第7話 義賊ギルドに連れていかれる
食事が終わって、リズへの感謝も終わって、暇になったのか、子供たちが俺のところによってきた。
「ねえまた魔法見せてよー」
「今度もっとすごいやつ見せてー」
服を引っ張るな。
リズに助けを求めたが、彼女は笑っているだけだ。
「わかったわかった、一回離れろ」
俺がそう言うと、子供たちは離れた。
「そこに並べ、すげーやつ見せてやるから」
「ほんと!」
「やったあ」
子供たちはまるで手品でも始まるかのように俺を半月上に囲んだ。
リズが眉間にしわを寄せる。
「危ないことしないでよ」
「しないよ」
俺はふざけて親指が離れるマジックをやった。
誰もが知ってる簡単なやつだ。
なのに、
「すげー!」
「指とれた!」
拍手喝采。
いい客だよ、ほんと。
俺は次に右手を消した。
今度はスキルを使って。
「え!」
リズが大声をあげて驚く。
子供たちもぎゃあぎゃあ驚いて叫んでいる。
右手から徐々に体を消していき、最後は完全に消えた。
「どこ!」
「どこ行ったの?」
俺はリズの後ろまで歩いて行って、今日イヴリンにしたのと同じことをした。
「わっ」
「ぎゃあ!!」
イヴリンとは違い、リズは大声で驚き、地面に倒れた。
「すっげー!!!!」
「どうやったの!!」
悪ガキもダニーと呼ばれた髪の毛クルクルの男の子も皆が皆拍手をした。
悪くない気分だ。
「びっくりさせないでよ!!!!!」
「ごめんごめん」
リズは半泣きで俺を責めた。
「あれはなに? 魔法? いえ、そんな魔法はない。作ったの?」
「違う、違う。スキルだよ。昨日ワイバーン倒したら手に入れたんだ」
「スキル? そんなわけないでしょ! 馬鹿にしないで」
「え? ほんとだよ」
「ギルドでステータス確認したでしょ。あそこに出てたスキルが生まれた瞬間決まったすべてのスキルなのよ? 後から増えるなんてありえない」
ここにきて俺はようやく重要なことを知った。
普通スキルは増えない。
転生チートか。
「でも俺のスキルは増えるんだよ。これからも増えるんじゃないかな。わかんないけど」
「適当なこと言ってんじゃないわよ! どうせ隠してたんでしょ! 馬鹿! あほ! びっくりさせて! ゆるさないからね!」
リズは俺を置いて焚火の方へ歩いて行った。
そんなに怒鳴らなくてもいいじゃないか。
「あの」
後ろから声をかけられて俺は飛び跳ねた。
同じことをされてびっくりする俺。
もう二度としない。
振り返るとシスターパメラが立っていた。
「なんでしょう」
「折り入ってご相談が」
◇
パメラに連れられて教会の中に入る。
彼女は何も話さず、礼拝堂を抜け、部屋の一つに入った。
応接室のような部屋で、テーブルとイスが数脚のみ。
「どうぞおかけになってください」
パメラの指示に従って、俺は彼女の向かいに座った。
「相談というのは?」
「先ほどの身体を消すスキルというのはいつでもできるものなのでしょうか」
「ええ」
「服も消えるということはものも消せるということですか?」
「そうですね」
俺はテーブルを消した。
パメラは消えたテーブルに触れている。
こぶしでこんこんと叩き、感触を確かめている。
「消せるのは見かけだけ?」
「いいえ、音も、匂いも、魔力も、味も、消すことができます。もう一度叩いてみてください」
今度は音が鳴らなかった。
パメラは顔を上げると微笑んだ。
「素晴らしい」
俺はテーブルを元に戻した。
パメラは何度もさすっている。
「あの、話が見えないのですが、相談とは?」
パメラは俺の目を見た。
「あるものを盗んできていただきたい」
俺はしばらく絶句していた。
「え?」
「困惑するのもわかります。しかし、どうかお願いです。私にとっては重要で、大切な物なのです」
「ちょっと待ってください」
「あなたのそのスキルであれば容易に盗み出せるでしょう」
パメラは立ち上がり、俺のそばに来てひざまずいた。
俺の手を両手で取って祈るように額につける。
「どうかお願いします」
「盗むなんてことできませんよ」
「もとは私ものなのです。ある日貴族がこの教会を訪れました。馬に水を飲ませたいというので井戸を貸しました。彼は私のネックレスを見ると高く買うと申し出ました。それは私の母の形見だったのです。私は断りました。するとその晩、教会に盗みが入り、そのネックレスが盗まれてしまったのです。あの貴族に違いありません」
パメラは顔を覆って泣き始めた。
「お願いします」
俺はためらった。
盗みを働く?
それも貴族の家から。
俺は悩みに悩んだ末、息を吐いた。
「わかりました」
「ありがとうございます」
パメラは泣いてすがった。
「詳細については追って連絡があると思います。どうかよろしくお願いします」
「今教えてもらえるわけではないのですか?」
「第三者を通した方が安全でしょう」
意味が分からなかったが、俺は適当に肯いた。
俺はその『連絡』の意味について深く考えていなかった。
◇
数日後、ギルドに行くと俺はギルドマスターであるアルフレッドに呼び出された。
「なんでしょう」
「話がある。来てほしい」
俺はリズを一瞬見たが、彼女首をかしげていた。
アルフレッドは以前Aランク昇格時に連れて行った彼の部屋に俺を連れていくと、本棚の一部を押した。
本棚はするすると動いて、裏に隠されていた階段があらわになる。
「ついてこい」
階段は地下へと続いている。
壁に光る石が点々とついていて足元を照らしている。
階段の先には木製の扉が一つ。
アルフレッドが開くと、そこにはギルドが存在した。
上にあるギルドよりは小さいが、置いてあるものは変わらない。
壁には掲示板。受付には片目をバンダナで隠した受付嬢。
天井につるされたいくつものランプと壁の光石があたりを照らしている。
「ここは?」
俺が尋ねるとアルフレッドは振り返った。
「『義賊ギルド』とでもいおうか。俺たちは『ネズミの道』と呼んでるがね」
「義賊ギルド?」
「弱きを助け、悪をくじく。たとえ法に触れようとも。それが私たちだ。どうして呼ばれたかはわかっているね?」
俺はパメラの顔を思い出した。
俺は肯く。
「クエストについては受付が説明するよ。すこし正確に難のある受付だが、気にしないでくれ」
アルフレッドは入ってきた扉を開けたが振り返る。
「ああ、そうそう、出口はあっちだ。ギルドの裏にある路地に出る」
アルフレッドが行ってしまったので、俺は受付に向かった。
「アルフレッドから話は聞いてる」
ノースリーブの服を着た、片目バンダナの受付嬢は開口一番そう言った。
パイプをガンガンと受付台に打ち付ける。
いつもそこに打ち付けているのか、その場所だけへこんでいた。
「クエストについてはこれを見て、何か質問があったら言って」
そう言うと一枚の紙を受付台の上に置いて、ナイフで固定した。
依頼主:パメラ・ロウリー
依頼内容:エメラルドのネックレスの回収
場所:シビル・カナレス男爵邸
期日:明日まで
「これだけ?」
「あ?」
受付嬢は新しくパイプに煙草を入れてふかしていた。
「シビル・カナレス男爵邸ってどこにあるんだ?」
「は? しらねえよ。自分で調べろ」
受付は壁際にある棚を指さした。そこには地図が大量に置かれていた。
「明日って明日か?」
「ああ? 明日ってのは、今日のことだよ。昨日の明日は今日だろ。わかる?」
何と適当な。
俺はため息をついて、受付を離れようとした。
「おい。これ持ってけよ。クエストが終わったらサインをもらうんだ。わかんだろ」
受付はナイフを外して、その依頼用紙を俺に渡した。
俺は奪うように受け取った。