3
「それ、夫婦として大丈夫なの?」
春の日差しが心地良い昼下がり。
社内にある食堂で凛は同期の美保と昼食をとっていた。
最近はデスクで昼食をとることも多いのだが、同期に誘われて久々に食堂を利用した。
そしてこの昼休憩は専ら凛の夫、弘人の相談コーナーになっている。
美保は明るい茶髪の髪をショートにしとてもボーイッシュな見た目だがそれに反して女子力が高く、彼女の作るお弁当はいつもカラフルで可愛らしい。
ちなみに今日のメニューはサンドイッチだった。
「いますごく忙しいらしいから、落ち着いたら帰ってこれるらしいし」
「にしても週に一日とかしか帰ってこれないなんて、ブラック企業もいいとこよ。確かどっかの社長の秘書だっけ?やだやだ!私の将来の旦那さんは絶対ホワイト企業に勤めてる人にするわ!」
そういって美保は持っていたカフェオレを飲み干した。
良い飲みっぷりに苦笑しつつ凛も持ってきたおにぎりを頬張った。
「うん。それが良いと思う。体が心配だし。でも、立派な仕事だし転職を、だなんて言えるわけもないしね」
「凛。あんたそれ本気でいってるの?」
はああ~と盛大なため息のあと、意を決し美保は顔をあげた
「現実逃避してるみたいだから教えてあげるわ。凛。アンタの旦那はねぇ」
そこまで言ったところで食堂の入り口の方から女子の黄色い悲鳴が上がった。
その瞬間、ガタンっと大きな音をたて椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった美保と、
おにぎりを持ったまま物凄く嫌そうな顔をした凛とで行動が別れた。
美保は鞄にしまっておいた少し小振りのお弁当箱らしきものを持って一目散に出入り口の女子の群れに駆け込んだ。
あの中には美保お手製の愛情たっぷり可愛らしいサンドイッチが入っている事だろう。
一方凛は食べかけのおにぎりをお弁当箱に仕舞い、そそくさと食堂を去る準備をする。
(久々に食堂にきたけど、あいつもここを使ってるのね…)
ため息と共に、結局デスクで昼食をとることになるなら来なきゃよかったと軽く後悔をした。
食堂の出口へ向かいたいのだが、今現在通れる状態ではない。
きゃあきゃあと騒ぐ女子の群れが出来ているからだ。
ちらりと群れに目をやるとソレはすぐに目に入る。
それもそうだ。他の女子に比べてソレは頭一つ分以上背が高いのだから、そう探そうとしなくてもすぐに見つかる。
加えてその容姿。
(金髪碧眼、超絶イケメン社内の”王子“…あいつがいると、騒がしくてお昼どころじゃない)
凛ははぁっとため息をはくとお弁当箱を鞄にしまった。
回りの席についている男性社員たちや大人な女子社員は見慣れた光景なのか気にせず食事を進めている。
開けっぱなしのまま王子のところへ言ってしまった美保のお弁当箱に蓋だけしておく。
このままトンズラしても、美保は怒らないだろう。
(あいつ苦手………キラキラしすぎてて、自分が地味すぎて辛くなるわ)
もう一度はあぁっと大きめのため息を吐き、最後に美保の様子だけ伺って食堂を去ろうと立ち上がったところで目があった。
それはもう、バチっと音がしそうなくらい目があったと確信した。相手はもちろん王子である。
(げぇっ!!)
凛は嫌悪感を隠そうともせず思い切り顔に出した。
にもかかわらず王子はにこりと微笑みそのまま凛の方へと歩いてくるではないか。
凛から、視線を全く外さずに。