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第10話 リーチ、イヴリンの奇行を調べる

 あくる朝、マリーに起こされた。


「昨日はお楽しみでしたか」


 俺は寝ぼけていて、少し顔を上げ、


「何が?」


 と尋ねた。


「エルフは年齢がわかりませんからね。リーチ様は幼女趣味があったのでしょうか」


 幼女?

 俺は腕の中をのぞいた。

 

 しまった。

 

 シーラがすやすやと眠っていた。

 服が少しはだけているのはサイズがなかったためか。


「いや、違うんだ。何もしてない」

「そうですか。イヴリンには言わないでおきます」


 マリーはくすくすと笑っている。

 と、彼女は思い出したように表情を変えた。


「あ、イヴリンで思い出しましたが、最近彼女の様子がおかしいです。仕事を終えると一人で街に出かけることが多いのですが、何か心当たりはありますか? 昨日も遅く帰ってきましたし」

「いや、ない」


 最近忙しくて、イヴリンのことをよく見ていなかった。

 様子がおかしい?

 どういう意味だろう。


 そのとき、シーラが目を覚ました。


「ふああ。リーチぃ、私のこと離さないでね。昨日はたくさんうれしかった」


 マリーはますますくすくす笑って出て行った。


 主人としての尊厳が今まさに失われた。


「シーラ。シーラ起きろ」


 俺は彼女を揺り動かして起こした。

 彼女は目を覚ますと、一瞬ここがどこかわからないようにあたりを見回していた。

 目が俺を捉えると、


「おはよう」


 そう言ってほほ笑んだ。



 イヴリンはいつも通り、廊下にスキル〈洗浄〉を使って、掃除をしていた。


「イヴリン最近調子はどうだ」

「調子ですか。健康です」

「うん……」


 ええい。ちゃんと聞け俺。


「最近一人でどこかに出かけているそうじゃないか」

「はい」

「どこに行ってるんだ」

「……言えません」


 何と。

 質問に拒否することを覚えたか。


 イヴリンはそのことに気づいていないようだ。

 ただうつむきがちにして、俺と目を合わせようとしない。


「そうか、わかった。変なこと聞いて悪かったな」


 人間として扱うと決めたのは俺の方じゃないか。

 俺はそう考えて、深く追求するのをやめた。



 が、しかし、気になるものは気になる。

 何というか、この感情は、娘の行動が気になる父親のそれに似ている。

 娘いたことないけど。


「何考えてんの?」


 俺がぼーっとしていたからだろう。

 冒険者ギルドの中にあるテーブル。

 向かいに座るリズが俺にそう尋ねた。


「それは警告?」

「純粋な疑問文、よ」


 リズはそう答えて、俺を睨んだ。


「何? やっぱり警告?」

「違うって。昨日何してたの?」

「野暮用だよ」

「野暮用ねぇ」


 リズはイスに深く腰掛けて、腕を組んだ。


「何?」

「パーティを組むのは私だけよね?」

「まあ、今のところは」

「私だけにして。ああ、イヴリンはいいけど」

「いいけど、なんでまた」

「昨日、女と一緒にいるのをみたから」

「女の子だよ。迷子の」

「ローブを着て、フードを深くかぶった、迷子の、女の子、ね」


 ずいぶん言葉を切って話すね。

 おかしいのはわかるよ。


「事情があったんだよ」

「事情ねぇ」


 依然、リズは俺を睨んでいる。


「とにかく、冒険者のクエストじゃない。パーティは組んでない」

「そう」


 俺は嘘をついていない。

 あれは義賊ギルドのクエストだし。

 パーティも組んでない。


「とにかく、私以外とパーティ組まないで。イヴリンとしか組めないじゃない」

「イヴリンが来たのか?」

「昨日ね。Aランクのソロクエストが入るのを待ってたら、ギルドに入って来たわ。掲示板の前で、クエスト探してたから声をかけたの」

「それで?」

「クエストを一緒に受けたわ。パーティなら受けられるクエスト増えるからね。でも、まあ、ほとんど私がこなしたんだけどね。申し訳なさそうな顔してて、こっちが申し訳なくなってくるわ。結構無理やりつきあわせちゃったし」

「ああ、すまん」

「ほんとよ! だから! 他の人と組まないで。私にはあなたしかいないのよ!」


 リズは大声で言った。

 ギルドのどこからか、はやし立てる口笛が聞こえて、彼女は顔を真っ赤にして座った。


「イヴリンには申し訳ないことしたわ。私ばっかり魔物を倒すから、昔を思い出しちゃって、それで、『もっと練習して。闘技場でほかの人の戦い方見てきたら?』って文句みたいなこと言っちゃったから。ごめん。悪かったって伝えておいて」


 珍しくしゅんとしたリズ。

 

 イヴリンはクエストを受けに来ていたのか。

 なにゆえ?

 謎は深まるばかりだ。


「ねえ、今日はクエスト受けようよ。昨日みたいに置いてかないで」

「ああ、今日は大丈夫、だけど」

「だけどなに」


 いらだちの声でリズは尋ねる。

 俺は恐れ、身を引く。


「いや、イヴリンのことが気になってさ。今日闘技場に行ってるのかなって」

「なんで? 私が言ったから?」

「うん、あいつはそういう助言とか命令みたいなものに忠実だから」


 今日の朝はそうでもなかったけど。


 リズは思案顔をして、言った。


「それは、私の責任もあるし。そっか。あそこ結構治安悪いから心配ね」

「え、そうなの?」

「うん。……わかった。じゃあ、闘技場が開く時間までクエスト受けるわ。それで、闘技場が開いたらイヴリンを探して、私が謝る。ここに来なくてもいいんだよって」

「クエストは受けるのか?」


 疲れるから嫌なんだけど。


「私は、生活が、かかってるの! あなたと違って!」


 すんませんでした。



 で、クエストが終わって、闘技場が開く時間になった。

 教会の鐘が午後を知らせる鐘を鳴らす、それが合図。

 

 俺たちは闘技場に来ていた。


 野球のスタジアムのような雰囲気だ。

 闘技場の外には露店が出ていて、うまそうな匂いが立ち込めている。


 リズはふらふらと甘いものを売る露店へと向かっていく。

 俺はついて言って襟首をつかんだ。


「おい」

「いいでしょ食べながら探したって。こんなに広いのよ」

「おまえ金ないだろ」

「う」


 しょぼんとするリズ。

 仕方がないので、俺はその、棒に刺さったよくわからない甘味を買ってリズに渡した。


 んー、甘いな俺。

 

 リズは受け取ると、パッと表情を明るくした。

 わかりやすい奴だ。


「ありがとう!」


 パリパリと、食べ始め、幸せそうな顔をする。


「棒、気をつけろよ。喉に差すなよ」

「子供だと思ってるでしょ。大丈夫よ」


 リズはそう言って、闘技場の中にずんずん進んでいった。

 

 闘技場はいわば、冒険者たちの力試し、自己顕示の場。

 今日の題目、という掲示板に貼られたポスターを見ながら廊下を進む。


 たいていは戦闘訓練を積んだ奴隷と戦うものだ。

 

 ん?

 俺は立ち止まった。


 クマと戦うやつがいる。

 そのポスターは他のより大きい。

 もしかしたら今日のメインなのかもしれない。


 ワイルドベアが立ち上がり、威嚇している絵。

 それに立ち向かう……メイド。

 メイド?


 俺はポスターに張り付いた。

 名前……名前……。






 イヴリン。


 名前の欄にはそう書かれていた。


「おい、いたぞ」

「え?」


 先に進んでいたリズが振り返って、俺をみた。

 俺はポスターを指さした。


 リズは顔を真っ青にした。


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