番外 秋の食欲④
ブクマ・評価ありがとうございます。
本日の更新を持って番外編は終わりとなります。
ーお知らせです。ー
すみません。まだ次章が書き上がっておりません。書き上がり次第、更新を再開させて頂きます。
それでは本日もお楽しみいただけると幸いです。
王宮首相執務室でお父様達にお届をした後、次の目的地に向かう為にアピスに抱っこされて進む。
「次はどこに行くの?」
「次は王宮の左側の建物。通称は文官棟です。
ここは政治部、財務部、外交部の文官が働いている棟ですのでグラッド様、レオナルド王子殿下、クロノ王子殿下が普段よりおられます。ダグラス王子殿下の部署も文官棟にございますが本日はお休みの為におられません。」
...ダグラスお兄様お休みだったの?そういえば朝食の時いなかったよね?
「ダグラスお兄様の分も持ってきちゃった。」
「お渡ししないように別にしておきましょう。」
「お願い。」
王宮の表から出て馬車に乗ってグルっと回って文官棟に。
わざわざ遠回りするのは防衛の為なんだってさ。中を通り抜けされると女王の場所まで一気に攻められるからってアピスに教えてもらった。
文官棟の玄関は一言で言うとホテルのラウンジ。ここで手続きが出来るのは貴族位を持つ人達だけだからほとんど召使いが来るけどたまに本人が来るからこの豪華さなんだって。
建物に入ると待っていた文官さんに応接室に案内され、すぐに目的の人物その3がやって来た。
「クロノです。入りますよ。」
「お仕事中にお呼び出しをして申し訳ございません。」
「そんなことはありません。ですが、どうしました?」
クロノお兄様。なんか慌ててるような?
「あの訪問理由はグラッドお父様とレオナルドお兄様が揃ってからでもよろしいですか?」
「分かりました。」
そう言うとクロノお兄様は無言で私を膝に乗せ、手が私のお腹に回り抱っこ人形のようにべったりと私を抱き締めながら座った。
...おぅ。当然の様にやられたから何の疑問も感じなかったわ。
コンコン
「入るぞ。」
「失礼するよ。」
同時に入室してきたのは目的の人物その1とその2。
長く待つって思ってたのに皆、来るの早いなー。前の王族ルールの来客は待たせなきゃいけないはどうしたの?
「リリアナ!どうしたんだ?」
「何かあったのか?」
「えっ?何もありませんよ。本日はお菓子のお届けに来ただけです。」
レオナルドお兄様の慌てように驚きながらも訪問理由を伝えれば空気が抜けた様な盛大なため息を二人で同時に吐かれた。
えっ?なんで?...もしかして私、余計なことした?ヤバイ不安になって来た。
「リリアナ。ありがとうございます。私は嬉しいですよ。」
「そうか。ありがとう。」
「わざわざ持って来てくれたのか。ありがとうな。」
クロノお兄様、グラッドお父様、レオナルドお兄様がお礼を伝えてくれたけど...
「あの、もしかしてお邪魔でしたでしょうか?」
「そんなことはない。
執務中にリリアナが来たのは初めてだからな何かあったのかと早とちりしただけだ。」
グラッドお父様の説明で納得。
...良かった。
「すみません。お騒がせをいたしました。」
「私達が勝手に勘違いしただけだ。気にするな。
...ん?この匂いは?」
さすがグラッドお父様。目敏いよね。...香りだけど。
アピス達が用意をしていたコーヒーの抽出を始めた事で室内にコーヒーの香りが漂ってきた。
「この匂いはコーヒーです。お菓子と一緒に出してもらう為に用意してきました。」
いい香りだよね。そういえば私、子供の姿だけど飲めるのかな?
「そうか。ありがとう。」
「コーヒー?確か商会で仕入れた品ですね。」
「そうなのか?異国の品にリリアナのお菓子か楽しみだな。」
「あっ。来ましたね。
では、スイートポテトとコーヒーのセットでございます。コーヒーにはお好みでミルクと砂糖をお使いください。」
席に座った私達の前に綺麗に盛り付けられたお菓子とコーヒーをアピス達が配膳していく。
「いい香りだな。では、頂くとしよう。」
グラッドお父様の言葉を合図にそれぞれが手を伸ばし食べ始めた。
「優しい甘さですね。」
「苦いな。...コーヒーと言う物は随分と苦い物なんだな。」
「ん?菓子は2種類あるのか?」
「にがっ。」
上からクロノお兄様。グラッドお父様。レオナルドお兄様、私の順で感想が口から出た。
ダメだ。子供の味覚じゃコーヒーは飲めない。残念だけど替えてもらおう。
「アピス。紅茶に変えて。」
「かしこまりました。」
「...私もいいですか?」
そういえばクロノお兄様は甘党だっけ?うんうん。やっぱり苦いよね。
「そこまでか?」
「レオ兄様なぜ普通に飲めるのですか?」
「少々苦いが中々いけるぞ。」
「苦みが癖になるな。」
「...グラッド父上まで。とても飲み物とは思えない味だと思うのですが。」
「クロノお兄様。無理に飲まないでいいですよ。それにコーヒーが美味しいと感じるのは老化したという事ですから。」
「「ゲホッ!!」」
グラッドお父様とレオナルドお兄様がほぼ同時にむせ始めたけど残念ながら本当の事だもん。
「本当ですか?」
「はい。それに味覚ですから自分が美味しいと思うものが一番です。」
「...そうですね。」
良かった。クロノお兄様がちょっとだけ笑ってくれた。
「ご馳走様。」
「リリアナ。美味しかったよ。」
「わざわざありがとうございました。」
「お口にあったようで良かったです。
他にもまだ回るところがありますのでこれで失礼をさせて頂きますね。」
「あぁ。気を付けてな。」
グラッドお父様達に挨拶をして部屋を辞するとレオナルドお兄様が一緒に付いて来た。
?
レオナルドお兄様を不思議に思い覗き上げると怖い笑顔で抱き上げられた。
「馬車まで送ろう。」
「すぐそこですよ。」
「そうだな。」
...まぁ、いいか。
「レオ兄様はリリアナに構い過ぎでは?」
「レオナルドもリリアナくらいの子供がいてもおかしくない年なんだ。構いたくなるんだろう。」
「そのうちリリアナに構い過ぎてウザがられているレオ兄様を想像できるのですが。」
「奇遇だなクロノ。俺もだ。」
「...では、来るべき未来にどう備えますか?」
「その時は...落ち込むだけ落ち込ませてやろう。」
「そうなると私の部屋にレオ兄様が入り浸るのですが...」
「頑張れ。弟。」
文官棟を出て馬車で王宮をぐるっと半周。王宮の右側にあるのは騎士団本部と魔導団の研究所。つまりここにはアザリーお父様とユーノお父様がいるって事だね。
ようやく止まった馬車からアピスにエスコートされながら降りると私を挟んで右側にユーノお父様を先頭にお揃いの白いローブを来た人達が左側にはアザリーお父様を先頭に甲冑を着た見るからに屈強そうな男の人達が膝を折って頭を下げていた。
...えー。先触れ出したからって待ち構えてないでいいのに。
「リリアナ。よく来たな。」
「今日はどうしました?」
どうすれいいのか分からず立ち尽くす私を安心させるように左右から声を掛けてきたのはアザリーお父様とユーノお父様。
「お仕事中にすみません。
差し入れを持って来たのですが...」
「差し入れ?また何か作ったのか?」
はい。またまた厨房に行きました。そんな目で見ないでくださいアザリーお父様。
「もしや森の妖精王様の?」
そうです。森の妖精王からの頂いた物で作りました。ユーノお父様。
「はい。今回はサツマイモのお菓子です。」
「そうか。わざわざありがとうな。
だが、あまり頻繁に厨房に出入りするな。お前は王女なのだからな。」
「アザリーは固いですね。ですがリリアナ。ケガだけはしないようにお願いしますよ。」
「はい。十分に気を付けます。」
お小言、言われちゃった。
「お菓子。ありがとうございます。あとでゆっくりと頂きますね。」
「差し入れありがとう。これで午後も頑張れそうだ。」
少し落ち込んで下を向いているとアザリーお父様に頭を乱暴に撫でられたので急いで顔を上げる。
「髪ぼさぼさになっちゃいます。やめてください。」
「そうですよ。特に今日はいつも以上に可愛らしい恰好をしているのですから。」
アザリーお父様が乱した髪をユーノお父様が手櫛で優しくまとめ直してくれた。
「...そうだな。
すまないが騎士団本部は部外者は立入禁止でな。案内できない事を許してくれ。
さて、そろそろ昼食の時間だ。遅れるとあいつ等がうるさいぞ。」
もうそんな時間か。そういえばお腹空いてきたかも?
「はい。お仕事中にお邪魔いたしました。」
「あぁ。」
「魔導団にはまた来てくださいね。」
アザリーお父様達に挨拶をして私の『驚け!!出張カフェ』は閉店しました。
「閉店しましたじゃないよ!!ハリさんの分はないの?」
「ひどいっすリリアナ!!俺の分はないんっすか?」
「ワタクシの分はないのですか?」
昼食後の私は私室にて妖精スリー。スイキン、うっきー君、ハリさんにお菓子をねだられ中。
だって、まさかお兄様達が残りを昼食のデザートとして食べちゃうとは思わなかったんだもん。分けておかなかった私も悪いけど残っているのはダグラスお兄様用の小箱だけだからあげる事もできないし。
「「「リリアナ!!!」」」
これは作るしかないかな?さっきアザリーお父様達にお小言を言われたのに。
...何か言われたら妖精スリーに言われたからって言えばいいよね。
「分かった。分かった。作るよ。それでいい?」
「「「やったー!!!」」
文字通り室内を高速飛行して喜ぶピンクのゾウ、変なステップを踏んで踊るリスザル、喜び過ぎてころんだ黒い団子。私が言うのもあれだけどこの部屋カオスだね。
「そうだ!!お詫びの品として他にもよこせ!」
「調子に乗るなよ。黒団子。」
全く!ハリさんはすぐに図に乗るんだから。
...サツマイモで他の料理ねぇ。...豚汁は味噌ないから無理。
天ぷら。なんか違うよね。...他はー。
!!
大学芋!!醤油を使わないバージョンなら出来るじゃん!!
「アピス。もう一度、厨房に行こう。」
先程から私が妖精スリーに責められるのを見て見ぬふりをしていた薄情な側仕えをこき使う為に声を掛ける。
「...かしこまりました。」
イヤそうだね。
新しく作り直したスイートポテトと大学芋に大満足した妖精スリーは真ん丸くなったお腹をさすりながらどこかに消えて行った。
「...ようやく終わった。」
本日の教訓。
慣れない事はするものじゃない。...疲れた。




