第12話 パメラを救い、シーラの故郷を訪れる。
シーラとイヴリンを連れて、俺たちが転移すると、子供たちが教会の中でおびえていた。
中には傷ついている子供もいて、シーラがすぐに治療を始めた。
パメラは俺たちのもとに駆け寄ると早口で話始めた。
「何者かがこの村の周りを囲んでいます。松明か光石の灯りが見えると思います」
俺が窓の外を見ると、確かに森の中に、光が見えた。
「心当たりは?」
「おそらくこのネックレスを狙っているのでしょう」
パメラはリズにネックレスについて説明した。
俺の名前は出さず、「ある方に取り戻してもらった」とだけ言った。
「シビル・カナレス男爵に頼まれた騎士たちが、一度ここに来たのですが、事情を説明すると、理解してくれたようで、男爵に話をつけてくれると言ってもらえました。しかし、まさかこんなことになるとは。おそらく、男爵の私兵でしょう。それ以外に考えられません」
パメラはおびえた様子でそう言った。
「何とかします」
リズはそう言うと、俺を振り返った。
「奴らを戦闘不能にすればいいのよね。弓で、四肢の力を奪うことはできる?」
「もちろん。ただ、この暗闇だと相手が見えない」
「大丈夫。光なら任せて」
◇
外に出ると、リズは空に向かって魔法を放った。
「直接見ないで。太陽だと思って」
リズの警告に従い、俺は弓の準備をして、敵を見定める。
弓は地面から魔法で生やしたツタでできている。
矢も木製で、自動で装てんされる。
小さな光の球は雲の近くまで飛ぶと、はじけ、地面を照らした。
森の中からうめき声が聞こえる。
真正面から見てしまったものがいるのだろう。
光に照らされた敵を見る。
黒い服を着ているが、昼のように明るい今ならそれも意味をなさない。
俺は矢を肩や足に向けて放ち始めた。
スキル〈百発百中〉は今日もご機嫌だ。
痛みに呻く声が森を覆っていく。
何人かは剣を抜き、反抗してきたが、それも、すぐに打ち倒してしまった。
「ゴブリンより弱いわ」
リズは言った。
リズが木のつたでロープを作り、私兵たちを捕まえる。
全部で15人。
中には見たことのある口髭の執事もいた。
シビル・カナレス男爵の手先であることは間違いない。
◇
リズに監視を任せて、教会に戻り、報告をすると、パメラはシーラについて尋ねた。
「あの方は?」
昨日連れてきた時はローブをかぶせていたんだった。
今はメイド服だが。
「昨日連れてきた迷子ですよ。いまは俺の家にいますけど」
「そうですか」
そう言うと、パメラはシーラのもとへと歩いて行った。
「あの少し失礼していいでしょうか?」
「ん? 何?」
パメラはシーラの髪をよけ、うなじを見た。
「ああ、やはり」
「え? 何?」
シーラは困惑して、一歩後ずさった。
パメラはネックレスを取り外すと、何か呪文を言った。
すると、ネックレスはエメラルドから、深く青い色に変わった。
「これを首にかけてください」
「私、それかけたくない」
シーラはものすごく嫌そうな顔をした。
「シーラ一度でいいから、お願い」
俺が言うと、渋々彼女はネックレスを首にかけた。
すると、ネックレスが光だし、今度は透明なダイヤのような輝きの石に変わった。
「え? 何これ」
「やはりそうでしたか! シーラ様。あなたは王家の血をひいています。大きくなられて……」
「え!」
俺たちは驚愕して、ぽかんと口をあけた。
シーラが言った。
「何かの間違いでしょ? だって私、ただの村で育ったし。それにその村は攻撃を受けてなくなっちゃったし」
「その村は本来であれば安全だったのです。魔法で結界を張り、外から存在がわからないようになっていたはずなのです」
「なんでそんなこと知ってるんだ」
俺が尋ねると、パメラは両手で顔を覆い、魔法を解いた。
肌が白く、きめ細かくなり、若返る。
耳がとがり、髪はブロンドに輝く。
「私はエルフです。王家で召使をしていましたが、今はこうして外の世界で暮らしています。しかし、シーラ様、あなたに出会えるとは……」
パメラは涙を流して膝をつき、シーラに頭を下げた。
「シーラ様。エルフの里に戻りましょう」
シーラは俺の袖を引っ張った。
「そんなこと言われても、私、故郷のことなんて覚えてない」
「あなたが戻ってくることが重要なのです。お父様もお待ちですよ。国王陛下が」
シーラは首を傾げた。
「私の家族はあの襲撃で死んだんじゃ……」
「あなたと暮らしていたのは保母たちです。王はあなたに、自分が王家であるということを知らせないで過ごしていただきたかったのです」
「どうして?」
「一人娘のあなたには王家の政略結婚から逃れて欲しかったのでしょう。国民にも秘密にしていましたから」
シーラは俺を見上げた。
「家族に会えるんだぞ」
そう言うと、彼女はパメラを見て、小さく肯いた。
俺はあることが気になっていた。
「なあ、どうして、あの男爵はネックレスに異常な執着があったんだ?」
「このネックレスは封印されているときはエメラルド色をしています。封印を解くと、エルフの里への通行証になるのです。エルフがつけていなければなりませんが、そのものが連れているすべての人、物が通行できるようになります」
「つまり、シーラにネックレスをつけて、自分が里に入ろうとしたってことか?」
「そういうことになりますね」
「盗賊に任せず自分でエルフを捕まえようとしていたってことか」
パメラは肯いた。
「合言葉を知らなければ入れないのですけどね」
◇
その後、騎士に通報して、襲撃犯を連れて行ってもらった。
おそらく、シビルも捕まるだろう。
「ご協力感謝します。まさか男爵がこのような暴挙に出るとは」
騎士の一人が言って、去っていく。
騎士の中に一人女性がいて、先頭を切って馬で駆けている。
黒い髪は肩のあたりで切りそろえられている。
日本人顔だった。
◇
次の日。俺たちはある場所に来ていた。
パメラの案内で来たその場所には木しかない。
森の中だ。
「本当にここであってるのか?」
「ええ。今開きます」
俺の問いに答えると、パメラはエルフの姿になった。
ネックレスの封印を解く。
と、空間がゆがみ、大きな門が現れた。
ゆっくりと門が開く。
門の中に二人のエルフが立っている。
「合言葉を」
「▓▓▓▓▓▓▓▓」
よくわからない発音でパメラが言うと、門番は道を開けた。
里は広く、一つの街をなしていた。
中心には巨大な城が立っていて、そこが王の城だと、パメラがいった。
パメラに連れられて、城につく。
城の門番はパメラを見ると目を見開いた。
「これはこれは、お久しぶりです」
「急いで王に会いたいのですけど」
「それは、なにゆえ?」
「王の娘を連れてきました」