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ーお知らせー
第五章が本日の更新で終了となります。
最近、恒例の番外編は明日から4日間更新予定になりますのでどうぞお楽しみください。
一日中遊び回りクタクタになった私は帰りの青ヘビさん号では寝て過ごした。
「殿下。もうすぐ到着いたしますよ。」
「んー?分かったー。」
ウー。まだ眠い。
目をこすりながら、窓の外を見ると西に傾き始めた太陽に照らされている王都が視界の下に見えた。
おーすっごい景色。空飛んでるー。帰って来たんだねー。
...帰って来たか。私そう思うようになったんだね。
食い入るように外の景色を見ていると王宮の入口でウロウロしているアポロ兄様を見つけた。
「あっ!アポロ兄様だ!!何しているのかな?」
「青ヘビ様。申し訳ございませんが王宮の入り口で降ろして頂けませんか?」
私の後ろから一緒に窓の外を見ていたアピスがいきなり言い出した。
「アピス?なんで?」
「殿下。アポロ殿下に直ぐにお会いなさってください。」
真剣な様子のアピスに気圧されて小さく頷いた。
会うって今?夕食の時ではダメなの?
急遽、青ヘビさんに馬車置き場の端の空いている場所に降りてもらいお礼を言って降りれば、目の前はアポロ兄様と大勢の警備の人達に囲まれていた。
武器はまだ向けられていないけどこれは...まずいのでは?
「リリアナ!?...今帰りか?」
「はい。今、帰ってきたところです。」
「そうか。...お前ら問題ねぇ。解散していいぞ。」
アポロお兄様のその声で大勢いた警備の人達は少しづつこの場を離れて行った。
「お騒がせしたようですみません。」
集まった人達のほぼ中心に立っていたアポロ兄様の側に行き騒がせたことを謝罪すれば呆れた声で言われた。
「お前なぁ。森の妖精?なのか?青ヘビで王宮前に乗りつけんじゃねぇよ。」
「ごっごめんなさい。アピスが急いでアポロ兄様に会いに行けって。」
初めてアポロ兄様が怖い顔で私の見たのでちょっと泣きたくなりながらもここで降りた理由を話せばアポロ兄様は睨むようにアピスを見た後に私を抱き上げて耳元で話し始めた。
「さっき、ダグラスが帰ってきた。」
ヒュ。
私が息を飲んだ音がきっと私を抱き上げているアポロ兄様にも聞こえたと思う。
「安心しろ。ダグラスもリドラスの曾じいさんも草臥れてはいるがケガはねぇ。
話し合いの結果は大成功。正式な署名はまだ先の事になるだろうが、アッシージとうちの国は同盟を結ぶ事になった。
俺はこれから一軍を率いてアッシージと一番近い陸軍基地に詰めることになる。」
「えっ?なぜ?
リラリトスに同盟の情報を流せば戦争は起こらないのでは?」
「もし、万が一。仕掛けられでもしたらアッシージは遠すぎる。
同盟します。でも助けられませんでした。守れませんでした。じゃ、うちの国は他の同盟国からの信用を失うからな。リリアナ。いい子でいろよ。」
私を見ているようで見ていないアポロ兄様はそう言って普段より数段優しく私の頭を撫でた。
「次に会えるのは...早くて春か?」
春?そんなに長く会えないの?
「アポロ兄様。」
自分で鏡を見なくてもひどく情けない顔をしているのがよく分かる。
「そんな顔すんな。多分小競り合いはあるだろうが今回はひどい事にならないハズだ。
それよりも、お前の案で同盟国が増えた事に喜べ。何事も...」
そこまで言うとアポロ兄様は私達の方に走ってきた黒い軍服の軍人さんに気が付いたのか、そこで言葉を切り軍人さんに向き合った。
「アポロ少将。お話し中に申し訳ございません。」
「構わん。なんだ?」
「はっ!郊外の陸軍基地において準備が整いました事をご報告申し上げます。」
「分かった。俺もすぐに戻る。」
「はっ!失礼いたします!!」
来た道を走り戻って行く軍人さんを何とも言えずに見送っているとアポロ兄様に地面に降ろされた。
「カイトも来たからな。そろそろ行くわ。
...いい子で留守番してろよ。
俺が居ないんだから間違ってもさっきみてーに森の妖精で王宮に乗りつけんじゃねーぞ。」
「はい。気を付けます。
アポロ兄様。どうかお気を付けてください。」
「あぁ。じゃあ行ってくるわ!」
毎朝と同じように私の髪をぐちゃぐちゃに乱しながら明るく言うとアポロ兄様は少し離れた場所で立って待っていたカイトと共に馬に乗って私達に背を向けた。
出て行くアポロ兄様の背中を見つめながら後ろに立つアピスに声を掛けた。
「ねぇ。アピスは知っていたの?」
「何をですか?」
「アポロ兄様が出掛けること。」
「...本日、軍部が移動するかまでは知りませんでしたが、アポロ殿下が王宮におられた事で可能性は思い至りました。」
「そう。...ねぇ。
私がレオナルドお兄様達に話した事は間違いだったと思う?」
「...殿下。」
「私が言わなかったらアポロ兄様もダグラスお兄様もリドラス曾おじい様も危ない所には行かなかったでしょう?」
「それは違います。」
今までにないほど強い返事に驚き後ろを振り返れば六個の力強い目が私を射抜いた。
「殿下。それは違います。
もし殿下がこの案をお話になられなくとも、何かあれば、有事があればアポロ王子殿下もダグラス王子殿下もリドラス大公様も危険地帯には必ず行かれます。そういう方々です。」
「でも...」
「このままいけばアッシージ連邦とリラリトスの軍事衝突は避けられる可能性は有るのです。火種は残るかもしれませんが今年や来年、家を焼かれ食べる物に困る者が溢れることはないと思われます。今はそちらを素直にお喜びください。」
アピスにハッキリと否定され、フォルカーに諭されまだ納得は出来ないものの頷いた。
「...うん。」
王宮前の道にもうすでに見送った背中はなくアポロ兄様の髪の様な真っ赤な夕日が辺りを照らしていた。




