第9話 任務達成と不穏
シーラを連れて、教会に向かい、ネックレスを渡すと、パメラはいたく感謝した。
俺は義賊ギルドの受付から渡された紙を出してサインをもらう。
パメラはまた深々と頭をさげて礼を言った。
◇
義賊ギルドに入るとき、シーラにはローブを着せて、深くフードをかぶせておいた。
なんとなく、その方がいい気がした。
ギルドに入ると、壁際でポーカーをしている男たちが睨んできた。
なんとなく、ギルド中がじっと俺たちを見ている気がする。
受付の片目バンダナはサインを見ると鼻を鳴らして、シーラの方をちらりと見た。
「ほかに盗んだものはないね」
「当たり前だろ」
女は肯くと受付台の上に報酬を置いた。
50000ルー。
法に触れる仕事だからか、上のギルドより報酬が高い。
俺は受け取ろうとすると、受付の女は言った。
「教会その他、貧しい人々に寄付することもできる。どうする?」
俺は手を止めた。
マリーとイヴリンの顔が浮かんだ。
生活に困っているわけじゃない。
リズの顔が浮かんだ。
子供たちにごちそうを食べさせて、満足そうに微笑む姿だ。
俺は少しだけ微笑んだ。
リズのように面と向かってごちそうするなんて恥ずかしい。
けれどギルドを介してなら……。
俺は報酬を押し返した。
「教会に無名で寄付するよ。よろしく」
片目バンダナは受け取ると、にんまりと笑った。
突然、女は受付台の上に片足を乗せた。
「宴だぞ、お前ら! 新しい仲間だ!」
ギルド内が騒がしくなった。
振り返ると、入り口近くでポーカーをしていた男たちが俺の肩を叩いた。
「久しぶりのギルドメンバーだ。前来たのはただの盗賊だったからな」
「よう、これからは兄弟だ」
胸を軽く小突かれた。
悪い気はしない。
シーラがフードの下できょろきょろとあたりを見回している。
片目バンダナが受付台から降りて、シーラの前に立った。
「こいつのことは分かってるんだ」
そう俺に言うと、シーラのフードを取った。
「こんにちはエルフちゃん」
「こんにちは」
シーラはおどおどと答える。
受付女はパイプをひと吹きすると言った。
「このクエストは試験だったんだ。義賊たる人間かどうかのね。
一つ、任務は必ず遂行。
一つ、任務中に助けを求めるものがいれば必ず助けること。
一つ、懐に盗んだものを隠さず、すべてギルドに収めること。
そして最後に、多すぎる報酬は寄付すること」
そう言って彼女は俺に金の入った袋を渡した。
中に入っていたのは10000ルー。
「この任務の適正価格はそんなもんだ」
片目バンダナは右手を出した。
「ようこそ、義賊ギルドへ。私がここのギルドマスター、アリソンだ」
「よろしく」
俺は手を握り返した。
ギルド内はすでに宴が始まっていた。
料理が運ばれ、エールの入ったコップがぶつかり合っている。
シーラは料理をがっつくようにして食べていた。
「うまいか?」
こくこくと肯く。
「そのエルフについては頼んだぞ。助けたからには責任をもて」
向かいに座ってパイプをふかすアリソンがそう言った。
「わかってるよ」
俺はシーラの頭を撫でた。
「おら飲めよ、わけーの」
髭面の男がエールをなみなみに注いだ。
しかたない。
今日は酔うとしよう。
◇
ギルドを出ると、すでに夜になっていた。俺は頭痛に頭を押さえてふらふらと歩いた。
「家は明日連れていくよ。それでいいか」
「うん……」
シーラはなにかを心配しているのか、早く帰りたいのか分からないが俯いて答えた。
俺はシーラを家に連れて行った。
家を見ると、シーラは言った。
「リーチは貴族なの?」
「貴族だった。落とし子だけど。だからここには俺とメイドしかいない」
「そうなんだ」
貴族にとらわれていたから少し警戒しているのかもしれない。
「大丈夫だよ。俺はシーラを捕えていたやつみたいな人間じゃない」
「うん」
シーラは肯いた。
イヴリンが俺たちを出迎えた。
シーラの姿を見ると首を傾げた。
「そちらの方は?」
「いろいろあって、今日だけ泊まらせる。すまないが、部屋を用意してくれ」
「わかりました」
「ああ、それと夕食は食べてきた」
「そのようですね、酔っていらっしゃいます」
俺は肯いて、それから、シーラに言った。
「疲れただろうから風呂に入ってゆっくり眠るといい」
「お風呂あるの?」
「当たり前だろ」
「久しぶりに入る。いままで体拭いていただけだったから」
シーラは少しだけ微笑んだ。
◇
ことはその夜に起こった。
俺は完全に酔っていて、ベッドに入るとそのまま沈むように眠った。
疲れていたはずなのに、目を覚ました。
「ん?」
うすらぼんやり目を開くと、ベッドのわきにシーラが立っていた。
びっくりして、完全に目を覚ましてしまう。
「なにしてる? おどろかすなよ」
「眠れなくて、それで、……一緒に寝ていい?」
シーラは涙で頬を濡らしていて、どうにも断れなかった。
俺は女の涙に弱いらしい。
「わかったよ」
俺はシーラに背を向けて半分ベッドをあけた。
シーラがベッドに入ってくる音がする。
彼女は俺の背にすり寄って、顔をこすりつけた。
しばらくして、すすり泣く声が聞こえてきた。
俺は驚いて、身体を開いて、シーラを見る。
「私、私ね、嘘を吐いたの。家なんかない。どこにもないの。村は襲撃されて、みんな死んでしまった。私は独りぼっちなの。帰る場所なんかない。それを言うのが怖かったの。捨てられたくない。おねがい。ここにおいてください。なんでもするから」
シーラは俺の胸にしがみついて、嗚咽を漏らしている。
「あの家にいるのはそんなに嫌だったのか? 何かされたのか?」
「べたべた触られた。でもそれはいいの。私はもうすぐ殺されるはずだった。あの人は小さい子を欲しがったの。私はもう体が大きくなってる。だんだん、あの人は部屋にも来なくなってきた。運ばれてくる食事の数もだんだん減ってた。『新しいエルフを手に入れたら、お前は用済みだからな』って何度も何度も言われの。私怖くて。それで……」
「そうか。辛かったな」
俺はシーラの頭を撫でた。彼女は一瞬体を震わせて、拒絶の反応を見せた。
「ごめん」
「違うの。少し思い出しただけ。お願い、頭撫でて。抱きしめて。安心したい」
俺は言うとおりにした。彼女のすすり泣く声が俺の胸の中に響いていた。
「私のこと捨てないで。殺さないで。なんでもするから」
彼女は俺に口づけをしようとした。
俺は顔を背けた。
彼女の口づけは首に当たった。
「何もしなくていい。おいてあげるよ。心配するな」
シーラは声を上げて泣いた。
何度も肯いていた。
「ありがとう……。ありがとう、ございます」
しばらく、彼女は泣き続けた。
◇
〈シビル・カルナス男爵邸では……〉
シビル・カナレス男爵邸に一人の若い女騎士が来ていた。
彼女は叫ぶシビルをなだめている。
「私の宝物が、宝物がなくなってしまったのです。お願いです騎士様。どうかとりもどしてください」
「全力を尽くします」
彼女の名はローナ。
冒険者でいうところのSランクの実力を持つ騎士だ。
彼女のうわさは絶えない。
Aランクパーティが討伐できなかった魔物を一人で倒した。
魔術師と一騎打ちをして、すべての魔法をよけ、一撃で、防御魔法を打ち砕いた。
などなど。
シビルは金にものを言わせて彼女を呼び出した。
「取り戻してください。あのネックレスを!」
「誰に盗まれたか心当たりはありますか?」
「あのシスターです。レフレッド教会のシスターパメラに違いありません。あの女は私にネックレスを売ったくせに異常な執着を見せていましたから」
「わかりました。調査します」




