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第3話 イヴリン人間化計画一日目とリズの登場

 金もそこそこたまってきたことだしいい機会だろう。

 俺はイヴリンに言った。


「イヴリン。服を買いに行くぞ」

「服ですか? これがありますが」


 イヴリンはメイド服をつまんで言った。

 

「いやもっと……なんていうかな、外に出れるやつ」

「これで外に出てはいけませんか?」

「普通の女の子が着るようなものを買いに行こう」

「それはマスターの趣味でしょうか? 着せ替え人形のような」

「いや違くて、人間の女性になったんだから服だって自由に着られる。自分で選べるんだよ。何もメイド服だけ着続ける必要なんかない」

「そういうものでしょうか」

「そういうものだよ」


 今日はイヴリン人間化計画一日目と題していろいろやってみようと思う。

 完全に思い付きだけれど。



 俺たちは街へ向かった。歩いてすぐの場所に街はある。

 冒険者ギルドもここにある。俺たちはギルドを横目にスルーして服屋へと向かった。


 薄暗い服屋だった。女性ものばかりで、マリーを連れてくればよかったと後悔した。


「何かお探しですか?」


 ミステリアスな雰囲気の長身のこの女性が店長らしい。

 長い黒髪。口紅も同じように黒い。

 細い眼をさらに細くして俺たちを出迎えた。


「悪いんですけど、この子に合うような服を見繕ってはくれませんか」

「夜用の服でしょうか。それでしたらこちらに」

 

 見せられたのは、極端に薄い生地でできた誘いの服で、イヴリンは見た瞬間首を振った。

 珍しい反応だった。


「普通の服はないのでしょうか」

「ございますよ、奴隷に普段着を着せる方も少なくありませんから」

「奴隷ではないのですが」

「ああ、申し訳ありません。ここへは奴隷服をお買い求めになる方が多かったものですから。てっきりあなた様もそうなのかと」

「普段着を見繕ってほしい。着ていて楽し気になるものがいいかな」

「楽し気、ですか。かしこまりました」


 店主は店の奥に入ると、白いワンピースに細かな刺繍が施されているものを持ってきた。


「これでいかがでしょう。適度に町娘風ですが、おしゃれなイメージが残る商品です」

「着てみなよ」


 イヴリンは肯くと服を脱ごうとした。


「ここでじゃない! 試着室どこですか!」


 店主に案内されて、イヴリンは試着室へ入っていった。


 イヴリンはなんでも命令だと思ってしまうようだ。

 自分は人間なんだということをもっと理解してほしい。

 

 よく40日間俺なしで過ごせたな。

 ずっと屋敷の中だったからよかったものの。


 俺は深くため息をついて、顔を上げて、目を見張った。

 ワンピースを着たイヴリンは可憐で、俺は心を奪われた。


「いかかでしょうか。……マスター?」

「……ああ、すごく似合ってる」


 俺が視線を外すその一瞬に、イヴリンは少しだけ微笑んだ、気がした。

 

「よくお似合いです」


 店主もそういうので購入し、メイド服はイヴリンのマジックボックスに入れた。





 俺たちはその足で甘味処に向かった。いわゆる喫茶店というやつだ。

 マリーに教えてもらったところで、貴族にも人気らしい。

 ケーキがおいしいと聞いた。


 何としてもイヴリンの笑った顔を見てやる。


 そう意気込んでたどり着くと、店のガラスにへばりついて中をのぞく少女がいた。

 髪が青く、ローブ姿で、背が低い少女だった。

 どう考えても、ギルドで騒いでいた少女だ。


「おい、何やってる」


 無視しようかと思ったが声をかけた。

 気になって仕方がない。


 少女はよだれを拭いて俺を見た。


「なっ、なんでもいいでしょ!」

「食べたいなら入ればいい」

「一人で入るのは、ちょっと……。それにお金が……」

「お前Sランク冒険者だろ」

「なんで知ってんのよ!」

「いや、あんだけ騒げば目に付くって」


 俺はあの日のことを彼女に説明した。

 彼女は顔を赤くした。


「だって、私、ソロでしかクエスト受けらんないんだもん」

「なんで」

「なんでもいいでしょ! だから、あんまりいいクエストなくて。他にもいろいろ理由があってお金が……」

「ふうん。大変な。俺たちは入るぞ」

「なっ!!! あんたたちEランクでしょ!」

「金はある」

「おごりなさいよ」


 なんでそうなるんだ。


「普通逆だろ。SランクがEランクに『私みたくなれるように頑張れ』っておごるんだったらわかるよ。なんで俺たちがおごらないかんのじゃ」

「後輩でしょ!」

「先輩だろ!」


 ぎゃあぎゃあわめいていたら店員が出てきて注意された。

 注意されようが、すがりついてくるのでらちが明かない。


「わかったわかった。おごってやるよ。いいかイヴリン?」

「マスターがそうおっしゃるなら」

「やったぁ!!! この店、できたときから入ってみたかったのよね!」


 まさか開店当時からずっと張り付いていたわけじゃないだろうな。


 店内は、貴族が来るということもあり洒落ていた。

 俺たちは壁際の席に座る。

 店員が来る。


「ご注文は」

「ショートケーキ!」


 ずいぶん前から食べるものを決めていたようだ。

 イヴリンは何を頼んでいいかわからないようだったので、同じものを注文した。


 注文したものが来るまで少女はそわそわと店内を見回していた。


「で、俺たちはお前の名前も知らないわけだが」

「ああ、私、リズ。19歳。Sランク冒険者」


 年上かよ。てっきり13くらいかと思ってたのに。

 俺たちも名乗った後に尋ねた。


「パーティも組めないのによくSランクになれたな」


 リズは頬を膨らましてから言った。


「はじめは私だってパーティくらい組んでたわよ。私、Dランクから一気にSランクになったのね。王都を襲ったでかいドラゴンを倒したから」

「すげーな」

「でもね、聞いてよ。その時パーティ組んでたんだけど、倒したのは私一人よ。一人でドラゴン倒したの。パーティメンバーはそそくさ逃げてったわ。でも報酬はパーティのリーダーがもらって、あろうことかそれを自分と恋人のために使ったのよ! 私には一銭もよこさない」

「抗議すればよかったじゃないか」

「王族に?」


 俺は黙った。


「ほんとひどい奴だった。デブで何もできないくせに、自分に箔をつけるために私を雇ったのよ。私、そのときDランクだったけど魔法学校では主席で噂の人だったからさ。王族だからお願いってギルドマスターに嫌々パーティ組まされてこのざま」


 リズは苦笑いした。


「そのあとも何度か別の人とパーティ組んだけど、私がSランクだからって全部押し付けられるの。頼りになるとか言ってパーティ組んどいて、頼り切って押し付けるのよ? ほんとに信じらんない」


 リズはため息をついた。


「もうパーティ組むのやんなっちゃった」

「ついてないな」

「そうなの。私運Eなのよ」

「俺もだよ。ちなみにイヴリンは運Sだぞ」

「え!! ずるい! 分けてよ」

「分け方がわかりません」

「冗談だって」


 そんな会話をしているうちに、注文したものが届いた。

 リズは目の前に置かれたショートケーキを見ると過去を話していた時とは一変、宝石を眺める乙女のような顔をした。


 対して、イヴリンはじっと眺めている。


「ねえ、ねえ! ほんとに食べていいの? ほんと?」

「いいよ。イヴリンも食べろよ」


 リズはケーキの端を崩して、口に入れた。

 頬を抑えて、涙ぐみ、満面の笑みを浮かべる。


「おいしいぃ! ありがとうリーチ」

「礼はイヴリンに言えよ」

「ありがとう、イヴリン」


 イヴリンは肯いて、自分もケーキを一口食べた。


 表情が、変わる。

 

 笑った。


「おいしいというのでしょうか。この感情を何と言っていいかわかりません」

「幸せぇ」


 リズはどんどん食べ進めている。


「リズと同じで、『幸せ』なんじゃないか?」

「『幸せ』。これが……」


 イヴリンはもう一口ケーキを食べて、ほうとため息を吐いた。

 俺は微笑んでそれを眺め、コーヒーを一口飲んだ。

 ノルマ達成だな。


「マスターに抱きしめられた時と似た感情です」


 俺はせき込んだ。

 コーヒーが気管に入る。

 リズは幸せをかみしめていて聞いていないようだった。


「どうかされましたか」

「いや、なんでもない。食べなよ」

「マスターは食べなくてよろしいのですか?」

「気にすんな」


 最後にイチゴを食べて、リズは名残惜しそうに皿を見つめていた。


「なくなっちゃった」

「食べたからな」


 俺は頬杖をついてリズを見た。

 リズは顔を上げると言った。


「ねえ! また連れてきてよ」

「はあ?」

「ただでとは言わない。ねえ、してほしいことない? 私、魔法なら得意だから」

「してほしいことかあ」


 俺は自分のステータスを思い出した。


「じゃあ、魔法を教えてくれよ」


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