19―ツヴァイ視点4―
第一回報告会が終了してから2日経った夕方、第二回報告会のため王宮の会議室に国の要職に就く者達とそしてなぜかおじい様がそろった。
人数が増えたのは、話が多岐にわたる事と国家を揺るがしかねん事態になってきたからだ。
しかし、おじい様もあの子のことが気にかかるのは分かるが、もう引退されたんだし大人しくしていて欲しいのだか...
すべての者が席に着き報告会が始まった。
まずは騎士団長から最初の報告がはいる。
「離宮に突入時、捕らえた者の数は42人そのうち36人は奴隷又は使用人になります。
ですが、ワジール宰相に確認した結果、王宮で雇い入れた者はおりませんでした。
すべて奴隷又は貴族の使用人になり身元確認が難航しております。奴隷に関してはどこで売買に参加したのかも含め尋問を続けております。
そして尋問の結果見えてきたものが常日頃から暴力行為が横行していたということと、その際何人かの殺害事件があったということです。
こちらもまだ詳しいことは捜査中ですので結果が分かり次第詳しいご報告を上げさせていただきます。
騎士団より報告は以上です。」
まだいろいろ出てきそうだな。あれを妻としたこと自体が間違いだったのかもしれんな。
進行役のワジール宰相が続きを促す。
「財務大臣よりご報告をお願いいたします。」
「は。
調査の結果、首相夫人用の国庫はすべて服飾、宝飾関連と遊興費に消えたようです。すでに首相夫人用の国庫は空になっており一部の支払いは滞っております。
調査中ですが何度か有名楽団を恋人の屋敷に招き絢爛な夜会を催していたとの情報も入っております。」
だんだん頭が痛くなってきたな。
「デイジーの宝飾品を売り支払いに回せ。どうせもう必要のないものだろう。」
「かしこまりました。財務部より報告は以上です。」
「では、続きまして外務部よりご報告がございます。」
外務部?なぜ外務部が?
「はい。では、外務部よりご報告です。
デイジー様の恋人の一人に軍事国家リラリトスの者が紛れ込んでいました。本人は侯爵家を名乗っており現在確認作業を急いでいます。同時にこの者が王都内でよく第三区画西側の商店によく出入りをしていたということですので関係を調べています。」
「失礼。第三区画西側の商店というと質屋をやっている商店でしょうか?」
騎士団長より質問が飛んだ。なぜそのようなことを気にするのだ?
「はい。そうですが。なぜそのようなことを?」
外務大臣も質問の意図が不明な様子だ。
「私が変わります。
第三区画西側の商店はリリアナ殿下が城下に行かれた際、換金の為に立ち寄った商店です。」
副騎士団長が騎士団長に声をかけ質問に答えた。
「そしてもう一つ質問をよろしいでしょうか。私共では適正な金額か分かりませんのでご教授いただければ幸いでございます。
王宮の備品の燭台は質屋で換金した場合どれほどになるのでしょうか。」
...知らん。燭台というと魔力のない者の使う明かりを灯す為のものだろう。
そもそもこの質問に答えられる者などこの部屋にいるのか?
「お答えさせていただきます。
王宮備品の燭台は本来、一般市場に出回らぬよう裏面に王宮の印が刻まれていますので概算ではございますが、金貨三枚以上の金額は付くはずです。」
答えたのは財務大臣だった。よく答えられるな。
それを聞き騎士団長達が目を見合わせた。何か分かったか。
「いまさら何が出てきても驚かん。報告があるならば聞こう。」
「では、追加でご報告させていただきます。
リリアナ殿下の所持品より発見できたは銀貨2枚と銅貨9枚。そして質屋で換金した金額は銀貨9枚とフィリップより証言が出ています。そして、商店から換金した金額は金貨3枚と騎士団へ報告が上がっております。ちなみにフィリップは金貨を見たことがなかったことを合わせて報告させていただきます。」
...騎士団への偽証罪か。
「面白い話ですね。もし、商店の言うように金貨3枚を換金していたら殿下達は第三区画でどのように一日を過ごされたのでしょうね。」
財務大臣が面白そうに声を上げたが目が笑っておらんぞ。
しかしありえんな。大体、王都の民の平均月収は金貨2枚。それで一家族一月暮らすのだ。
聞くところによるとフィリップは辺境の村出身。そこまで金を使うことなど浮かばんだろう。
加えて軍事国家リラリトス。近年、我が国とは不穏な関係にある国だ。
「首相。外務部より騎士団へ派遣要請を申請いたします。」
外務大臣の考慮が終わったのであろう手を上げ騎士団への申請をしてきた。
それがよかろうな。外務部だけでは万が一の時対応できんだろう。
「よかろう。騎士団長。他の件も片付いていないが外務部を助けてやってくれ。」
「承知いたしました。」
「では、最後にレオナルド様からのご報告です。」
「はい。まず今この場にいる皆様にお知らせしたいことは。
リリアナが女児であるということです。」
私とおじい様、報告者のレオナルドを除き会議に参加するすべての者が声を失った。
「続けさせていただきます。
本来、出産時には医師と神官が立ち会うことになっておりますが、立会人はいなかったそうです。
そしてまだ目も開かないうちにデイジーにより黒髪だという理由で物置に閉じ込められ、それより物置からは出たことがないと判明いたしました。
リリアナの世話は心ある使用人が交代でしておりましたが、心ある使用にはすぐに解雇に追い込まれたとのことです。現在、捕らえられているフィリップは世話をしていた者の最後の一人です。
リリアナはいないものとされ食事の用意もないので、普段はフィリップの食事を分けていたと。これはフィリップからの証言になります。
私からの報告は以上です。」
沈黙が続く。
当たり前だ。首相夫人が国家を揺るがす事態を巻き起こし、我が女王国において次代の王位に就くべき存在が冷遇されていたのだからな。この事態に頭を抱えたいのは私だけではないだろう。
...それにしても、おじい様。
末席に座っておられるが鬼に見えるな。青くなり始めている者もいるのでそろそろ抑えていただきたいのだが...
怒りを抱いたままおじい様が口を開いた。
「私からも二つある。
リリアナは王宮に戻ってから丸二日食事を一度も摂っていない。先程ようやく黒パンを少し齧った程度だ。医者の話では満足に食事を摂っていなかったせいで胃が小さくなっているとのことだ。これは時間をかければ治るらしい。そして、食事をテーブルの上で摂る習慣もなかったようだ。」
「テーブルの上で食事の習慣がないとするとどこでお召し上がりになられていたのでしょうか?」
誰かの声が遠く聞こえた。
「ああ。テーブルの食事に興味を示さないので試しに黒パンを手渡したら椅子から降りて床に座って食べ始めた。」
「ヴァイ!!
ツヴァイしっかりしろ!!」
「ん?あぁ。ダリオか。」
どうやら私が呆けていた間に会議は終了したらしい。
残っているのものは私とダリオ、レオナルド、イジワール、おじい様だけのようだ。
「まったく。リリアナのことがショックなのは分かりますが、会議中に呆けないでください。」
「すまない。
おじい様もご足労をありがとうございます。」
現在のあの子の様子を報告してくださったおじい様に心から礼を言う。
そういえば、私はまだあの子にちゃんと父だと名乗ってはいなかったな。
「構わぬ。会議では報告しなかったことは今聞くか?」
会議中の怒気はどこへやら。温かいお声で問いかけてくださった。
私はこの国の首相で、あの子の父親なのだ。どのようなことでも聞かなければなるまい。
「お願いいたします。」
「リリアナの食事を見た医者の話だ。
もう少し事態が明るみに出るのが遅ければリリアナには会えなかった可能性があると。
それから成長に遅れがみられるとのことだ。
...ツヴァイ。あまり気に病むな。幸いあの子はまだ生きている。まだやり直せる。」
肩に乗せられたおじい様の手の温もりに力強い声に少しだけ持ち直した。
「はい。情けないところをお見せいたしました。」
「お前もそのようなことを言うようになったのだな。
安心しろ。お前の情けないところならば生まれた時から知っておる。」
茶目っ気たっぷりのいい笑顔で言われてしまった。
「それからもう一つ。リリアナがフィリップに会いたいと泣いておる。
王宮からの脱出方法や離宮破壊方法は以前不明だがあれの容疑は晴れただろう。
会わせてやることは可能か?」
「...不可能ではないかと。」
そういえばずっと泣きながら呼んでいると報告が上がっていたな。報告か。
...私はそれでしかあの子をリリアナを知らないのだな。
「ならば調整しろ。出来るだけ早い方がいい。あの子のためにも。
それから、あれに礼をしなければな。爵位などやるのはどうだ?」
「リドラス様!辺境の村出身の青年です。逆に爵位など与えては迷惑になるでしょう。」
慌ててイジワールがおじい様を止めに入っている。
急ぎリリアナとあの男を会わせるか。確かに不可能ではないが...
私はチラリとダリオとレオナルドを見たら二人とも笑って頷いてくれた。
本当によくできた夫と息子だな。
...やれやれ。今夜は徹夜か。
だが初めてあの子にしてやれることが見つかったのだ少しだけ前を向けた気がした。




