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後宮は王宮に比べると幾分か地味だった。
広いし、高そうなものがあるのは同じなんだけど、色合いっていうか、装飾というかなんか地味。
後宮っていうからには女の園なんだろうけどこんなに地味なの?
壁に剣や甲冑とかいろいろ飾ってあるから女の園じゃなくて武骨な老人の住む館ってカンジだよ。
そういえば、なんでデイジーは首相夫人なのに後宮じゃなくて離宮に住んでるんだろう?案外、内装が嫌だったとかかな?
大きくて綺麗な装飾の施された濃茶色の両開きの扉の前で私を抱くアピスさんの足が止まる。
「リリアナ殿下、到着いたしました。こちらが後宮、晩餐室になります。」
うへぇ。...よし、帰ろう!!
ーここまで来たんだから諦めたらどうっすか?-
他人事みたいに言わないでよ!諦めたらそこで終わりだよ!!
ー他人事っすからね。ー
「失礼いたします。」
うっきー君と掛け合い漫才している間に無情にもアピスさんの足が進む。
給仕と思われる人を除いても少なくはない人数がすでに室内にいた。
「リリアナ。よく来たね。」
すぐに私を見つけ声をかけてきたのは一番上の兄らしいレオナルドさん。
今日も目つきが悪いけどかっこいいですね。
「こちらにおいで。君の席は私の前だよ。」
そう言って自分の前の席を手で示した。
いや、まって。私、3歳だよ。この間まで物置生活よ。
なんでいきなり、後継ぎっぽそうな人の前の席なの?そこ、上座でしょ?
だってその奥のお誕生日席一つだけだよ。
絶対!!首相さんでしょ、そこ座るの!!
私が頭の中でわめいてる間にアピスさんは私をさっさと席に座らせた。
声に出せないって辛い。泣きたい。
ー頑張れっす。ー
励ますな。...うっきー君も一緒に座ろ?
ーいやっす。
人の食事に興味はないんで、その辺にいるっすよ。-
薄情者!私を置いて行くなんて...マジでいなくなったし。ついてきた意味!
まぁ、動けないんだからどうしようもないか...
席に座ると左斜め前に赤髪で短髪、紫の瞳、白シャツを着て頬杖をついている男前な人がいた。これまたカッコいい。シャツを捲った腕が少し焼けていて男らしさを醸し出していてはっきり言って好物です。
ごちそうさまです。ありがとうございます。
「兄貴。そいつが新しい末っ子か?」
わぁ。声までイケボ!カッコいい!これは推せる!!
「あぁ。そうだ。
アポロ。ちゃんと挨拶しろよ。」
「今からするところだよ。」
少し不貞腐れた様子でアポロさんがレオナルドさんに言い返していた。
やだ、可愛い。カッコいいのに可愛いの?
いろいろドストライクなんですけどーーー!!
「おい、次男のアポロだ。」
「...それだけなのか?挨拶っていうのはだな...」
「だぁぁ!!いいじゃねぇか!!ここには家族と側仕えしか入れねぇんだから!」
アポロさんは不貞腐れてるし、レオナルドさんは呆れてるけど、ほんの少しやり取りで仲の良さが伝わってきた。仲のいい兄弟は見ていて楽しいよね。
「何ですか、騒々しいですね。」
「げっ。」
この涼やかなお声はダリオさんと一緒に部屋に入って来たのは首相さんだ。
てか、会ってすぐだけどアポロさん今、露骨にヤバいって思ったよね。
声と顔に出てるよ。
「アポロ、またあなたですか?レオナルドまで一緒になって。
もうあなた方は成人しているのですよ。もう少し落ち着きを持ちなさい。」
「すみません。父上。はしゃぎ過ぎました。」
さらりと流すレオナルドさん。もしかして怒られ慣れてる?
「いいじゃないかダリオ。ここには家族しかいなんだから。」
笑ってダリオさんをなだめる首相さん。
...家族。
そうだね。確かに目の前に仲の良い家族の姿があったね。
「さて、食事にしよう。
今夜は初めてリリアナが来てくれた。初めて会う者もいるだろうから私の方から紹介をしよう。
王家の血を引く女児は実に55年ぶりの誕生となる。今3歳の子だ。」
紹介なんかしなくていいのに。それに、手を向けられてもリリアナが反応するわけないじゃん。
早く終わんないかなー。
最初のうちは首相さんとかダリオさんが話を振ってくれてたけどリリアナは反応しないし。
リリアナはテーブルで食事をする習慣もなければ、ナイフとフォークの使い方も分からないんだよ。今までの食事だって大体、黒いパンとスープだからテーブルマナーなんて全く分からないだろうしね。
つまり、上手く食べれません。
食事は豪華で綺麗に盛り付けられていて確かに美味しいけどね。
...この場所は息が詰まりそう。
早くどこか遠くに行きたいな。
森の妖精王の城でこの間は一緒に遊べなかったから今度行けたら二人で遊ぼうね。
あんな絵本みたいな場所は他にもあるのかな?
スイキンが海の妖精なら海の妖精王のお城もあると思うけど。どんな場所なんだろうね。
...リリアナは偉いよ。よく頑張ってる。
意識が消えるのは私かリリアナか分からないけど、私はずっと味方だからね。
絶対、一人ぼっちじゃないからね。




