナとの時間が欲しい。

 まだ話をしたことも抱き上げたこともないんだからな。

「時期尚早ってことだ。

 挨拶もテーブルマナーもできない子供を引っ張り出してどうする。

 殿下は今まで物置に閉じ込められていたんだぞ。お前を父親と理解しているのかも不明だ。会話をするのもリドラス様だけとも聞いている。

 これ以上、殿下を噂の的にする気か?

 ...もし、お前が殿下の王位継承を阻むというなら話は別だがな。」

「イジワール。私は...」

 イジワールの言い様に抗議をしようと顔を向けたがその真剣な瞳に返す言葉を失った。

「で、その首相様は熱を出した可愛い我が子に会いに行かないのか。」

「...行ってどうする?医師の診断は精神的疲労からくる発熱だそうだ。」

 口には出さなかったが夕食会が原因だろう。

 慣れぬ環境だからか、それとも私達と会うことが負担となるのか...

「逆に行かないでどうする?このまま二度と会わないつもりか?」

「熱を出してる子に負担をかけるわけにはいかんだろう!」

 先程少しだけ頭をよぎったことを口に出され思わず声が大きくなる。

「そうだな。だが、少しでいい。寝顔でも見て来い。

 時間なら一日くらい空けられるだろう?」

 親友は私の机から分別した大量の書類をまとめながら諭すように提案した。

 少しと言いつつ一日か...

 だが、昨夜の様子が頭に焼き付いている私は椅子から立ち上がることは出来なかった。

「時間は空けられなくはないが。

 だが、リリアナは...」

「やれやれ。やっぱりこうなったか。」

 呆れたよう首を横に振りながらイジワールは書類を抱え私から離れた。

「イジワール?」

「ゴホン。

 ダリオ!!アザリー様、アポロ殿下お願いいたします!!!」

 響くような大声で扉の向こうに声をかけた。

「応!!!」

 何だ?ダリオは分る私の補佐官だからな首相執務室近辺にいてもおかしくはあるまい。だが、なぜ第二夫君のアザリーと息子のアポロに声をかける?二人は騎士団と陸軍に所属している為ここに来ることはほとんどないのだが?


 バン!!


「やはりこうなりましたか。まったくツヴァイ、貴方という人は...

 アザリー、アポロやってしまいなさい!!」

 私の補佐官が上司(首相)を指さし声高らかに夫と息子に命じた。

 お前は悪の軍団の幹部か何かか?妙に似合うな。

 そんなくだらないことを考えてるとダリオを先頭にアザリーとアポロに両脇を固められまるで罪人のように引きずられ首相執務室を後にした。


 着いた先はリリアナが使用している客室。

 応接室に引きずられて入れば中にいた者たちが一様に驚いた顔をした。

 当然だな。この国の最高位者が罪人のように引きずられているのだからな。

 廊下を歩いていた者たちも3度見はしていたしな。

 諦めに似た感情を抱きながらも大人しく寝室に連行された。


 ベッドの中には荒い息で眠る幼い我が子がいた。

 私達に気が付いた医師と側仕え達は一礼をした後、静かに応接室に下がっていった。これでこの部屋にいるのは王族のみか。

 ようやくアザリーとアポロに解放された私は、ダリオにリリアナの側に行くように手で示された。

「リリアナ。」

 少しづつ、眠る子が起きないように近づいていく。

 汗をかいているな。ずいぶんと苦しそうだ。

 我が子に触れようと手を伸ばしたそうとした時、隣の応接室が一気に騒々しくなった。


 バン!!!


「リリアナ!!!まだ生きているか?」

 いきなり乱入してきた男はこの世の者とは思えない程の美貌を持った者だった。

「何者です!!」

 急ぎ男の前にアザリー、アポロ、ダリオが立ちふさがる。

 応接室側も応援が来たらしく扉の隙間から何人もの騎士達がみえた。

「貴様らには用はない!!どけ!!!」

 男が叫んだその時その男を除いたすべての者が何かに床に押さえつけられた。

 動けん!!この男は何者だ?いや。そんなことは後だ。

 先程この男はリリアナの名を呼んでいた。...なぜリリアナを?

 なんとか拘束から逃れようと力を入れるが全く動けん。

 くそっ。どうすれば...

「やめるっすよ。森の妖精王!こいつらを傷つけたらリリアナが悲しむっす。」

 今度は誰だ?目を動かし扉の付近にいる声の主らしきものを視界におさめた。

 ...サル?なぜここにサルが?

 しかも先程このサル、話さなかったか?

 あまりの事態に思考も息もしばし止まった。

「...なぜだ?なぜリリアナは悲しむんだ?」

「俺はよく分からないっすけど、でもきっと、悲しむっす!」

「森の妖精王。ワタクシからもお願いいたします。

 どうかその者達を傷つけいないでください。」

 まだもう一人いるのか。

 森の妖精王だと?伝説上の存在で一昨日リリアナを()った者ではないか。

 しばらくすると体を押さえつけていた力が消えた。

 声を掛ける間もなく森の妖精王はすぐにリリアナの側に駆けていく。

「ツヴァイ。大丈夫ですか?」

 ダリオが私の元に寄って無事を確認する。

「あぁ。問題ない。だが...」

 乱入者である森の妖精王とリリアナに顔を向けた。

「リリアナ!意識はあるか?」

 森の妖精王が呼びかけるがリリアナから返事は荒い呼吸だけだった。

「...時間がないな。すでに魂の崩壊が始まっている。」

「ホントっすか?それじゃあ急いで移動させるっす。」

 理解が出来ん。だが、このままではリリアナがまた連れていかれることだけは分かった。

「お待ちください!それは森の妖精王の城に移動させるということですか?

 それはダメです。ワタクシのリリアナを連れて行かないでください。」

 姿の見えぬ美しい声の持ち主がリリアナを連れていくことを拒む。

 連れていくのか?私の子を...


「失礼ですが、森の妖精王とお見受けいたします。

 リリアナをどうするおつもりですか?」

 冷ややかな目で見られ少しだけ身がすくむが私の娘だ。連れてはいかせない。

「どうするか...そう、だな。

 では、こうしよう。」

 しばし考えを巡らせた森の妖精王は言い終わらない内に部屋を覆うほどの大きな魔法陣を描いた。

 これは?...魔法陣の中心は...リリアナ!?

 何をするつもりだ!?

「森の妖精王!?何をするつもりっすか?」

「この陣は一体?」

「ツヴァイ!!離れましょう!!」

「離れろ!!」

「親父!!下がれ!!」

 まて、まだ娘が...

 ダリオに腕を引かれアザリーとアポロに守られながら寝室より外に出された。

 私が寝室より応接室に出た時、魔法陣から目を開けないほどの強烈な光が漏れだした。


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