16ーツヴァイ視点3ー
さすがは元英雄。
まだ、家族だから手加減はしてくれているのだろうが視線だけでも人を殺せそうだな。
「話せと言われましても私はほとんど何も知りません。
おじい様もご存じの通り、女性の中には同時に恋人を何人も持つ者がおります。デイジーもそのタイプでした。結婚を機に縁を切ったと言っておりましたが、縁を切ったなどと全て嘘でした。離宮に住んでいるのは彼女の恋人達です。
何度もその事や普段の生活態度で言い争いになり4年ほど前から顔を合わせることが少なくなり始め、あの子が生まれる頃には離宮へは足を運ぶことはなくなりました。」
「では、リリアナがどうしていたか知らんのだな。」
少しだけまなざしが優しくなったおじい様が確認をしてくる。
「生まれた頃に私の元へ来た報告はただ一つ。黒髪の子を産んだというものだけでした。確認をしようと何度か人を向かわせましたがあの子に会った者はおりません。
私が初めて会ったのはつい先日、離宮破壊事件があった日の夜、応接室で今回捕らえた男に抱きかかえられていた時です。それまで私はあの子が自分の子だとは知りませんでした。」
おじい様は呆れたようにため息を吐き、鋭い目で私を見た。
「何もわからんか。」
「報告では、デイジーの居室でたいそう大事に育てられているとは聞きましたが、今思うと虚偽の可能性が高いかと。今、ダリオとレオナルドがあの子のことを調べております。」
「そうか。何か分かったらすぐに教えろ。それから捕らえた男は丁重に扱え。」
私は驚いておじい様を見つめた。
「誘拐犯を丁重にですか?」
「王家の女は特殊能力を授かるのは知っているな。それを考えると誘拐ではない可能性もある。」
昔から何度も聞いた話だ。建国時より受け継がれる王家特有の能力。
特に女は男の能力を遥かに超えるほどの凄まじい能力を持つらしい。最後に王家に女が生まれたのは曾おじい様たちの世代”悪夢の女王”だ。
まさか私の子に女が生まれるとは。
...そうか、あの子が空席の王位に就くものか。
「特殊能力で王宮を抜け出したと?」
「可能性の話だ。私はまだリリアナと話したことすらないのだからな。」
重くなった雰囲気を入れ替えるようにおじい様は努めて明るく話し出した。
「それにしても随分とリリアナは捕らえた男に懐いていたらしいな。」
「なぜそう思われるのですか?」
リリアナは明け方王宮に戻ってから一度も起きてはいないはずだし、おじい様はリリアナとまだ話をしてはいないと先ほど仰っていた。なぜそう言い切れるのだろう?
「ん?リリアナが寝ながら捕えた男を呼ぶからな。こう、探すように手を動かしてな。
寝ているだけで可愛いぞ。曾孫とはあんなに可愛いものなのだな。」
あいかわらずの爺バカか。いや。曾おじい様になるから曾爺バカか?
大体、曾孫は王家だけで7人いるだろうに。まぁ息子たちは可愛いから当然だが。
しかし、そうなると副騎士団長から聞いた話が信憑性をおびてくるな。
「何か知っているのか?」
私の顔色を読まないでいただきたい。
「生まれた時から知っているのだ隠し事をしようとするなど無駄なことだ。」
だから顔色と話すなと。
...まぁおじい様相手には無駄なことか。
「馬車で戻ってくる途中、副騎士団長に訴えたらしいです。
誘拐などされておらず自分から出て行った。あの男が殺さる。その後はほとんど泣き声で聞きとれなかったそうですがただ私が居なくなればと言っていたとのことです。」
「ふーむ。...あの男の取り調べは?」
「もう少しで報告が上がってくる予定です。」
「そうか、ならば待たせてもらおう。」
おじい様はそう言って召使いにお茶を持ってくるよう言いつけた。
待つのか。ここで。
...仕事するか。
あれからしばらく経ち夕日が眩しくなった頃ようやく騎士団長が報告に来た。
なぜ祖父の前で仕事しなければならないのか。おじい様お願いですから仕事中の私を温かい目で見ないでください。
「リリアナ殿下誘拐事件のご報告に参りました。」
「待っておったぞ。アビゲイル騎士団長。」
私は思わず満面の笑みを浮かべて騎士団長を迎え入れた。
コンコン
「失礼いたします。ダリオ補佐官、並びにレオナルド第一王子がいらっしゃいました。」
廊下に立つ近衛騎士が扉の外から来客を告げる。
ダリオにレオナルドか調査結果が出たのか?
「入れ。」
よく似た二人が扉の前で一礼をした。
レオナルドはダリオによく似た容姿をしていて金髪で背が高く凛々しい顔立ちをしている。
美丈夫の上に優秀で真面目で優しい性格をしておるから私の自慢の息子だ。
が、私に似ているのは瞳の色だけというのは・・・。
「離宮の報告書をお持ちいたしました。」
顔を上げ私にそう告げたレオナルドは初めておじい様に気が付いたらしい。
「曾おじい様こちらにいらしたのですか?お探しいたしました。」
「レオナルド、久しいな。壮健そうでなによりだ。何だ。私を探していたのか?
それは、すまないことをしたな。」
「いえ。リリアナについて御報告をと思いまして。」
「では、あちらで報告を聞こうか。」
皆をソファへ促し、まずは騎士団長から話を聞くことにした。
「捕らえた男、フィリップによれば、すべて一人で誘拐・離宮の破壊・客室の盗難をしたと証言しております。ですが誘拐方法や離宮破壊、客室の盗難については供述が二転三転しており整合性及び信憑性が疑われます。ので翌日以降も取り調べを続ける予定です。
また、適性検査において妖精魔法の適性はやはりみられませんでした。
それから宿屋に置いてあった荷物の中に王宮より持ち出された備品と同じ物を発見いたしました。」
「そうか。ご苦労だったな。」
一礼をして騎士団長が答えた。
「では、レオナルド。」
「はい。リリアナについての報告ですが。まだ調査中だということを先にお伝えさせていただきます。
元離宮の使用人、数人に話を聞いたところ、リリアナはデイジーの恋人の息子と思われており、王族ではないのならという理由で生まれてすぐデイジーの目に入らない物置に入れられたそうです。最初のうちはまだ心ある使用人たちがデイジー達の目を盗み面倒を見ていたそうですが、心ある使用人ほどすぐに離職に追い込まれてしまったそうです。フィリップはその中で面倒を見ていた最後の一人でした。
また離宮の近くを警備をしていた騎士の話では離宮内で子供を見たことがないそうです。
そのことを踏まえると物置に閉じ込められていたのではないかと考えられます。
そしてフィリップに関する話も聞けました。
なんでも4年程前、遠出をした際に辺境の村から連れて来られたです。昔、フィリップに話を聞いた男の話では荷馬車に乗せて無理矢理、連れて来られたと話していたとのことです。
そしてそれ以外にも奴隷売買、横領、暴行などいろいろな話が出てきまして調査が難航しています。」
あまりのことに全員の時が止まった気がした。
「...ふざけているな。」
一番最初に怒気を放ったのはおじい様だった。
「ええ。全くです。我が家のすぐ近くでそのような事が起きていたなどと。」
穏やかな口調だが怒りがにじみ出ているダリオ。
「昨日から一日でこのような話ばかりを聞かされました。」
死んだ瞳で遠くを見つめるのはレオナルド。
「...」
目を瞑り静かに力を溜め込んだのは騎士団長。
「騎士団長。騎士たちを引き連れて離宮に踏み込んでくれ。これ以上、我が王宮で好き勝手されるわけにはいかん。」
私はどんな顔をしているのだろうか。
情けない顔かもしれんな。3年もあの子の置かれている状況に気が付かないのだから。




