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ボクの依頼主は、お姫様  作者: 京極 緋菜
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マリとマーガレット


 「実験開始」


 ガラス越しに見える大きな円柱の中には、小さな女の子が浮かんでいた。


 動力が円柱に伝えらる。


 「第一段階クリア、第二段階に移行します」


 眠っている少女の顔が僅かに歪む。


 「第二段階クリア、魔力発現します」


 円柱を赤い光が包む


 「「「「おおおおお」」」歓声が起こる。


 喜びに湧く人々には、円柱の中に浮かぶ少女の口元が僅かに「お姉ちゃん」と動いたことを気付く者はいなかった。


   ☆


 「マリ、買ってくるもの覚えたの?」


 「えっと、お豆腐とキャベツにお肉とお菓子ッ!なのです」


 マーガレットは8歳になる妹のマリにお金を渡す。

 両手で小さなお皿を作り、お金が受け取り落とさないように蓋をすると巾着袋に流し入れた。


 「落とさないでね」


 「うん、大丈夫なのです」巾着袋をギュッと握りしめ満面の笑みを作った。

 

 最近になって近所へお使いが出来るようになった妹が可愛くて仕方ないマーガレット


 「やっぱり、お姉ちゃんも一緒に行こうかな」


 心配なのでなく、可愛い妹と一緒に買い物がしたいだけだのマーガレット


 マリは小さな頬をプクッと膨らませる。


 「一人で行くのです、お姉ちゃんはお家にいてなのです」


 キッパリとデートを断られたマーガレットは肩を落とすが、少しずつ出来ることが増えていく妹の成長を感じることが出来て、表情が緩む。


 「行ってきま――す」


 マリはお金が入った巾着袋を胸に抱き締め玄関のドアを開ける


 「気を付けてねッ!お店のおじさんによろしく言ってね」


 「ハ――イっ!」


 マリを見送ったマーガレットは家と併設された衣類店の開店準備に掛かった。


 ☆


 「お豆腐、キャベツ、お肉、お菓子ッ!なのです」


 頼まれた物を忘れないように何度も言うマリ。


 お金を入れた巾着袋も大事に両手で持って。


 「お菓子……何買おうかなぁ、ウフフ」


 思わず笑みが溢れる


 あの角を曲がったら、目的のお店までもう少し。足取りも軽やかになる。


 若いカップルのすぐ横をマリが通り過ぎる。


 「見て、前の女の子可愛いねぇ 大事そうに何か握り締めて、嬉しそう」


 「ああ、あの子は確か洋服屋の妹さんじゃないかな、名前は分からないけど」


 マリが細い路地に入るのが見えた。


 カップルもその路地の前に来たので、何となく、会話の話題になったマリを路地に見つけようと、視線を横に向ける。


 しかし、女の子の姿はもうそこにはなかった。


 あれ? 


 どこに? 


 カップルの興味はその一瞬だけだった。何気ない会話の一コマ、疑問にさえ思わない。


 「ねぇ この先に美味しいお店あるの知ってる?」


 「パスタの美味しいお店だろ、知ってる」


 


 それが、その日マリを見た最後の人だった。


 ☆


 店の奥に通された。レアとセナ、そこが居住スペースで家のリビングに案内された。


 2人を4人掛けのテーブルに座らせ、飲み物の準備をするマーガレット


 「御構い無く、すぐ帰るから」


 セナは早く帰りたそうに、外ばかり気にする。そんな姿に苦笑いするレア。


 温かい紅茶をテーブルに置くと、マーガレットも椅子に座った。


 「まずは、私の名前はマーガレット この店のオーナー」


 「ワタシはセナ こっちはお供のレアにぷぷとアレッサ」


 適当な自己紹介をされて不満を口にするお供達だが、セナの鋭い視線で沈黙する。


 「早く用件を言って下さい」


 紅茶を一口飲むセナ。


 マーガレットは一枚の写真をテーブルに置いた。

 そこには、マーガレットと笑顔の可愛い女の子が映っていた。


 「妹のマリよ、2ヶ月前に行方不明になったの」


 「行方不明者の依頼なら、組合に出せるじゃない」


 ふぅ、と安堵の声を漏らすセナは、もう一度紅茶をすする。


 「無理なのッ! 組合にはもう何回も頼んだの、でも、全く取り合ってもくれない、理由すら教えてくれないッ!」


 テーブルに置いたある、紅茶の水面が大きく揺れた。


 「アレッサ、この女の子追える?」


 『はい、追跡します……………見つけました、ここから北に約30キロ 民間機械製造施設を装った、政府実験施設のB3階 R-202号室に監禁されています』


 ――――ッ!「「なんですってッ!?」」


 「ちょ、ちょっと待ってッ! 本当にマリを見付けたの!?本当にマリ?!」


 「映像出せる?」


 『監視カメラの映像を出します』


 アレッサは、壁に監視カメラの映像を投影した。


 「マリッ! マリッ! 」


 聞こえる筈のない映像に必死に声を掛けるマーガレット


 映像には6畳くらいの薄暗い部屋のベットに腰を掛ける女の子がいた。


 「マーガレットさん、落ち着いてください」


 レアはマーガレットを壁から遠ざける。


 「レア、アレッサが言った政府の施設って本当?」


 セナの様子もおかしい、ティーカップを持つ手が僅かに震えている。


 『書類上は民間企業が運営していることになっていますが、出資元はカモフラージュしていますが国家です』


 セナはゆっくり立ち上がると、マーガレットに頭を下げた。


 「この依頼、私が引き受けます……必ず妹さんを、ここに連れてきますので……失礼します」


 セナは部屋を飛び出した。


 「ぷぷ セナさんを追い掛けてッ!」


 「はいさぁ」


 ぷぷは、セナのあとを追い掛けた。


 「じゃあ、ボクとアレッサは施設に行こうか」


 レアはセナが施設でなく違う場所に向かったのが分かっていた。


 レアはマーガレットに近づく。


 「すぐに戻ります、妹さんの好きなご飯でも用意しといてあげて下さい」


 泣き崩れるマーガレットに、近くにあったタオルケットを掛ける


 「アレッサ、施設までの最短経路 誘導よろしく」


 レアは北に向かって駆け出した


 

 

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