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君の使命は異世界転生

作者: 加古托卵

『俺はこんな事を望んでいない!』


 そう叫びたかったろうが、残念ながら、君はまだ喋る事が出来ない。君にできるのはこんな状況下に転生させた神々を恨む事だけだ。

 そもそも、君から向けられた怨嗟をその身に受けた『異世界転生会』のメンバーは大笑いしている。当然、君はそれを知る術はない。


 君が意識を持ったのは、母親の腹の中。羊水に浸かっている。目は開かず、身体を丸めて産まれ落ちるその瞬間を待つ未熟な身において、君は自我を得た。

 始めの数十分は胎内ってこんな感じなのかと感動したが、何もすることがない。自由に動けるわけはなく、目を開くことすらできない。開いたところで目の前にあるのは母親の腹。

 赤子にはとても心地良いと言われているが、自我を持ったものが生きるには窮屈だ。娯楽に溢れた世界の住人であった君には、地獄の様な場所だろう。

 ちょっとしたスキマ時間があればスマートフォンに手を伸ばし、ゲームを楽しんだり、小説を読んだりとしてきた君だ。スマートフォンどころか、手を伸ばすことすらできない。


 脳内に浮かぶステータスウィンドウを眺めるのが、君に残された唯一の娯楽であった。ステータス魔法の発動条件が、『目を瞑り、"ステータス"と念じる』だけであった事が救いとなった。目を瞑るなんて、と文句を言っていたが、対象を目視する必要があった場合には使えなかったと考え、少しだけ、ほんのわずかに、その仕様に感謝している。


 ――――――――――

 名前 : 【名無し】

 種族 : ハーフエルフ


 HP 0/-

 MP 0/-


 力 1000

 防御 1000

 魔力 1000

 速さ 2

 賢さ 30


 技能

 ・鑑定

 ・全属性魔法

 ・異常状態無効

 ・技能習得制限解除

 ・【選択権限】

 ――――――――――


 あんなにも喜んだステータス表記も、君はその簡素な作りを退屈だと感じている。そして、なんの説明もないのでどう喜んでいいのかわからない。チュートリアル映像を見る機能ぐらいつけろと、訳の分からない呪詛を念じている。鑑定能力である程度の説明を受ける事はできるが、君の退屈を解消するモノではなかった。

 この世に産まれ落ちてから、いや、まだその表現すら早過ぎる。意識を持ってからやっと3日。産まれていない、名前すら付けられていない。個体名の表記欄はあるが、そこには空白がある。前世の名前がそこに収まる事もなかった。捨てた過去がついてくるなど、君にとっては望むものではない。何で空白なんだと君は呪った。だが、無意識の部分では、それに安堵している。

 種族は形作られている事から確定だ。君が臨んだ通りのハーフエルフだ。称号は当然ない。そして数値化された身体機能。その数値、表示される文字に変化はない。今は壁紙や、フォント、配置を変えることもできないので本当に代わり映えもしない。

 そこにあるのは、君の要望に沿って与えられた4つの"望み"と、1つの空白。君はチート能力と呼んでいたが、退屈の解消には役立たない。


 人間は締め切った暗闇にいると、3日ほどで発狂するという。だが、『異常状態無効』の恩恵で君は精神異常に対する耐性が無敵に等しい。ただ、唯一の弱点がある。それこそが退屈だ。

 簡単に説明すれば、永遠の退屈に対して逃避という自己防衛機能をカットしている。平時の精神のまま退屈だと思い続けるのだ。

 本来ならその永遠の退屈が性格を歪めるだろうが、そういった精神汚染からも守られている。


 君はこれから、人間にとって長すぎる日々を過ごすことになろう。君がどのように退屈と闘うのか、『異世界転生会』の面々はそれが楽しみでならない。

 仮に君が暴れれば、宿した力によって母体が死ぬ。それだけの力を宿している。『異常状態無効』のお陰で発狂して、大暴れする様なことはない。全ては君次第だ。

 母親の腹を掻っ捌いて、生まれる事になったならば、君はどんな顔をするだろう。退屈を紛らわせる為に動く事は、母体の死につながる。君の大好きなアニメーションの主人公は、あえて飲み込まれて内部から倒すとか、口に魔法を投げ込んで内部から倒すなんて戦法が大好きだった。喜んでくれるだろうかと、『異世界転生会』の面子の一柱がワクワクとして注目している。


 出来るだけ早く前世の記憶を戻してくれという君の望み。それが、母親の胸にむしゃぶりつきたいとか、赤子の間に鍛えて幼児無双! などと考えていたのはわかっている。だが、『異世界転生会』からの依頼で君を送り出したコウノトリの女神は勘違いをしていたようで、見送った後、ポツリと呟いた。

 いやに再考を進めるなと思っていたが、母親の腹の中に転生させるとはと目を丸くする面々。


 だが、下界の娯楽を覗き込んで、実際にやったら面白そうだと『異世界転生会』なる会を立ち上げた面子だ。大笑いして、君を映す水鏡を覗き込んでいる。


 さらに3日が経った頃、君は『異世界転生会』から与えられた最後のチート能力を使う事にした。本当はもっと大切な場面まで残しておくつもりだったが、君はもう耐える事ができない。

【選択権限】を使用する。新たな望みを念じる。新たに君が望みえた技能。『眠りの天才』はあらゆる環境であっても、1秒足らずで眠る事ができる。さらに、連続使用も可。あらかじめ眠る時間すら決めておく事すらできる。


『異世界転生会』の面子の中には、その選択を称賛するものもいれば、悪態をつくモノもいた。例えば、母親の腹を食い破って産まれることで、忌み子ルートを楽しみにしていた神だ。発狂できない状態で、発狂スレスレの精神状態で、無事産まれるまで待つかを賭けていた神。なお、コウノトリの女神は、君が母体を殺す可能性がほぼなくなったと喜んで、そそくさと帰って行った。

 少なくとも、多く神に影響を与えた。

 そんな事はつゆ知らず、君はつまらない能力を得てしまったと後悔している。せめて、漫画のキャラクターが持つ様な能力を目指したが、これが何に使えると言うのかと、後悔を繰り返す。これまで5日間、迷い続けたと言うのに、まぁ、まだ迷っている。せっかくなんだってできる能力だったのにと、落ち込み落ちる。


 暗闇の中、君は眠る。いや、不貞寝する事にした。

二人称小説として成立しているか、実は少し不安だったりします。

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― 新着の感想 ―
[一言] >眠りの天才 >漫画のキャラクターが持つ様な能力 のびたクンの能力の一つですから、外れてはいませんねw
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