13ーウェルガー視点2ー
通報のあった宿屋の従業員二人に話を聞くと2階の右端の部屋に泊まっているのは茶髪の男が一人と黒髪で紫色の瞳を持つ幼い子供の二人組。本日夕食後、子供が従業員に話しかけてそこで初めて瞳の色が分かったということだ。すぐに警邏隊に通報をして今まで宿の入り口で見張っていてくれたということを恐縮した様子で話してくれた。
「そうか。協力に感謝する。」
私は協力者たちに感謝を伝え、部下にここから連れ出すように命じる。
現在、騎士250人が宿のある一角に包囲網を張っている最中だ。
ここは宿屋と同じ第3区画北側にある、警邏隊の詰め所だ。
本来、警邏隊は陸軍に所属するのだがリリアナ殿下の保護のため一時的に場所を借り受け拠点とさせてもらった。これでまた、陸軍には嫌味を言われるだろうな。
待つことしばし、ついにその時が来た。
「副長。包囲が完了いたしました。いつでも踏み込めます。」
「よし、行くぞ。目標はリリアナ殿下の保護。男は抵抗すれば切れ。
リリアナ殿下に傷一つ付けるなよ!!。」
「はっ。」
と、気合を入れたものの実際は隠密に近い。
甲冑を脱いで皮鎧に着替えた私達は音を立てないように宿屋に入った、1階には誰もいないのは確認済みなのでそのまま階段へ向かう。
2階は中央階段から左右に分かれていて右側の角部屋が目的の部屋と聞いている。
念のために他の部屋の前に人を配置して出てこれないようにしてから、角部屋の扉を慎重に開き部屋の中を確認する。
この部屋にはベットが二つあると聞いたが、手前のベットの上に男が一人。リリアナ殿下は?ここからでは見えんな。仕方がない入るか。
「副長、私が行きます。」
小声で話しかけてきたのは騎士の中でも古株の者だった。
いつもはこのようなことは言わないのだが、王族の救出に高揚しているのか?
だが、剣の腕は悪くはないが、今回は離宮破壊の件もある魔法に長けた者が行くべきだ。
「いや。私が行く。」
ゆっくりと部屋に侵入をしてリリアナ殿下を探す。この部屋にはベットが二つしかないからいるとすれば窓側のベッドだと思うが...
だが二つ目のベッドの上にリリアナ殿下はいない。寝ていた痕跡はあるのに一体どこへ?
「むーーー。」
声が聞こえた。
急いでベットの反対側を見れば、窓とベッドの隙間にシーツごと落ちたらしく寝ながらベットに戻ろうとする姿があった。
なんて器用な...いや。感心している場合ではない。
早く保護しなければ。男のほうもよく寝ているな。密偵ではないのか?
そのままシーツごとにリリアナ殿下を抱き上げた。
軽い。子供など抱えたことなどないがここまで軽いものなのか!?
急ぎ医者に見せるべきか。焦りながらも慎重に出口に向かう。
宿を出たところで俺は口を開いた。
「男は確保しろ。私はリリアナ殿下を王宮にお連れする。小隊は馬車の護衛に徹しろ。
こちらは任せたぞ。」
「「「「「「はっ。」」」」」」
そこにいた騎士たちにそう告げて殿下のために用意した馬車に乗り込もうとした時、抱き上げていたリリアナ殿下と目が合った。
これは...まさしく王家の!!
最高級の宝石のようにどこまでも深く吸い込まれそうな美しさを持つ紫色の瞳の中に意志の強そうな赤い光が輝く。王族の方々は美しい方が多いがこの方は可愛らしい顔立ちをされていらっしゃるのだな。
貴族社会において身分が下の者から話しかけることなどできないが、連れ出されたリリアナ殿下に我が騎士団がいることで少しでも安心していただかなければ。
だが、その美しい瞳が潤みだし...
「うっ。ひっく。うっわーん。」
火のついたように泣き出した。
ちょっと待て!!子供の世話などしたことないぞ!!
「リっリリアナ殿下、落ち着いてください。」
どうすればいいのだ?なぜ泣くのだ?今、救出しただろう。
わたしは情けなくも周りを見渡した。
「...副長。変わります。」
救世主がここにいた。先程の古株の騎士だ。そうだ!この者には息子が5人いたはずだ。
「頼む。」
私は縋る気持ちで泣き叫ぶリリアナ殿下を注意深く渡した。
「はい。承知いたしました。」
慣れた様子で子供をあやし出すとみるみるうちに泣き声が小さくなっていった。
・・・なぜだ。なぜ俺からその者に変わった途端、泣き止んでいくんだ?
...だから自分が行くと言い出したんだろうか?俺が子供に慣れていないから。
私は複雑な気持ちを抱えて真夜中の黒い空を仰いだ。




