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楽しかった第三離宮の訪問もお腹の虫には勝てないので、昼食の為に後宮まで戻ってきたら玄関の脇で隠れる様にレオナルドお兄様とダグラスお兄様がお話をしていた。
...かくれんぼ?
んなわけないよね。内緒話っぽいから話しかけない方がいいかな?
「どうした?リリアナ?...あぁ。レオナルド!ダグラス!」
ジーっとお兄様達を見ていた私の視線に気が付いたグラッドお父様が二人に声をかけて手招きした。
「ん?あれっ?なんか珍しい二人組だね。」
「本当だな。グラッド父上。二人でどうされたのですか?」
そんなに珍しいかな?...ところでレオナルドお兄様なんで私には聞いてくれないの?
「リリアナが屋敷に遊びに来たんだよ。お前達は...今から出発か。」
グラッドお父様はダグラスお兄様をみて何かを理解したらしい。
ダグラスお兄様は朝食時のいつものスーツ姿から着替えたらしく今は肩とか胸に飾りのついている真っ白な軍服。...儀礼服だっけ?の上に裾の長い焦げ茶のフード付きマントを羽織っていた。
フードを被ったらザ・旅人だろうね。
そんなことを考えていたら少し離れてた場所に荷物とサーベルが置いてあることに気が付いた。誰のだろう?...ダグラスお兄様かな?
「ダグラス。危険な任務だが頼んだぞ。無事に帰って来い。」
「はい。グラッドお父様。必ず最良の結果を持ち帰ります。」
「えっ?えっ?ダグラスお兄様危ない場所に行くの?」
話についていけずグラッドお父様達の顔を見回しながら声を上げたらダグラスお兄様が私を抱き上げて小声で説明をしてくれた。
「これからアッシージ連邦に行くんだ。
リリアナの案が昨夜、重臣議会で認められてアッシージ連邦と同盟を結ぶ事になったんだ。それから急いで父上達が公文書を作ってくれたからこれから俺が使者として赴くんだ。」
「えっ?ダグラスお兄様が行かれるのですか?」
「あの、リリアナさん?俺。一応、外交官なんだけど。
...まぁ、それ以上に第四王子だからね。行かないといけないんだ。」
「どういうことですか?」
「相手は獣人国家。俺達とは色んな意味で違う。しかも本来は月日をかけて合意することを一回で済まそうとしているんだ。彼らを蔑ろにしていないと証明する為に...友好の証として王族が出て行かなければあちらは納得してくれないって事だ。」
「...あの。それって」
万が一、話が破綻した場合は?
「ダグラス。時間に遅れるぞ。気を付けて行ってこい。」
私の質問はレオナルドお兄様に遮られ、同時にグラッドお父様にダグラスお兄様の腕から体を持ち上げて離された。
「もうそんな時間か。レオ兄も夜更かししないで早く寝ろよ。
リリアナ。いい子にしてろよ。お兄様がお土産たっくさん持って帰ってくるからなー。」
「私はいい子ですよ。お土産、期待して待ってます。」
...お土産というワードで少し心が躍ったがさっき想像してしまった予想が頭にこびりついて上手く笑えたか自信がない。
「では、行ってまいります。」
「頑張れよ。」
ダグラスお兄様はグラッドお父様に挨拶をすると停めてあった馬車に荷物を持って行ってしまった。
「リリアナ。そんな顔をするな。
元々ダグラスはその為に外交部にいるようなモノだからな。」
私を抱き上げているグラッドお父様が慰めてくれた。
「その為?」
グラッドお父様が困ったように笑い、レオナルドお兄様が言いにくそうに話し出した。
「...あまり言いたくはないがそれぞれに役目があるんだ。
俺が国をまとめ、アポロが他国に睨みを利かせ、クロノが俺達を補佐する。
だからこういう時は俺達3人は国外。ましてや敵対する可能性のある国には行けない。成人してない弟を行かせても他国は納得しないからな。もうしばらくはダグラスが必ず行く事になる。」
...レオナルドお兄様の説明に頭では理解したが何も言えずに押し黙ると私を抱き上げてるグラッドお父様が一番安心する言葉を教えてくれた。
「リリアナ。大丈夫だ。補佐としてリドラス大公様が一緒に行く事になっている。
大公様は先の戦争の英雄だ。大公様が付いていてダグラスに万が一などあり得ない。それにあいつもあれで騎士だからな。大抵の事はどうにか出来る。」
「リドラス曾おじい様!!曾おじい様が一緒なら大丈夫ですね。」
曾おじい様が一緒。その言葉を聞いて頭に浮かんでいたイヤな想像があっさりと消えたので弾んだ声で返せば私の変わりように目を丸くしたグラッドお父様とレオナルドお兄様がいた。
「...そう、だな。」
「リリアナ。...ダグラスの事も信用してあげな。いつも軽口ばかり叩いてるけどやる時はや...大丈夫だよ。」
途中まで言って誤魔化すようにクマの酷い顔で笑顔を作ったけどそれは逆に不安になると思いますよ。
「レオナルドお兄様。不安しか残らない言葉をありがとうございます。」
「はぁ。レオナルド。そんな言い方ではリリアナは不安にしかならないだろう。確かにダグラスは言葉は軽いし態度も軽薄なお調子者だがな。社交性は高いし、よく周りを見てる。道理も知っている。王族の他の誰が行くよりもダグラスが行く方がアッシージ連邦との同盟を結べると俺は思うぞ。」
「「...」」
グラッドお父様からの評価の高さに思わずレオナルドお兄様と顔を見合わせてしまった。...ここまで言うなら大丈夫かな?
...ダグラスお兄様も曾おじい様もケガしないで早く帰ってくるといいな。




