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第2話 ワイルドボアをしとめて冒険者ギルドに持っていく

「スターリッジ家に言わないと」

 

 と意気込むマリーをなだめ、絶対にダメだと釘をさした。

 認められるわけがない。


 狩りにはイヴリンがついてきた。一人で行くといったのに、二人ともだめだと言って聞かなかった。


 それから、毎日、俺は弓の練習をした。

 

 スキルがあると言っても力はない。

 

 遠くに届かない。

 届かなければ意味がない。

 威力が弱く、魔物に命中しても心臓まで届かないこともある。


 初めのうちはイノシシみたいな魔物を狩ることにした。

 名前はワイルドボアというらしい。

 命中はするから、とにかく、力が弱くても狩れる魔物を狙おう。


 しかし……、


「逃げちゃうね」

「そうですねぇ」


 見つけることはできるのだが、射程距離に入る前に逃げてしまう。

 ブヒブヒ言ってるくせに、警戒がすごい。

 

 その日も狩ることができず、俺たちは収穫なく家に戻った。



「ワイルドボアはにおいに敏感なんですよ」


 今日の狩りについて話すと、マリーはそう言った。


「狩るには体に糞のにおいがするものをつけて、気づかれないように近づく必要があると聞きました。なので、貴族はあまり狙いませんね」


 匂い、匂いね。

 俺はイヴリンと目を合わせた。


 翌日。


 俺たちはまたワイルドボアを探していた。

 体に糞をつけたわけではない。

 スキルがあるではないか。


 俺は自分の体とイヴリンにスキル〈匂い消去〉を使って、匂いを消していた。


「消えてる?」


 イヴリンは俺の首元に鼻を近づけて息をした。

 そこじゃなくてもいいだろと思ったが、俺は黙って待っていた。

 彼女は肯いた。


 よしよし。


 ワイルドボアは泥遊びが大好きでたいてい同じ場所にいる。

 昨日見つけた場所に行くと、やはり、泥にまみれて嬉しそうに鳴いていた。

 

 あほだ、あいつは。


 俺は矢をつがえて、身をかがめたまま徐々に近づく。

 昨日気づかれたラインを超えても、ワイルドボアはのたくりまわっている。


 射程距離に入った。


 ぎりり、と矢をひく。

 ワイルドボアは疲れたのか、身体を伏せて休んでいる。


 チャンス。


 スキル〈百発百中〉が発動する。


 矢が飛ぶ、目を貫いた。


 プギャ! 

 ワイルドボアが叫ぶ。


 一瞬起き上がって逃げるそぶりを見せたが、そのまま倒れて痙攣し、動かなくなった。


 俺たちは狩ったワイルドボアに近づく。


「やったぞ!」

「さすがです、マスター」


 イヴリンは無表情でそういう。

 俺は気にせず、年甲斐もなくはしゃいでしまう。

 いいんだ。俺はこの世界じゃ16だ。


「こんなにでかいのを一発だ。すごくない?」

「さすがです。マスター」


 俺はワイルドボアを持ち上げようとしたが持ち上がらない。

 重い。

 イヴリンに頼んでマジックボックスに入れてもらった。



 家についてワイルドボアを出すと、マリーが目を見開いた。


「おめでとうございます!」


 イヴリンと違ってマリーは拍手喝采。


「ワイルドボアをしとめるなんて! すごいです! それも一矢じゃないですか! 毛皮に傷がないのでいい商品になりますよ!」

「マリー、毛皮剥ぐことできるのか?」

「ええ。数年ぶりですが、できると思います。お肉もおいしいですよ。ステーキにしましょう」

「毛皮は適当に売ってほしい。どのくらいになる?」

「そうですねぇ。……ちょっと待ってください」


 マリーは一度毛皮に触れ、何かに気づいたようにあわてて井戸から水を汲んできて、ワイルドボアにかけた。

 水を浴びた毛皮から泥が取れて、金に近い色の毛皮があらわになる。


「こんなきれいな色の毛皮見たことがありません。珍しい種類なのかもしれませんね」


 その言葉通り、毛皮は20000ルーで売れた。

 イヴリン曰く、1ルー=1円らしい。

 普通の傷のない毛皮が2000ルー程度だというから相当高い。


 そのあとも、毎日のようにワイルドボアをしとめていった。

 が、そのすべてが珍しい毛皮をしていた。

 中には緑色の毛皮を持つものもいて、それは50000ルーで売れた。


「私の月の給料を超えてますね」


 マリーは苦笑いをして言う。

 貯金は300000ルーを超えていた。

 これで当分は食いつなげそうだ。


「ああ、そうだ。そろそろ矢が尽きそうなんだけど」

「では街に行って買ってきましょう」

「あのさ、俺が行ってもいいかな。これからは自分でワイルドボアを売りに行くよ。店を教えてほしい」

「そうですか。売るには冒険者登録が必要なのですが、いい機会です。この際、イヴリンも登録させましょう。お二人で行ってきてください。イヴリンに場所を伝えておきます」



 俺たちは冒険者ギルドの前に来ていた。

 こんな形で冒険者になってしまうとは。


 中に入り、受付へ向かった。


「冒険者登録をしたいのですが」


 と言ったが聞こえなかったようだ。

 隣で騒いでいる女がうるさい。


 見ると小学生くらいの、ローブを着た少女が受付に噛みついていた。

 身長が低く、受付台の上にひょっこりと頭が出るくらい。

 首元で切りそろえられた真っ青な髪が、叫ぶたびに揺れている。


「だから私ならソロでできるっていってるの!」

「しかし、このクエストはパーティでなければ……」

「私はSランクなのよ!」

「ですが……」


 とかなんとか。


 俺は彼女を横目で見つつ、少し声を出して受付に同じ内容を伝えた。


「はい、ではこちらのボードに針で指をさして血を垂らしてください。」


 石でできたA4サイズの板が出てきた。

 下の方に丸いくぼみがあって、そこに血を垂らせばいいらしい。


 俺は渡された針を……イヴリンに渡した。

 イヴリンは躊躇なく親指に針を刺した。

 5ミリくらいぐっさりと。


「ちょっと!!!!」


 俺と受付嬢が同時に叫んだ。


「なんでしょう?」


 イヴリンは首をかしげた。

 指からはぽたぽたと必要以上に血が垂れている。


 俺は自分の服を破って、彼女の指にきつく巻いてやった。


「針を刺せ、という命令だったので」

「そんなに深く刺さなくてもいいんだよ! 血が出ればいいんだ、血が」

「痛いです」

「そりゃそうだ」


 そんな会話をしているうちに、ボードにはイヴリンのステータスが浮かび上がっていた。


――――――――――――

『イヴリン』

レベル:8

HP B

MP B

力  D

知性 C

器用 D

運  S

スキル 〈洗浄〉〈マジックボックス〉

――――――――――――


「運がS! 初めて見ました!」


 受付の女が驚いている。


 ……どうやら、珍しいワイルドボアばかり見つかったのはこの子のせいらしい。

 運Sって。

 元の世界で宝くじ引かせればよかった。


 俺はびくびくしながら針を指にさして、にじみ出た血をボードに押し付けた。


――――――――――――

『リーチ・スターリッジ』

レベル:1

HP E

MP S

力  D

知性 B

器用 B

運  E

スキル 〈匂い消去〉〈味消去〉〈百発百中〉

――――――――――――


「なっ!!」


 受付の女性が絶句している。


 MPが尋常じゃないな。けど魔法は使えないからなぁ。

 そして運よ。

 これだからブラック企業につかまるんだ。


 受付嬢はせき込んで平静を取り戻すと言った。


「はい結構です。これがギルド証になります。紛失しないよう気を付けてください。素材販売の際も必要になりますので携帯をよろしくお願いします」

 

 俺たちはさっそく昨日仕留めたワイルドボアを売って、ギルドを出た。


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