番外 秋の食欲②
倉庫から取り出したるは泥付きのサツマイモ。
「まずは洗って、皮剥いて、同じくらいの大きさに切って。」
「かしこまりました。」
アピスが作業に取り掛かったので、私は鍋とザルを用意しなきゃね。
「リカ。深鍋とザルを出して。」
「かしこまりました。」
私を持ちながらだから片腕になっちゃうけど...調理じゃないからリカは出来るはず。
リカに抱き上げられながらもアピスを見ればもうすでに皮むきを始めていてその華麗なる包丁さばきに目を見張った。...皮むき前世の私より早くね?
「...アピス手際いいね。自炊したことあるの?」
あるわけないか。アピスって侯爵家のお坊ちゃまだもんね。
「ございます。」
「...あるの!?」
「はい。」
返事はしても詳しく話してくれなくて...すっごく気になる。
作業をするアピスに続きを促すようにジーっと見続けているとそんな私に気が付いたリカが押し殺した笑い声をあげた。
「くくっ。
殿下。騎士学校は基本的に従者は入れませんし、学生は全員、寮生活です。しかも寮ではすべて自分でやるを求められます。」
「えっ?管理人さんとか料理人とかいないの?」
「はい。おりません。
なので料理の上手な学生に料理の下手な学生が群がるのはお約束なんです。」
「お約束って...」
リカがニヤニヤしながら言うとアピスは死んだ目で遠くを見ながら教えてくれた。
「えぇ。そうです。
悲しい事に徒党を組まれ、毎日の様に大人数に追いかけ回され毎食彼らの食事をセッセと3年間も作る事になりました。おかげで卒業がどれほど嬉しかった事か。」
「なんかゴメン。」
アピスがあまりにも死んだ目で遠い場所を見ているから私は関係ないのに思わず謝ってしまった。
「いえ。今となればいい思い出です。
えぇ。本当に。
...それをネタに色々と融通が利くのだから。」
脅しのネタかい!!
怖くて脳内で力いっぱいツッコミを入れているとリカの小さい独り言が聞こえてきた。
「ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。アピスの事だから死ぬまでこき使われる。借りいくつあったけ?ガキの頃からだから。...ヤバイ。ヤバイ。ヤバイ。」
あーあー。御愁傷様。
...恐怖心しか煽らないからその独り言ヤメテほしいな。怖いよ。
「さて!皮を剥き終わりました。これは乱切りにすればよろしいのですか?」
一息入れる様に声を出した後、笑顔でこちらに向け続きを促すアピスはいつもの業務用キラキラ笑顔のアピスだ!!良かった!!いつもの業務用アピスが戻ってきてくれた!死んだ目でも真っ黒でもない!いつもの業務用だ!!
「うん。後で潰すからザックリでいいよ。終わったらこのザルに入れて。」
「はい。かしこまりました。」
そうだ!!どうせならクロノお兄様との話が聞きたいよね。
「ねぇ。アピスとクロノお兄様は同期なんだよね?」
「はい。クロノ殿下とはよくさせて頂いております。」
「学生時代どんな感じだったの?」
クロノお兄様は無口だし、アピスは普段からお仕事スマイルだから学生生活が想像できないんだよね。しかも二人一緒に寮生活とか。
「普通ですよ。
クロノ殿下とはよく一緒に勉強をしたり、鍛錬をしたり、血塗れの喧嘩をしたり、一緒に裏ギルドに殴り込みに行ったりした仲ですね。」
「後半フツーじゃ使わない言葉が出てきたけど!?」
本日、二度目のアピス爆弾に脳内でツッコみきれずについ口から出てしまった。
「あぁ。あの殴り込みってやっぱりアピスとクロノ殿下だったんですね。」
「納得するの!?えっ?騎士学校だよね?」
「はい。ですからやんちゃなのが集まるんです。」
「えっ?...えっ?」
騎士ってさ。品性方向で真面目な堅物イメージなんだけど...
「殿下。切り終わりましたよ」
「あっ。うん。
鍋にザルをセットして水はザルに触れる位で。で、火を点けて...このくらいの大きさなら多めに見ても20分くらいで大丈夫かな?その間に他の材料を探しに食材庫に行こう。」
「「かしこまりました。」」
「...それにしてもクロノお兄様がね。喧嘩とか無縁っぽいのに。」
食材庫でバターや砂糖等の食材を取って厨房に戻れば料理人が一人ちょうど休憩から戻って来たらしく厨房に入ったらバッチリと目が合った。
「リリアナ殿下!?いらっしゃってたのですか!?」
名前の知らない料理人さんが私を見て驚いてくれたのでちょっと嬉しい。
「うん。お手伝いをお願いしてもいいですか?」
...まだデュークは休憩から戻って来ないのかな?
「かしこまりました。」
料理人さんは急いでリカとアピスが持っていた食材を受け取って調理台に置いた。
「もういいかな?火が通っているか確認してもらっていい?熱いから気を付けてね。」
「はい。...これはサツマイモですか?珍しい調理法ですね。」
「うん。そう。サツマイモはゆっくりと低温で火を通すと甘くなるからね。」
「えっ?そうなんですか?サツマイモってパサパサして甘くないイモですよね?
大丈夫です。火は通ってますね。」
「えっ?そうなの!?...味見しもいい?」
甘くなかったらどうしよう。
砂糖とバター大量に入れたモノよりサツマイモの味する素朴な方が好きなんだけど...
「お待たせしました。お熱いのでお気を付けください。」
「ありがとう。」
料理人さんが手早く小さいお皿に味見用の一口を置いて私達に差し出してくれた。
「「「あっま!!」」」
アピスとリカと料理人さんの感想どおり甘く蒸かし上がってた。
熱く、甘く、ねっとりと、鮮やかな黄金色。これぞ秋!!
あぁ。秋っていいな。...食欲の秋、好きです。
「え?えっ?これサツマイモですか?」
「俺は確かにサツマイモを切ったハズだよな?」
「...泥の付いたイモだったぞ。」
「リカ。...もしかしてサツマイモを知らない?」
リカの一言でサツマイモから意識を戻され、まさかと思い恐る恐る聞いてしまった。
顔を上げて私を見たリカはいつも以上の満面の笑みを披露してくれた。
...ニコッ。じゃないよ。ニコッじゃ!!
「殿下。リカには言っても無駄です。それよりも作業を続けましょう。」
「うっ、うん。」
そっか。知らなかったのか...料理は出来ない、しないって言ってたもんね。
アピスと料理人さんがやってくれるなら2種類つーくろ。
「そしたら蒸かしたサツマイモを二つのボウルに分けて移して砂糖とバターを入れて。」
一つは塊が残る様に混ぜて一口サイズで丸めてください。
もう一つは牛乳か生クリームをちょっと入れて柔らかくして裏ごしして...」
...絞り口はないよね?あっ!アルミもタルトもカップもないや。いいや。伸ばして包丁で切って四角形にすれば。
「こちらは一度、伸ばしてから包丁で切って四角形にしましょう。」
「殿下。このような大きさでよろしいのですか?」
アピスに呼ばれたのでそちらを見ると私には少し大きめな一口大のまん丸スイートポテトが調理台の上にチョコンと一つ置かれていた。
「うん。大丈夫。執務室でもこの大きさなら食べやすいよね?」
「確かに。この大きさならば食べやすそうですね。」
「よし。じゃあ、あとはオーブンで焼き色を付けるから成形が終わったら卵黄を軽く塗ってね。」
「かしこまりました。」
アピスに最後の指示を出してから料理人さんに声を掛ける。
「どうですか?」
「はい。このような形でよろしいでしょうか?」
手元を覗き込むとまだ作業途中だけど、ピシッと一口サイズの四角形にカットされてるサツマイモさん。さすが料理人。あの雑な説明でなんでこんなにピシッとキレ―に作れるんだろう?
「綺麗に出来ていますね。さすがです。
あとは天板に乗せる時に角を潰して色味の為に卵黄を軽くお願いします。」
「はい。かしこまりました。」
よっしゃ!!あとは焼き上げるだけだね。
焼き上がったスイートポテトを味見したら素朴な甘さでコーヒーに合いそうだと思いました。アピスもリカも料理人さんも美味しいって言ってくれたしね。
ではでは、ようやく本題。『驚け!!出張カフェ』開店でございます。




