第5話 リーチ、ワイバーンを倒す
「EランクとSランクってパーティ組めるのか? というよりなんでこのクエストなんだ? どう考えてもEランクが受けるクエストじゃないだろ」
俺たちは岩陰に隠れていた。
何を隠そう、ここはワイバーンの洞窟型の巣近く。
顔を上げれば、居眠りをする真っ赤なワイバーンが見える。
「知らないの? Aランク冒険者になる最も手っ取り早い方法はワイバーンの討伐なのよ。街から街への商人護衛のクエストで一番危険な相手がワイバーンだから、倒せるってことは大抵の魔物が倒せる証明になるってわけ。無傷で倒せればAランク。傷を負っても何とか倒せればBランクってとこね」
リズは当たり前でしょとでもいうように言った。
俺が聞きたいのはそう言うことじゃない。
「なんでAランク昇格のクエストを受ける? 俺はパーティを組むとしか言ってないぞ」
「あら、Sランクと組めるのはAランク以上だからに決まってるじゃない」
なんつう身勝手な奴だ。
俺は閉口した。
「大丈夫よ。昨日の魔法を見る限り、簡単に倒せるわ。〈百発百中〉のスキルで弱点を狙えばいいんだから」
「弱点はどこだ?」
「心臓か目ね。目の場合相当深く傷つけないといけないけど」
ワイバーンの鎧のような鱗の装甲は、鉄よりも堅そうだった。
人数合わせ程度についてきたイヴリンがワイバーンを観察して言った。
「おなかの下まで鱗が生えていますけど、あれで心臓は狙えるのでしょうか?」
「確かに」
「それに、リズ様は先ほどEランクとSランクはパーティを組めないとおっしゃっていましたが、ではいま私たちはパーティではないということなのでしょうか」
「え?」
俺はリズの方を向いた。
リズは俺たちの会話など無視して立ち上がった。
「じゃあ、起こすね」
「おい待て!」
その言葉より早く、リズは炎の球をワイバーンにぶつけた。
睡眠中に炎をぶつけられたワイバーンは怒り狂って、犯人を見つけようと首を振り回している。
そりゃそうだ。
そんなことされたら俺だって怒る。
「寝てる間に倒せばよかっただろうが!」
「それじゃあ意味ないでしょ!!!」
こいつはいちいち説明が足りない!
何の意味がないのか全く分からない。
ワイバーンは声に気づいて、こちらを向いた。
「ほら早くやっつけなさいよ!」
リズが言った瞬間、ワイバーンは火を吹いた。
俺たちは岩陰に隠れる。
暑い。
熱い。
汗が噴き出してくる。
イヴリンが苦悶の表情をうかべている。
「これが苦しいという感情ですか」
「ああ。暑いからな。俺も苦しいよ」
こんなことで『苦しい』を学ばなくてもいいだろうに。
「胸の奥に何かが重くのしかかってくる感じです」
イヴリンの『苦しい』考察を聞いているうちに炎が止んで、羽ばたきの音が聞こえ始めた。
「早くしとめて! 飛ぶと厄介よ!」
俺は氷の弓を生成して、矢をひき絞り、放った。
氷の矢はワイバーンの胸に向かって走っていく。
パキン!
胸の鱗が凍っただけで、矢ははじけ、壊れてしまった。
「何やってんのよ」
「うるさい! 弱点だって言っただろ!」
「鱗を貫通できるだけの魔力を込めないとだめでしょうが!」
ごちゃごちゃと口論をしていると、ワイバーンが飛び立った。
風圧で砂が舞い、俺たちを襲う。
目を腕でおおう。
ワイバーンが俺たちを睥睨して、次の攻撃を準備している。
空気を取り込んで、また、火を吹こうとしてる。
この角度じゃ、頭上から直接食らってしまう。
「おい! 転移! 転移!」
「わかってるわよ!」
俺たちはワイバーンの後ろ、巣の反対側にある岩陰に転移した。
「なんでここなんだよ! 巣の上に行けば目を狙えるだろ!」
「うるさいわね! それじゃあ意味ないでしょ!」
また始まった。
何の意味がないんだ!
その前に死ぬだろうが!
ワイバーンはまだ俺たちを探している。
どうする?
真正面から目を狙ったところで、脳に達するとは思えない。
顔を横に向かせなければ。
俺は弓を構える。
洞窟上の巣の上部にある岩を狙い、氷の矢を放った。
「どこ狙ってんのよ!」
リズが小声で叫ぶ。
矢は岩にぶつかり、パキンと音を立てる。
ワイバーンがその音に気を取られ、そちらに顔を向ける。
鼻を鳴らしてにおいをかいでいる。
右目が、俺たちの真正面にある。
矢を装てん。
同じ氷の弓だ。
スキル〈百発百中〉が発動する。
氷の矢が飛ぶ。
飛行の跡には螺旋型に氷が尾を引いている。
凍り付かせろ。
矢が右目に命中した。
ワイバーンが苦しみ、首を振っている。
矢は目から斜めに突き刺さっている。
俺は左手を開いて突き出す。
昨日水を的のそばで破裂させたイメージ。
爆発しろ。
魔力の塊のような矢だ。
飛行の跡も、まだ余力はある。
俺のMPはSだぞ。
なめんな!
左手を握る。
バキン!
ワイバーンの頭の中で何かが破裂する音。
両目から氷の槍が飛び出す。脳が凍る。
頭蓋骨を割り、内側から鱗を突き破って、幾本もの氷が突き出す。
断末魔。
ワイバーンは羽ばたきをやめ、地面に墜ちた。
ずずん、と砂埃が舞う。
そのまま動かなくなった。
「たおした、のか」
「やったー!! やっぱりすごい! 初めてワイバーンを相手にして倒しちゃうなんて!」
リズは飛び跳ねて喜んでいる。
「さすがです。マスター」
「ねえ! ねえ! 見てたでしょ! ギルドマスター? これでリーチはAランクよね?」
「は?!」
俺が振り返ると、リズは小さな水晶の付いたブレスレットに話しかけている。
『ああ、見ていたよ。合格だ。早急にギルドに戻ってきなさい。Aランクに昇級する手続きをしよう』
小さく男性の声が聞こえた。
「やったー!! これでやっとパーティが組める!!」
リズはまた飛び跳ねて喜びだした。
意味がない意味がないって言ってたのはこういうことだったのか。
これは、ギルドマスター監視の下での昇級試験だったんだ。
「俺は途中リズの手を借りたよな。転移魔法使ってもらった。あれはいいのか?」
「昇級試験だからね。ワイバーンへのダメージ以外であれば手を借りてもいいのよ。そもそも、パーティで倒すものだし」
リズはそう言うと、俺の腹に抱き着いた。
「私たちパーティになったんだよ!! 念願のパーティ!! やったあ!!!!!」
こんだけ喜ばれると、勝手に昇級試験を設定したことを怒る気力もなくなってしまう。
俺はため息をついて、リズの頭を撫でた。
「よかったな」
「うん!!!」
イヴリンがそのとき、下唇を噛んでじっと俺たちを眺めていたことを、俺は知らなかった。
◇
そのあと、イヴリンにワイバーンの死骸を運んでもらい、ギルドへと向かった。
ギルドマスターの部屋に呼ばれ中に入ると、机についた40代くらいの男が出迎えた。
顔にはいくつかの傷跡があり、握手した右手には小指がなかった。
「昔戦闘中になくしてね」
ギルドマスター――アルフレッドはそう言って笑った。
「おめでとう。今日から君はAランク冒険者だ。これだけ一気に昇格したのはリズ以来じゃないかな。無名な者からの昇格という意味では初めてだ。リズは魔法学校時代から有名だったからね」
「いつの間にか試験を受けさせられていたのですが」
「ああ、まあいいじゃないか」
ははは、とアルフレッドは笑った。
こいつも結構適当な奴らしい。
ギルド証を更新してもらって、ワイバーンの素材を売った。
500000ルーになった。誰かが競り落としてこの値段。
肉がうまいらしく料理人が買っていくそうだ。
牛とかマグロみたいな値のつけ方だなと思った。
◇
翌日、目を覚ますと頭の中に声が響いた。
『レベルアップしました』
『レベルアップしました』
『レベルアップしました』
……
『レベルアップしました』
『スキル〈音消去〉を獲得しました』
『スキル〈視覚消去〉を獲得しました』
『スキル〈魔力消去〉を獲得しました』
『消去系スキルを統合します』
『スキル〈隠密〉を獲得しました』