1
初めての作品ですので優しく見守っていただけると幸いです。
「……いま、何て言った?」
日本人の地毛によくあるような真っ黒な髪ではなく、少し明るい焦げ茶の髪をボッサボサに乱れさせ、手には海外に長期滞在するときに使用するような大きなキャリーバックを持ち唖然とこちらを見る少女に、思わずくすりと笑みが漏れる。
「聞こえなかったかな?」
「そ、そうかもしれないから、もう一回言ってもらえます?」
先程よりさらに目を見開き、くわっとこちらに噛みついてきそうな勢いで彼女は一歩近付いた。
「うん。だからね」
彼は軽く両手を広げ彼女ににこりと微笑んだ。
まるで、「この胸に飛び込んでおいで!」とでも言っているような雰囲気である。
「“契約”通り、僕の住む国…異世界に移住してもらうねって、言ったんだよ?」
彼女はガクンと膝から崩れ落ち地面に両手をついた。そのまま長い髪も地面に触れている。
「ああ、ダメだよセンパイ。汚れちゃう」
彼は慌てて彼女の腕を取り立たせると、甲斐甲斐しくスカートについた土を払い、髪を手櫛で整えて背中に流した。
先程までボサボサに乱れていた髪はきれいに整えられ、彼は満足げに頷きうっとりと、目を細めた。
さらりと心地のいい風が吹き、彼の輝くような金髪が揺れた。深い海のようなきれいな瞳は、今はうちひしがれている彼女しか映っていない。彼女の絶望した表情に見惚れていた。
ちなみにその間彼女は肩を震わせ俯くのみで、髪を触られたことなどに反応などは一切無い。
「…………」
「大丈夫?センパイ。辛いと思うけどこのままだと夜が来て少し危ないから、早く森を抜けようか」
彼は彼女の持っていったキャリーバッグをさっと奪い空いた手を握って草と砂利と木々の生い茂る森を歩き出した。が、繋いだ手はクンッと後ろに引っ張られ思わず振り向くと彼女と目があった。
先程までの絶望した表情とは打って代わり
その瞳には感情が溢れ輝いてさえ見えた。
ただしその感情は明らかに”怒気“であったが。
「…んで…」
「ん?」
そんな表情も可愛らしいなと思わず微笑ましく見ていた彼は彼女の低く唸る声を聞き取れなかった。
「ごめん、もう一回?」
「っ!!」
彼女は勢いよく顔をあげると彼をものすごい形相で睨み付け声の限りに叫んだ
「っなんでソレを先に言わないんだこのバァカぁあああーーー!!
」
彼女は叫びながら右手を強く握りしめ、彼の鳩尾にめり込ませた。
「ぐっ?!」
まさかの一撃に受け身をとれずもろに食らうことになる。
そんな彼を、肩で息をしながらにらみつけ、彼女は心の底から後悔していた。
(私も……! “契約”内容を事前にしっかり確認しないなんて愚の骨頂じゃない! バカバカっ! バカヤロー!!)
そのまま彼女は座り込み、木々の間から見える空を見上げた。
(……なんで、こんな、ことに)
彼女は痛む腹を押さえた彼に見向きもせずこの怒濤の一ヶ月間を思い出していた。