第4話 リーチ、魔法を使えるようになる
喫茶店での会話から数日後、俺たちは教会の前に来ていた。
教会というより、村と言ったほうがいいかもしれない。
子供たちがそこら辺を走り回っている。
少し年長になると畑を耕していたり、牛の世話をしたりしていた。
「なんだここは。俺は魔法を教わりに来たはずだが」
「ここはね、孤児を預かってる教会」
そう言って、彼女が教会に近付くと子供たちが気づいた。
「あ! リズ様だ!」
群がってくる子供たちと身長が同じくらいなのですぐに埋もれてしまう。
「今日は何教えてくれるの?」
「私勉強がいい!」
「俺は魔法がいい!」
孤児に魔法を教えているらしい。
ずいぶん慕われているようだ。
「お前誰だ」
額に傷のある、いかにも悪ガキそうな男の子が俺の服を引っ張った。
それを機に何人かの子供たちが俺たちの周りを囲みだす。
「だれー」
「だれー」
俺は眉間にしわを寄せて黙っていた。
はっきり言えば、俺は子供が嫌いだ。
嫌いだが昔からたかられる。
公園に行ってコーヒーを飲もうとすると、なぜか知らんがベンチの周りに子供がやってきてじっと見つめられる。
聞けば、俺は教育番組に出てくる唄のお兄さんにそっくりらしい。
この世界では関係ないはずなのになぜだ?
「違う国の血が入ってるから、珍しがってるんだよ」
リズはそう言った。
ああそうだった。
言語の壁がないから忘れていた。
しばらくすると、シスターらしき女性が教会から現れた。
「お客様が困っていますよ」
シスターの言葉に子供たちは離れていく。
俺はため息を吐いた。
リズがシスターに礼をした。
「こんにちは。シスターパメラ」
「こんにちは。そちらの方々は?」
パメラは俺たちを見てそう言った。
「魔法教室に連れてきたの。ちょっと裏を借りていいかしら」
「ええ。もちろんです。子供たちをよろしくお願いいたします」
リズについていくと、そこには木でできた的や、藁の人形があって、まるで騎士の訓練場のようになっていた。
リズは子供たちを並ばせた。
「まず基本魔法からね。いつもどおり的をねらって打つのよ。じゃあ、はじめ」
子供たちにはそれぞれ適正の魔法があるようで、それは氷であったり、火であったり様々だった。
うまい子供はしっかり的に当てていたが、一人下手な子供がいて、風が的に届きもしない。
リズと同じくらいの身長で、髪がくるくるとカールしている。最初女の子かと思ったが、
「リズさまぁ」
と助けを求める声で男の子だと分かった。
リズはその子に近付くと背に手を当てて言った。
「ダニーは魔法初めてだったわね。いい? 魔力を感じるの。体の芯から掌に向かって温かい流れを感じて」
「わかった」
ダニーと呼ばれた男の子は集中すると、ふっと力を抜いた。
すると、風の矢が地面を走り、的を穿った。
「やったあ。できた」
「その感覚を忘れないでね」
リズは俺のそばに来た。
「リーチもやるんだよ」
「どうすればいい」
「ダニーに話したの聞いてたでしょ」
「あれだけでどうやれと」
「何とかなるわ。大事なのはイメージよ。ああ、それと、魔力は最小にしてやってね。子供たち殺さないでよ」
「はいはい」
俺は空いている的の前に立った。
右手を上げる。
どの魔法に適性があるのかすらわからない。
とりあえず、となりで魔法を放ち続ける子供たちを見て、まずは火をイメージする。
なんとなくいつも弓矢を使っているせいか右手の前に現れたのは炎の矢だった。
放つ。
矢はあらぬ方向に飛んで行った。
ふらふらと揺れて地面に突き刺さる。
リズが笑っている。
すぐそばにいた悪ガキが笑いながら、
「へったくそだなぁ」
と言った。
いらっとした。
〈百発百中〉が発動すればいいんだろ。
ああやってやるよ。
弓を構える姿勢をとった。
イメージ。
炎が握られた右手のそばから上下に走り、弓を形作る。
手に直接触れているわけではないが、体の動きに対応して、宙に浮いた弓が引き絞られる。
「ちょっと!!」
リズが叫んだが気にしない。
矢が装てんされる。
スキルが、発動する。
右手が固定される。
見てろ悪ガキ。
左手を離す。
矢が地面に炎の跡を残しながら疾走する。
バゴン!
炎の矢が的の赤く染められた中心に刺さり、貫通した。
貫通した矢はそのまま疾走し、近くにあった岩に激突。
岩は陥没した。
的は燃え盛っている。
今度は水をイメージする。
すぐに弓も矢も炎から水に変わる。
射る。
炎の道を水の矢が通り、火は消えていく。
当然、〈百発百中〉が使用された矢は的の同じ場所、貫通した穴を通過する。
その瞬間、水の矢が破裂した。
俺がそう、操作したんだ。
魔法はイメージだ。
俺は悟った。
「どうよ。ガキンチョ」
大人げないよ、俺。
俺が悪ガキの方を見ると、奴はリズのそばにいた。
というか、子供たちがみなリズのそばに避難していた。
ああ、やばい怒られる。
そうおもっていたら、
「す、すごい! イメージの具現化なんて! 初めて魔法を使ってできることじゃないわよ!」
リズは興奮して叫んでいた。
子供たちの表情にも恐れはなく、そこにあるのは羨望だった。
「すっげー!!!」
「どうやったの!!」
「教えて!! お兄ちゃん!!!」
リズのそばを離れて駆け寄ってくる子供たち。
俺を馬鹿にしていた悪ガキも尊敬の目を向けてくる。
失敗した。
こんなことになるなら大人げない真似をしなければよかった。
「さすがです。マスター」
涼しい顔をして、イヴリンは言った。
うるさいよ。
リズが近づいてきた。
何かをつぶやいている。
「ここまでできるなら、うん、いいかもしれない」
「なに?」
「ねえ、リーチ。パーティを組まない?」
リズは握手を求めた。
彼女の顔には期待が光っていた。
リズの苦労は知っている。
苦労があっても、俺をパーティに誘っている。
断ることなんかできないじゃないか。
俺は彼女の手を握った。
リズは嬉しそうに微笑んだ。