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ジャノヒゲ女王国  作者: くまごん
2ー森の妖精王と遊ぼうー
26/118

26ーリドラス視点2―

 その日、私は妻の命日で墓参りに来ていた。

 妻が眠る場所で祈りを捧げていると王宮からの使いが慌ただしくやってきた。

 使いから受け取ったメモの内容はリリアナの失踪。

 私は詳しい話を聞きに急ぎ王宮へ登城した。




「入るぞ!」

 王宮、首相執務室の前にいた近衛騎士に目礼を返しながら声を掛け入室する。

 そこにいたのはこの部屋の主であるツヴァイ、リリアナの側仕えとして抜擢されたアピス、フォルカー、リカの4人。

「おじい様!」

 ツヴァイが声を上げ、他の者達が礼をしたのが視界の端に見えた。

「状況は?」

 挨拶や諸々を飛ばして孫に話しかけた。

「はい。本日、昼前にリリアナが王宮、客室で消えました。」

 孫も私の性格を知っているからかすぐに簡潔に答えた。

 今はもう夕方になる。いなくなって数時間というところか。

「消えた。とは?」

「文字どうりです。

 アピス、発言を許す。リリアナがいなくなった当時の状況を。」

 アピスが一礼をしてから説明を始めた。

「かしこまりました。

 昼前頃、応接室のソファでくつろいでいたリリアナ殿下が何の前触れもなく姿を消しました。当時室内には警護の騎士が二人、魔導士が一人、私共三人の合計6人が待機しておりました。」

 なんだと?

 この三人はその年の騎士学校の首席で今では騎士並みの腕を持つ者だぞ。

 それでは敵は我が国の騎士を6人も手玉に取ったということに...

「前の離宮破壊事件では海の妖精の反応がありましたので現在、妖精反応を調査中です。」

 ツヴァイが苦い顔で現状の報告を追加する。

「そうか、分かった。」

 ...調査中か。結果が出るまで時間がかかるか?


 廊下が騒がしいな。ここは王宮でも4階にある首相執務室だぞ。何事だ?

 私と同じように考えたのか何も言わずにアピス、フォルカー、リカの3人がツヴァイと扉の間に立った。

 バン!!!!

「ツヴァイ!聞いてください!凄いものが出ましたよ!!」

「...ユーノ?」

 入ってきたのは第四夫君のユーノか。なぜこ奴がここに?

「ユーノ室長!走るな!!ここをどこだと思っているのだ!!」

 少し遅れてから魔導士団のローブを羽織った者が来た。

「あぁ、すみません。ですがこのような大事!長き時を生きる私でさえ...」

「ユーノ、落ち着け。

 その様子ではリリアナについて何か分かったのか?」

「あぁ、ツヴァイ。そうです、そうなんですよ。これは大変なことですよ。」

「そうか、...君も部屋にはいりなさい。」

 遅れてきた魔導士団の者は部屋の扉の外で直立して止まっていたのでツヴァイが中に促した。

 リリアナを連れ去った者のことがもう分かったのか?

「はっ。失礼いたします。

 自分はジェイソンディオス・ロドリゲス魔導士団調停室室長の地位に就かせて頂いているものであります。」

 調停室。

 確か魔導士団の中でも妖精や精霊といった使役魔法に特化した者だな。

「では、報告を聞こう。」

 ツヴァイの机の近くに再び集まり魔法師団からの報告を聞く。


「今回、投入した...」

「ユーノ。リリアナの事だけでいい簡潔に話せ。」

 ツヴァイが長くなりそうな気配を察知し先手を打った。

「分かりました。結論から言いますと、

 離宮破壊事件の時は調査が遅くなりましたので海の妖精の存在しか確認はできませんでしたが、今回リリアナの使用していた応接室より高位の森の妖精のいた痕跡が発見できました。

 恐らく足跡としては、庭にあるリラの木から出てきて2階応接室へそしてリリアナを連れてスズランに消えていったと推測が出来ます。私からは以上です。」

「では、リリアナは、森の妖精に、連れていかれたと?」

 信じたくない気持ちが強いのだろう、確認をするようにツヴァイが区切って話した。

「はい。恐らくですが。」

 ためらいもなく私達に現実をつきつけた。

「私の方の報告もよろしいでしょうか?」

 調停室室長が手を上げた。

「あぁ。頼む。」

「私の使役している海の妖精に部屋を見てもらいました。

 結論はユーノ室長とほぼ同じ、ですが連れて行ったのは森の妖精王だと断言いたしました。」

「森の妖精王...」

 誰かが小さい声でつぶやいた。

「はい。伝承によれば祝福された者に豊穣を与えるといわれる存在です。」

「なんと、森の妖精王!!エルフにとっては神にも等しい方ではないですか。

 リリアナは何という栄誉をいただいたのでしょう。」

 耳を疑う言葉を放ったユーノを只々、見つめた。

 ...エルフ?...そうだ!思い出した。

 第四夫君のユーノ。他種族との融和政策で王家に入った者だ。

 それを思い出した途端に昔の怒りが再燃して爆発した。

「貴様!栄誉だと!!二度と戻って来ないかもしれんことがか!!」

 

 妖精は気まぐれで無邪気でいたずら好きで幼い子供が好き。

 もし、連れ去られたら二度と帰ってこないだろう。

 運よく戻ってきてもその子は...


 それはこの大陸に昔から伝えられる言葉だ。

「...失言お許しください。」

 ユーノが丁寧に深く頭を下げた。

 手を振って許しを与えるとツヴァイが考え込んだ様子で口を開く。

「どうにかならんのか。」

「申し訳ございません。私の使役している妖精は海の妖精ですのでお力になれず。

 今、調停室にいる森の妖精を使役している者は出払っておりまして、すぐに呼び戻してもおよそ二か月はかかるかと...」

 調停室長では無理か。

「ユーノはどうだ?」

「私には妖精が見えませんし話せません。

 それに、私のいたエルフの里でも森の妖精を使役している者はいませんでした。

 ...

 ですが、出来るか分かりませんが、一つ。息子のルークは空の妖精を使役しております。

 空の妖精は噂好き。森の妖精王の居場所を聞いてみれば場所は分かるやもしれません。」

 場所が分かったとしても戻ってくるかは不明か。

「分かった。ユーノ。悪いがこのまま後宮に行ってルークに頼んでくれんか?

 あれは今の時間ならまだ勉強中だろう。」

「かしこまりました。」

そう言って、ユーノと調停室長は下がった。


「おじい様。本日はお疲れでしょう。何か分かれば伝令を走らせます。」

ほんの少しの時間で疲れた様子の孫が私を気遣った。

「わかった。お前も無理はするなよ。」

「ありがとうございます。

 それからユーノの事ですが、あれに悪気はないのです。」

「私の方こそすまんかったな。頭に血が上った。

 エルフは森の民。確か、森の妖精王を信仰していただろう。」

「はい。ですが...」

「ツヴァイ。私にとってリリアナは可愛い曾孫だ。

 ...お前は首相としての決断をしろ。」

「はい。肝に銘じます。」

私は祖父失格かもしれんな。...こんな時、兄上ならばどうするか。


リリアナが応接室のソファで見つかったと私の元に伝令が来たのは夜も随分深くなった頃だった。


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