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「では、行こうか。」
「はい。グラッドお父様。本日はよろしくお願いいたします。」
「こちらこそよろしく。面白みのない屋敷かもしれないが精一杯もてなそう。」
昨夜、第三離宮に遊びに行く事になったので朝食後グラッドお父様と手をつなぐと恨みがましい声が聞こえてきた。
「グラッド父上。
...卑怯ではないですか。私が忙しく働いている時に父上はリリアナと遊ぶ約束をするとか。」
「卑怯だよね。俺は勉強なのに。それに俺がリリアナを離宮に誘おうと思ってたのに...」
お兄様達そんなに遊びたかったの?
普段のクロノお兄様は女帝の美貌でクールだし、グレイシアお兄様は可愛いを前面に出していてるけど今の二人はグラッドお父様を呪い殺しそうな目付きをしてる。
わっ私は怖くないけど、グラッドお父様が怖がるといけないから止めてほしいな。
「クロノ、グレイシア。その目をやめさない。リリアナが怯えているだろう。
それに遊びたければ休みの日に遊べばいい話だ。」
グラッドお父様の言葉でお兄様達の呪い殺しそうな目はどっかいったけど...
「おっ。怯えてません!お兄様達はいつも優しいですから怯えてません。」
本当だよ!ちょっと手と膝が震えているけど...
「俺は今!リリアナと遊びたいのです!」
「レオナルドお兄様に私の仕事をやらせれば!」
「却下だ!!ふざけたことを言ってないで勉強しろ。仕事しろ。」
...ダメだ。人の話を聞いてない。
私、怯えてないもん。
グラッドお父様にありがとうなんて言ってあげないんだから。
...別に怯えてないしね。
「はぁ。やっと行った。待たせたなリリアナ。さぁ行こうか。」
「...私、怯えてませんからね。」
「あぁ。そうだな。リリアナは凄いなー。」
くっ!
完全に子供扱いされているだと!?
第三離宮はお洒落な黒っぽいレンガ造りのザ・洋館風の御屋敷だった。
まず最初に目に着いたのは玄関の前に立つ背の高い木が2本。巨木とまではいかないけど立派な木があり、玄関付近から建物の上を見上げれば三角の黒い御屋根がニョッキリと空に突き刺さっていた。
立派な御屋敷だね。第四離宮より小さいのかな?でも綺麗にされていて新築のモデルハウスみたい。
「お邪魔します。」
「あぁ。いらっしゃい。リリアナ。」
グラッドお父様の声を合図に第三離宮の執事さんかな?黒のスーツを着た人達が重厚感のある両開きの扉を開けると十人くらいの人が並んでた。
......ふぁ!?
「いらっしゃいませ。リリアナ第一王女殿下。」
「「「「「「「いらっしゃいませ!リリアナ第一王女殿下。」」」」」」
一斉に音が聞こえそうなほど深く頭を下げキレイな唱和を披露をしてくれた。
「...おっ。お邪魔します。」
なんとか小さい声を絞り出し何とかそれだけは答えられた。
「リリアナ緊張しなくいい。自分の家の様に振舞ってくれ。
そうだな。小さい屋敷だが中を見て回るか?」
えっ!?マジ?お宅探検していいの!?
やたー!!
「はい。お願いします!!」
「分かった。案内しよう。」
案内されたお屋敷はまさに豪邸だった。グラッドお父様は小さいとか言ってたけどそんなにこの御屋敷は小さくないからね。玄関に大理石が使われていたり、ダンスホールがあったり、ピアノの置いてある楽器室とか...これを豪邸と言わずになんて言うの?
ただ、たまーにに変な物が飾ってあるんだけど、これ何?
今、私が見てるのは廊下に飾られていた木彫り細工で顔っぽい物を彫られて色付けされている鉛筆位の小さな棒が2本。...箸にしか見えない。先っぽまで細工されてるけど。
...これ何に使うの?
聞いてみよっと。
「グラッドお父様ー。これなんですか?」
「それは。...なんだろうな。魔除けじゃないか?」
「知らないのに飾ってあるんですか?」
「実家の関係でな。大陸各地の土産をよくもらうんだ。飾ってあるから縁起の悪い物ではないだろう。」
テキトー。
「...そろそろ疲れただろう。テラスでお茶にしよう。」
「はーい。」
いやん。噴水の見えるサンルームとかやっぱり豪邸。オシャレ―!
席に座ると黒いスーツの執事さんがお菓子とお茶を持って来てすぐに壁際に下がった。
「王都でも人気の店から取り寄せた菓子だが。...言っとくが凄まじく甘いからな。
心して食べなさい。」
その言葉でお菓子に手を伸ばそうとしていた手が空中で止まった。食べるのに勇気がいるお言葉をありがとうございます。
お皿の上のお菓子は長方形のクッキーを土台に白い砂糖が小さな山の様に固められている。
うん。見た目からして甘そう。...王都で人気。でも甘すぎるお菓子。
いざ!実食!!
ガリッ!!ジャリ!ジャリ!!
...あっまぁ。口の中がジャリジャリ言ってるよ。味は砂糖味そう言い切れるほど砂糖。これクッキーだと思ってたけどクッキーじゃなくて砂糖細工だったとか?
口の中あっまい。お茶飲もう。
口の中の甘さを洗い流すために紅茶に手を伸ばし一口含めば...
「ゴフッ!!。」
砂糖クッキー以上にクソ甘かった。
「大丈夫か?」
グラッドお父様が側に来て背中を撫でてくれるけど背中撫でるよりもお水ください。
「大丈夫です。紅茶が甘くて驚いただけです。あの、お水いただけますか?」
「あぁ。リリアナに水を。」
急いで召使いさんがお水をグラスに注いで持ってきてくれた。
私が水を飲んでいる間にグラッドお父様が黒執事さんに内容は聞こえなかったが話しかけていたのが視界の端に見えた。
「どうやら執事達リリアナの甘いもの好きの噂を聞いて砂糖を入れたらしいな。大丈夫か?」
「えぇ。もう落ち着きました。
普段アピス達は紅茶に砂糖を入れて出さないので驚きました。」
「ほぅ。そうなのか?うちの子供達は必ず紅茶に砂糖入れるからな。」
「えっ?クロノお兄様もですか?」
「あぁ。隠した気でいるがあいつも甘い物が好物でその砂糖菓子もよく食べている。」
「これを...。」
グラッドお父様が指差した先程食べたクッキー?を見れば頷かれた。
「私は甘い物は好きですけど...甘すぎる物はちょっと。」
「私もだ。甘い物でも前にリリアナが作り方を教えたシフォンケーキだったか?それくらいならいいのだがな。」
「失礼いたします。新しい紅茶をお持ちいたしました。」
「あっ。ありがとう。
シフォンケーキは美味しいですよね。他の果物を使っても茶葉で作っても美味しいですし。」
「...あのケーキは他の種類もあるのか!?」
「えっ?えぇ。基本は同じですからアレンジすればいろいろな食材で作れますよ。」
「ほぅ。...売れそうだな。」
グラッドお父様のまとう雰囲気から目付きも変わって...絶対に今、頭の中で算盤を弾いているでしょ。
「...向こうでは定番商品で売られてましたからね。」
「リリアナが今まで作った料理もだが広めるのもアリかもしれんな。
そうすると。...問題は料理人ギルドか。」
「料理人ギルド?」
「あぁ。料理人は入ることを義務付けられるギルドだ。逆に言えば料理人ギルドに入っている者が料理人という訳だ。」
「へー。ギルドって他にもあるのですか?」
「ある。有名どころは冒険者ギルド。商会ギルド。運送ギルド。医療ギルド。服飾ギルド。まぁ簡単に言えばその職種の集まりだな。」
「ほぅ。では、冒険者になるには冒険者ギルドに登録すればいいのですね!」
「...その前に成人をしてギルドの試験を受けなければならないがな。」
「試験?」
「勉強しろという事だ。」
「...私まだ4歳です。」
「そろそろツヴァイが家庭教師と護衛の選別を始めるんじゃないか?」
「ゲッ!!」
「リリアナがいい子でいれば護衛の話はなかった事になるかもしれないぞ。」
「私はいつもいい子ですよ。」
ニッコリ。満面の笑みを浮かべてグラッドお父様に宣言をしたら大きなため息を吐かれた。
解せぬ。




