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王宮に戻ってからずっとリリアナは泣き続けてる。
私はいい加減飽きたよ。でも、ようやく事態が動きそうだね。
事の起こりは昨日の朝、筋肉執事さんがフィリップに会わせてくれることを約束してくれた。
そしたら、リリアナがようやく食事を摂ろうとしたんだけど食べなくて。思い出してみれば、リリアナはテーブルで食事したことがないじゃん!!
宿屋で食事したのは私だし。肉屋でお水もらったのも私だし。
いつも床にお皿を直置きでお椀に水だったからね。
でもようやく黒パンでも食事してくれてよかったよ。
空腹と喉の渇きが酷かったのにずっと泣き続けるからいつ倒れるかひやひやしてたしね。
いつもだともうそろそろ筋肉執事さんが来る時間だよね。
リリアナ今日もご飯食べようね。
「おはようございます。リリアナ殿下。」
はい。来た筋肉執事。今更だけど執事かどうかなんて知らないわ。
「うぅぅぅぅフィリップ」
「リリアナ殿下、フィリップに会う準備をいたしましょう。
まずは、食事です。」
えっ。もう会えるの!?はやっ!だって昨日の朝言ったんだよ。この人何者?
「フィリップ?あえるの?」
「はい。ですがまず食事をして身なりを整えなくてはなりません。」
「?」
あちゃー。理解できてない。
「抱き上げさせていただきますね。あちらでゆっくり話をしましょう。」
寝室を出て応接室に行くと、ここ最近と同じように見張りの人達が室内にいた。
スイキンがいないから消えられないんだけどね。
「フィリップーいないよ。」
リリアナが落ち込んじゃった。また泣きだしそうだね。
「会えますよ。食事を頂いてからです。」
なるほどね。フィリップに先に会わせたらまたご飯食べないだろうしね。
リリアナーご飯食べな。あとお水も飲みな。
「会いたくないですか?」
「あいたい。」
「では、こちらにお座りください。」
そう言って筋肉執事がリリアナを下したところはテーブルが除けられ厚手の柔らかなクッションの上だった。そういえばこの部屋、昨日と飾ってある花が違う。
今日はユリだ。リリアナの名前の由来の花だろうね。英語でリリーだし。
いい香り。リリアナも気が付いてる?
「ごっはん。ごっはん。」
うん。まったく気にしてないね。
今日の食事は黒パンにいろいろ入ったスープ。なんか離宮にいた時の食事と似てる?リリアナが昨日全然食べなかったから気にしてくれたのかな?
では、ありがたくいただきましょう。
...王宮の食事でこれかぁー。
宿屋の夕食と比べたら美味しいよ。でも、前世の記憶がある身としては...
そんなことを思ってもちゃんと食べなきゃね。只でさえリリアナは小さいんだから。
多少は食べたけど完食は無理だね。もうお腹いっぱいだし。
それよりフィリップの事で気が逸れているからもう食事は終わりだろうね。
「フィリップにあいたいです。」
リリアナそれは確かにそうだけど、お口を拭いてから言おうね。パンくず付いているよ。
「はい。かしこまりました。」
筋肉執事さんが優しく口元を拭いながら笑ってくれた。
この人凄く怖い顔してるけど、リリアナの為いろいろ考えてくれている人はこの人だと思う。
そのあと筋肉執事さんが髪を梳かしてくれたり、服を着せてくれたり身支度を整えてくれて、丁寧にお世話してもらって思ったことはこの人の側は安心するってこと。
名前も知らないのにこの人はリリアナを私を傷つけないって信じられる。
凄く丁寧に面会のため応接室に向かうことを教えてくれたからリリアナも不安がないみたいで、安心してこの人に抱き上げられていた。
着いた先の部屋にいたのは、首相さんとダリオさんとダリオさんにそっくりな知らない人と大勢の騎士様達。
知らない人は金髪で紫の瞳をした目つきの悪い背の高いイケメン。
かっこいい!マジでかっこいい!!ここまでカッコいい人見たことないよ!?
ちょっと疲れた様子がまたイイ!!!
でも近寄りづらい雰囲気を醸し出してるから柱の陰から見ていたいな。
あと騎士の人達が大勢。多すぎない?この部屋の中だけで十人以上いるよ。お偉いさんの警護は大変なんだね。
で、首相さん達なんでいるの?
「リドラスおじい様。リリアナを連れてきてくださってありがとうございます。」
首相さんが近寄ってきながら口を開いた。
...おじい様?
私を抱き上げている筋肉執事さんを見つめてしまった。
...コテン?
リリアナには理解が出来ないみたいで首を傾げちゃったね。
...首相さんのおじい様ならリリアナからは曾おじいさんにあたるよね?
筋肉執事さん改めリドラス曾おじい様だね。
曾おじい様を見つめていたらなぜか頭を大きな手で撫でられた。
首相さんがそんな私と曾おじい様を少し羨ましそうに見ている。私の視線に気が付くとバツが悪そうに笑った。
「リリアナ。遅くなったけど私が君の父だよ。」
首相さんが今更、言ってきたけどそういえば会ったのは二回目なんだよね。
一回目は途中でリリアナが寝落ちしたんだ。忘れてた。
「そして私が、彼の夫のダリオです。よろしくお願いしますね。」
キラキラした笑顔で言ってるけどさ。男性の夫ってどういうこと?
「初めましてリリアナ。私は君の一番上の兄のレオナルドだ。よろしく。」
ダリオさんのそっくりさんが一番上の兄。リリアナとは随分年が離れていそう。
あと、やっぱりかっこいい。
「お前たちいきなり揃ってくるんじゃない。リリアナが脅えてしまうだろう。」
脅えたってか固まってたね。リリアナ大丈夫?怖くないよ。
コンコン
「失礼いたします。フィリップを連れて参りました。」
扉の外から声が掛かった。ようやくフィリップに会える。
「入れ。」
そう言って首相さんたちは一歩下がり曾おじい様はゆっくり私を降ろしてくれた。
体が動く!!いきなり体の主導権変わらないでよ!
心の中で文句を言っていると目の前に騎士様に連れられて来て膝を折ったフィリップがいた。思わず駆け出しフィリップに必死に抱き着く。
「リリアナ様。」
フィリップの安堵した声が聞こえた気がした。
「フィリップ。良かった無事だった。ケガしてる。痛くない。大丈夫?」
思わずたたみかけて聞いてしまったがフィリップは少し笑ってる。
「ええ。大丈夫です。」
「ごめんなさい。私のせいでこんなことになって。謝ってすむことではないかもしれないけれど。]
そう言いながら涙腺が緩みだす。
今は泣くときじゃないから我慢しなきゃ。
「謝られる必要などないですよ。それに、殿下のおかげで助けられましたし。」
フィリップが手で優しく涙を拭ってくれる。
フィリップを殺そうとした人達の事?...なんか違う気がする。
「何のこと?」
「内緒です。」
笑って教えてくれなかった。
「フィリップ。私からも一人の父親として礼を言わせてくれ。
娘を守ってくれてありがとう。心から感謝する。」
そう言って首相さんが頭を下げた。
「私からも家族を助けてくださってありがとうございます。」
続いたのはダリオさん。
「私も妹を助けてくださってありがとうございます。」
今日初めて会ったレオナルドさんも。
「では、私からも。曾孫を愛してくれてありがとう。」
リドラス曾おじい様まで気が付けば騎士の人達まで全員で頭を下げている。
驚いていると抱き着いていたフィリップから慌てた声が聞こえてきた。
「おっおっおっやめください。わっわっ私の様なへっ平民にそっそっそのような...
そっそのっのようなこと。おやめください。」
焦りすぎていろいろ台無しだよフィリップ君。




