28
客室に戻りいつものソファに座ると、ベランダから室内を覗いてるリスザルさんに気が付いた。同じくらいに私に気が付いたリスザルさんは窓をすり抜け部屋に入ってくる。
妖精って窓すり抜けられるんだ。
だからスイキンとか森の妖精王とか気が付いたら部屋にいたんだ。プライバシーってなんだろ?
ーいたいた。みつけたっす。ー
...困った。声に出さないとリスザルさんには分からない。
ーあれ?今日は静かっすね。ー
今日はってどういうこと?今日はって...それにしても、どうしよう。
...これは、あれだ。よーうーせーいーおーうーたーすーけーてー。
通訳召喚!!
ーおい、誰が通訳だ。ー
ふざけて頭の中で唱えたら、いきなり目の前に森の妖精王のドアップ。
近い。近い。
マジで来た。冗談だったのに。...暇なの?
森の妖精王は冷ややかな目で私を見て一言。
ー帰るぞ。ー
ごめんなさい嘘です。帰らないで。お願い。私が悪かったです。
ーあれ?大将、なんで来たっすか?ー
ーこいつに通訳として呼ばれたんだよ。あとこいつ変だからな。ー
ーそれは知ってるっす。ー
...おい、こら。変ってなによ。怒るよ?
ーちげぇ。今お前の魂の中に二つの意識があるのは分かっているだろう?ー
それは分かる。リリアナと私の事でしょ。...憑依じゃないの?
ー憑依とは体に二つの魂が宿ることだ。
お前は魂に二つの意識がある。それでは憑依とは言わん。ー
ー変っすよね。ー
変って言うな。...なんで私の頭を撫でてるの?森の妖精王さん。
ーその辺の話はお前に理解は難しいだろう。
結論だけ言うと、そう遠くない未来お前とリリアナのどちらかが消える。ー
消える?
ーお前達の魂の器に意識が二つは入らない。ー
わっ私達、時々切り替わってたけど上手くやっていた。
...ハズ...だよ?
ー切り替わっていた、か。
恐らくその時、魂の中でお前の意識がリリアナから体の主導権を奪ったんだろう。だからお前が体を動かせた。ー
...そんな。...消えた方は死んじゃうの?
ーはっ?いや。死なないぞ。そもそも魂は一つなんだ。
お前もリリアナも同じ魂だ。ー
えっ?じゃあ、消えた方はどうなるの?
ー恐らくでしか言えんが、魂の中で時間をかけて一つの意識になる。ー
そうなんだ。...ねぇ、どうにか止めることは出来ないの?
ー無理だ。あるべき姿に戻るのを止めることはできん。
それに今のまま意識が二つでは魂がすぐに消耗して死ぬぞ。
魂は消耗品だ。消耗して魂の死が訪れたら二度と転生はできん。ー
死にたくはない。でも、リリアナが消えるのも私が消えるのも嫌だ。
うまく呑み込めずに言葉がなくなる。
ー考えたところでどうにもならん。
俺にもどうにも出来んのだ。人がどうにか出来ると思い上がるな。
本題だ。こいつををここに置いていく。ー
何かあるの?あと、頭撫でるのやめて。真面目な話でしょ。
ーなければいい話だ。お前が気にすることじゃない。
それよりもこいつと話せないことを気にするべきだ。毎回、俺を呼ばれても困るからな。ー
それを言われても私にはどうしようもないし。
ーだよな。...よし。リリアナと契約しろ。ー
ーやっぱり、そうなるっすか。まぁ、それが妥当っすよね。ー
契約すると話が出来るようになるの?
それにしても、軽いなーリスザルさん。契約は普通しないって言わなかったっけ?
ー契約するとお前の考えていることが妖精に伝わるようになるからな。
契約する奴は確かに昔に比べると減ったな。だが、減った一番の理由は俺達、妖精を見える奴も話せる奴も少なくなったことだぞ。ー
そういえばみんな見えないみたいだよね。
ーみたい。じゃなくて見えていないな。お前みたいに見えて話が出来る奴の方が珍しい。ー
そうなんだ。...話すのと見るのは別々なんだね。
ー別々だ。姿は見えないで話声が聞こえるやつは時々いる。姿を見える奴はまぁ、言わねぇのかもな。ー
森の妖精王さんは少し寂しそうに笑ってた。
ーほら、そんな事言ってないで、名前考えろ。-
...名前?名付けの儀式のこと?
ー知ってんのか?そうだ。お前と大いなる流れの存在を繋ぐ儀式だ。
この儀式をすれば、こいつから王である俺にも伝わる。ー
連絡網ってことだね。
聞きたかったんだけど大いなる流れの存在ってどういうこと?
ーそのままの意味だ。妖精は力の流れそのもので、そこにあることで世界を動かす。俺の城にいろんなのがいただろ?ー
いた。いっぱいいた。リスザルさんがその日の気分で姿を変えるって言ってた。
ーそうだ。力の流れだから決まった形も実体も個もない。
妖精はすべて大いなる流れそのもの、妖精という力の名だ。
もう一つ教えるなら、俺は妖精王。その力の核だ。そういう存在だ。ー
ほぉぉぉ。壮大なお話聞いた気がする。それって世界を動かす力そのものってことじゃん。
ーおっ。理解したか。偉い。偉い。ー
ちょっ力強いから、頭グラグラするから。撫でるのやめて。
あっあともう一つ、森の妖精王さんに名前はないの?
ー...ない。というよりも核である俺に名前を付けることはできない。
名前はそいつを縛るからな。俺は森の妖精王。それでいいんだ。
ほら、いい加減こいつの名前考えろ。ー
うっ。名付け。リスザルさんに名付け。
・・・だめだ。うっきー君しか浮かばない。
ーうっきー君な。ー
えっ、ちょっと。さすがにそれは...
ーうっきー君っすか。ヘンテコな名前っすね。ー
ほらぁ。待って考えるから。
ー必要ない。お前がそう浮かんだんだろう。ならそれが名だ。ー
いや。だからって...
ー妖精にとって名は鎖だ。
自分が望んだ者の最初に浮かんだ名が己を現すものになる。ー
森の妖精王の言葉にうっきー君は当然と言うようにしきりに頷いていた。
ーんじゃ。うっき―君。始めろ。ー
ー了解っすー
うっきー君は私の膝の上に乗り厳かな様子で腕を上げて私のおでこを触った。
”俺はうっきー君。この者リリアナと繋がるもの”
ー終わったっす。ー
これからよろしくお願いします。
ーこちらこそよろしくっすー
ーじゃ、俺は帰るからな。またな。ー
帰るの早。すぐ消えたよ。忙しかったのかな?悪いことしたなー。
ー大丈夫っすよ。あれで、世界が生まれた時から森の妖精王やってるっすー
...世界が生まれた時から?
あっそうか。世界の力の流れなら世界が終わらなければ死なないのか。
ーおっ。よくわかったっすね。ー
あっあのさ、うっきー君。教えて欲しいんだけど...
ーなんっすか?スリーサイズは秘密っすよ。ー
そう言って私の膝の上で、腕で体を隠すように腰をひねったうっきー君。
...なんだろ?セクシーポーズのつもりかな?
海の妖精のスイキンと契約してるんだけどずっと姿が見えなくて探しているんだけど...
ー海の妖精と契約してたっすか!!ー
うん。はぐれちゃって探しているんだけど見つからないの。
ーだったら単純っすよ。望めば来るっす。ー
望む。水を出したときみたいでいいのかな?
ー俺は水は出せないから多分っす。けどそんな感じだと思うっす。ー
分かった!やってみる!!
望みはスイキンが来ること。お願い来てスイキン。
ー呼びましたか?ー
...この声は!スイキン!!きたー!!
前と変わらずパッションピンクなゾウさんが目の前の空中を漂っていた。
スイキン。無事だったー!!
ー無事、ですか?何かありましたか?ー
ーちわっす。海の。
何でもあんたが探しても見つからなくて心配してたみたいっす。ー
ーそうでしたか。それは心配を掛けたみたいですね、すみませんでした。
ところで、森のはなぜここに?ー
ー俺も契約したっす。よろしくっす。ー
ーそうでしたか、では、これからよろしくお願いしますね。ー。




