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今日も暇だよー。
少し暖かくなってきたけど春はまだかな?
最近、フィリップがケガして帰ってくるんだよね。
喧嘩とかじゃなさそうなんだけど、聞いても痛くないしか言わないし。
大丈夫かな?
いやな予感するなー。
「リリアナ様。ただいま戻りました。」
「フィリップ。おかーりなさい。」
ふっふっふっ。私、やっとフィリィプの名前を呼べるようになったの。
話す相手がいないからお口が上達しなくて一人で練習したんだよね。
早く大きくなりたいです。(願望)
「本日の夕食をお持ちいたしました。」
「ありがとー」
いつもどおりのほぼ水スープと固いパンです。もう食事が出るだけありがたいと思います。
人間食べなきゃ死ぬからねーでも許されるなら甘いケーキが食べたいな。
バン!
「おい!!平民!」
うわぉぅ!驚いてパンを床に落しちゃったよ。
あーあ。貴重な食料が...許さん!!
いきなりドアを開けて入ってきたのは、茶髪のイケメン雰囲気の男だった。
なんなのこの乱暴な人。ただでさえ壊れかけのドアをあんなに乱暴に!!
壊れちゃうでしょ!!
「リリアナ様は隠れていてください。」
そう小声で言いながらフィリップは私を隠す様に立ち上がった。
仕方ない。ご飯の途中だけど、フィリップがそう言うなら隠れますか。
それにしても、まさかあれを使うことになるとはね...
私の秘密の部屋を!!
まぁ単にフィリップが木箱をどかして見えないようにシーツをかぶせただけのものだけどね。
「どうなさいましたか?」
「貴様、呑気に食事など!...花は植え終わったのか!!」
「なんだと!貴様!!
私がデイジー様より直接ご依頼された庭園に花を植える仕事だぞ!
ずいぶん前に申し付けておるぞ!!」
「馬鹿を申すな!」
怒鳴り声しか聞き取れないけど、男がフィリップにまくし立てる様に話しているみたい。
ええっと、つまり、自分が頼まれた仕事をフィリップに依頼し忘れてたのかな?
「ええぃ!!!ごちゃごちゃとうるさい奴め!
平民の分際で私に口答えするとは!!
貴様はただ私の言うとおりにしていればよいのだ。」
ガッ!
変な音がしたので少しだけ顔を出して覗いてみたら男がフィリップに殴りかかっていた。
「グッ。...おやめください。」
フィリップは殴られてちょっとのけ反っていたけど、やり返すことはしないらしい。
それより、ここ物置だから!!木箱がいっぱいあって危ないから!!
助けなくちゃ!
動けない!なんで?動いてよ!体でも口でもいいからさ。
止めなきゃいけないの!
「うっ。うっ。ぅわーーーん!」
「ん?子供?なんでこんな所に子供が?」
「お気になさらずに。
......関係のないただの迷子です。」
「ほう。このような場所に迷子だと?ここは離宮の一室だぞ。
...ふん。本当に迷子かどうか疑わしいものだな。
どれ、この俺が直々に尋問してやろう。
まぁその際... 不幸な事があるかもしれんがな。」
「なっ!なにをするつもりですか?」
「ひっ。ぐすっ。」
涙で前が見れないし、なにより自分の体なのに自分じゃないみたい。
コツ。コツ。
マズい。こっち来た。
「おい、貴様こっちを向け。」
「ヒッ。やァ!やだー。フーリップー。フィリープー。」
あっ。動けた。逃げなくちゃ。なんで少しずつしか体が動かないの!!
私は少しづつ後ずさりして逃げていく。
「ここはデイジー様の離宮。貴様のような汚れたガキのいるところではないぞ。」
男が楽しげに笑いながら握りしめた手を振り上げていくところがゆっくり見えた。
殴られる!
ポガッ!
「くっ。」
あれ?痛くない?なんで?
...目を開くとにじんだ視界の向こうに大きな背中があった。
「貴様、なんの真似だ?」
「どんな理由であれ、子供に手を上げるのは感心いたしません。」
「一度ならず二度も私に口答えするか!」
バキッ。
「やァ。フィリープー!いやー!!」
私の声にゆっくりと振り返り笑った。
「リリアナ様、俺は大丈夫ですからギューッと目をつぶっててください。
ね?いい子ですから。」
なんでこんな時に笑えるの?
なんでそんなに優しい声をだせるの?
なんでいつも私のこと守ってくれるの?
「ふん。いい度胸だ。」
私をかばうフィリップを見た男は鼻で笑った後、床に置いてあった食事用のナイフを手に取った。
「どうせデイジー様に御目通りもしないのだから顔に傷跡が残っても問題なかろう。」
そう言って歪んだ顔で笑いながらフィリップを床に押さえつけた。
...こいつ!
リリアナしっかりしなさい。泣いているだけじゃフィリップを助けられないよ。
「やー。フィリープー。」
どうする?
どうすればこいつからフィリップを助けられるの?
ーふふふっ。
助けてあげましょうか?ー
この声は...海の妖精さん!
「たすけられるの?」
ーはい。たやすく。ー
お願いします。フィリップを助けてください。
「おねーがじます。フィリブをだすけでください。」
ーわかりました。...えいっ。ー
かけ声軽っ!!
ドーーーン!!!バッシャーーーーン!!!!!!
エエッーーーーーーー!?
壁が...ない!
穴が開いたとかじゃなくて壁がないよ!!!しかも外の地面、数メートル先までえぐれてるし!
あの男どこいったの?どこにもいないよ!!
・・・周りが濡れてるから水を飛ばしたのかな?
威力強すぎ!!怖!!
「これは?一体?」
フィリップーーー!!!大丈夫?ケガはない?
早くフィリップの所に行かなきゃ。
「フィリップーーー!ぅわーーーん。ビッリプー!」
また動かない。
......あぁ。そっか。そういうことなんだ。
「リリアナ様
お怪我はないですか?痛いところなどはありますか?」
フィリップが来てくれた。
リリアナを心配してくれている。
いつもと同じ優しい目で見ている。
いつもと同じ優しい手で触れてくれた。
「ビッリプー。ビッリプー。フーリップ。フーリップ。」
リリアナは泣きながらフィリップに小さい体で力いっぱい抱きついた。
リリアナは怖かったのかな?それとも心配したのかな?私には分からないや。
私は抱きしめることはできないけれど、心優しい青年に心からの感謝と心配が伝わることを祈った。