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さああなたも始めよう『シクバイダ』!

 徐々に明かされていく、本当は怖い『シクバイダ』世界。

 

 召喚された、この世界では名があるのだろう『英雄』の皆様方を吸い込み保存したエジキをさておいて。

 あと三人分、ガチャの結果が残っているので俺はそちらに意識を向けた。

 

 次いで一歩踏み出したのは、どこか疲れた顔をして笑う中年の男だ。顎髭を生やして、何故だか胸元を開けてスーツを着こなしている。

 

「よー、絆の! おじさんはマイストン。マイちゃんって呼んでくれても良いぜぇ? ま、それなりに仲良くやろうや」

「あ、どうも」

 

 若干、金色のオーラが出ている……察するにSRだな、このマイストンさんは。

 っていうかキャラ詳細とかないのか? 誰ぞ分からん連中をさあ『英雄』です、なんてぽんと出されても、こっちだって分かんないぞ。

 俺はリボに問いかけた。

 

「どうなんだそこんとこ。日本人呼んでんだから向こうの英雄とかで良いんじゃないのか、名前」

「け、権利関係の問題でちょっと……リボ。前に一度、向こうの創造神に訴訟ちらつかされたことがあって、リボー……」

「そ、そうなの……権利は守らないとね、うん」

 

 神様の間にもそういう権利関係のいざこざはあるのか……世知辛いと言うべきか、法整備が整っているようで何よりとすべきか。

 

「マイストンさんですね! 私はセイセイ! よろしくお願いします!」

「おー、また元気なお嬢さんだねえ。出身地の違う『英雄』だろうけど、まあよろしく頼むわ」

「はい!」

 

 さっそくユニット同士、交流を始めている。くたびれた中年おじさんと活発な少女の組み合わせがまるで親子だ。

 しかし出身地か……キャラによっては出身地が同じなのもそりゃあいるんだろうし、となれば縁のあるキャラ同士もいるのかもな。

 

「キャラの設定とかまとめて見れないのか? 分からんぞ正直」

「直接聞けば良いリボ? データ相手じゃないんだから、そこら辺もコミュニケーション次第リボ」

「あー、そっか……中々ゲーム感覚取れなさそうだ」

 

 ソシャゲっぽいシステムのソシャゲっぽい世界だからか、どうしても意識や感覚がソシャゲやってるみたいになりがちだ。

 いかんいかん。ゲーム脳とか言われちまうよ。

 

「まあそれはそれとして、そのうちキャラや世界観の設定げふん、情報について纏めた資料集を発売するリボ! そちらの方もよろしくリボよー!」

「引き裂くぞゲーム脳が!」

 

 創造神からこの調子だ、仕方ないのかもなあ……

 見た目だけは可愛らしい邪神入りマスコットに、俺はげんなりとした視線を向けるのであった。

 

「……あ、あの」

「うん?」

 

 ──と、微かな声で呼び掛けられる。

 振り向けば小さな女の子が、俺の服の袖をくいくい、と引っ張っている。

 

 小学生低学年くらいの、幼い子だ。青い髪を下ろし、赤い瞳でこちらを見上げる、頬っぺたの柔らかそうな愛らしい子。

 不安そうな、困ったような顔で俺を見ている。

 

 え、誰? 死ぬ程可愛いけど。

 

「あ、あの! きずなのえーゆーさん、ですよね? わたし、リュージュっていいます! えと、がんばります!」

「──『英雄』!?」

 

 台詞からしてガチャで来た子だ、この子!?

 いやいや待て待て、こんな小さな子が、一体何の英雄だ!?

 

「おいリボ! お前の世界観どーなってんのぉ!? こんな幼女が『英雄』って、ええぇ!?」

「落ち着くリボ! 痛いリボ! 愛らしいマスコットになんて乱暴するリボー!?」

「何が愛らしいじゃボケ、中身は邪神やろがい!」

「邪神違います! 謂われない中傷はペナルティですよ!?」

 

 図星突かれて中の人が出てくるのが何よりもの証拠だろうが!

 邪悪なぬいぐるみの両腕を掴むとジタバタもがいていたのたが、やがて疲れたのかぐったりと萎れたように脱力し、リボは仕方なさげに話し始めた。

 

「この子は『神陣営』の『英雄』だリボ……所謂天使だから、見た目は幼いリボよ」

「天使……ってか陣営ってなんだ」

「『英雄』には皆、所属している陣営と属性があるリボ。スキルによってシナジーする者もいるから、チーム編成時の一つの基準リボね」

「スキルて」

 

 いやまあ、ソシャゲ的なシステムにはあるけどね、そういうタイプとか属性とか。

 しかし……幼女リュージュを見る。

 

「あ、あの! らんぼうは、だめ、ですよ?」

「……そうだねリュージュちゃん。ごめんごめん、今度から君のいないところでやるよ」

「陰湿な虐めを宣言したリボ……こわいリボ……」

 

 リボをポイ捨てし、俺はリュージュちゃんと視線を合わせるべく膝を折った。

 可愛らしく満面の笑みで抱きついてくる幼女。天使か! いや天使だわ。

 

「えへへ! よろしくおねがいします!」

「んー、よろしくねー、俺は金太郎。金ちゃんで良いよーリュージュちゃーん」

「うん、きんちゃん! えへへー!」

 

 子供特有の、高い体温、ミルクの香り。

 すべてが庇護欲を掻き立ててくる……なんて愛らしいんだ。こんな子が戦ったりとか、ないわー。

 

 今更、痛感する。

 ソシャゲには結構、このくらいの小さな子とかいる場合もあるけど……そんな子に戦わせるとかプレイヤーはどうかしている。

 

 子供はやはり、家でぬくぬくのびのび、血なまぐさいことからは離れて育つのが良いに決まっているのだ。

 過去の俺もレアリティや性能の都合からいくらかやってきた所業。それを悔いていると、後ろでリボがぼそりと呟いた。

 

「ちなみにその子、SSRリボよ。現在実装されている12体のSSRのうちでも屈指の強スキル持ちリボ。遊ばせとくのは勿体ないリボよー」

「悪魔かテメエはぁ!? 何考えてそんな設定にした!? あぁ!?」

「あっ、痛いリボ! 離すリボ! 日本人は特にこういう幼げな女の子に金払いが良いリボ、その上壊れスキル持ちならガッポガッポリボ!」

「商魂隠せやちょっとは! ユーザーは貯金箱とちゃうんやぞオラァ!?」

「き、きんちゃんだめだよー!? らんぼうはだめー!!」

 

 あまりに心ない調整を仕掛けてくる邪神に耐えきれず──やはり、胸ぐらを掴む俺であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひとまずリボを締め上げてから──さて、と俺は紙切れを一つ取り出した。

 プレミアムチケット……SSRを確定で引き当てられる奇跡の券だ。

 

「後はこれ使えばようやくスタートか」

「チームは5人編成リボ、だからフルメンバーでいく場合、さっきのRユニットから一人だす必要があるリボ」

「数合わせか……もう一体SR以上がいれば良かったんだけどな」

 

 最初に引き当てたセイセイはともかく、正直Rは使う気になれない……せっかく育てても戦力が整ってきたら使わなくなるなんてザラだしな。

 そうなったら個人的に罪悪感というか、後ろめたさも出てくるだろうし……データ相手ならともかく、ここじゃ生身で触れ合う相手だしなぁ。

 

「あーところで、リボ。さっきの10連、最後に出てきたこれ、何だ?」

 

 言いながら何かの種らしい粒を見せる──10連ガチャの最後、これだけが出てきた。

 訝しみつつ手触りを確かめていると、リボによる解説は始まった。

 

「それは既に引き当てた『英雄』を引き当てると代わりに出てくる、『スキルシード』リボね。ユニットに与えると確率でスキルが強化されるリボ!」

「……廃課金御用達のやり込み要素か」

 

 ガチャに魅入られし悲しき怨霊、廃課金。

 己の生活さえ課金に充てる完全なる中毒症状を起こした者たちのための、ソシャゲ運営からのやり込み要素。

 極めれば強力なんだけど、極めるために色んなものを手放さなければならない──そんなコンテンツ。

 

「救済要素と言って欲しいリボ。何しろ同じユニットが何体もいたら、分かりづらいリボね」

「何でも良いけどよ、スキルマ……スキルレベルマックスにさせないと攻略できないとかになったら俺はもう投げるぞ。ログインだけして遊んで暮らす」

「ログイン勢は困るリボ! 肝に命じるリボ!」

 

 よほど困るのか、即答してきた──まあ、そうだろうな。

 与えるだけ与えて食っちゃ寝されたら意味がない……程々のバランスで適度に遊ばせて、なんぞ知らんが発展に必要なものを得たいのだろう。

 

 やれやれと息を吐きつつ、俺はエジキを起動する。

 今度は『プレミアムチケット英雄召喚』の画面に遷移し、俺はタップした。

 

 エジキと共に宙に浮かぶチケット──そして発動する魔方陣。今度もやはり段階を経て虹色へと変わっていく。

 

「最初から虹色で良いだろ」

「最初の10連でSSR引けなかった人のための、演出のサンプリングだリボ。金太郎さんは運良くリュージュを引けたけど、普通はSR止まりだリボね」

「……ちなみにその、各レアリティの排出率は」

「企業秘密リボ? ここ日本じゃないから提供割合の表記に関する法律はないリボー」

 

 そういうところは杜撰か!

 というかその物言い、かなりどす黒い確率してないだろうな、本当に。

 

 渋面を浮かべて破裂する魔方陣を見詰める。

 糞運営一歩手前……そんな感想を抱きながら、やってきた『英雄』を見た。

 

 艶やかな黒髪、妖艶な肉体に際どいドレス。

 妖しく笑うその美しい顔が、俺に向けられていた。

 

「ミストルテイン。かつて龍の国を統べた偉大なる女王である。跪け──絆など妾には無用、忠誠と服従を以て我に仕えよ、豚」

 

 尊大な、けれどそれが鼻に付くことなく似合う美女。

 上に立つことを義務付けられたような、絶対的カリスマ支配層の存在……そんなオーラを放ちつつ、ミストルテインなる彼女は顕現していた。

 

 うおー……えらい美人や。セイセイとはまた違う、セクシーさがある。

 まじまじと見詰めていると、リボが喜びと共に言ってくる。

 

「やったリボね! 彼女はSSR『英雄』、ミストルテイン! 龍陣営最高にして闇属性最強のユニットリボ! ……今のところは」

「インフレ示唆するのやめろ。えーと、金太郎と言います、よろしくミストルテインさん」

「ふん……みすぼらしいな。それに無礼だ」

 

 ミストルテインさんは挨拶する俺をジロジロ見て、鼻で笑う。

 うーむ、高飛車な……しかしこのタイプ、好感度を上げれば分かりづらいデレを見せてくれるタイプと見た。

 大好物です。

 

「精々妾のために尽くせよ、豚。さすれば少しは褒美をやらんこともない……妾に可愛がられたいのならば、それ相応の努力をせよ」

「ちなみに好感度はこうして拠点に出しているだけで僅かながらでも勝手に上がっていくリボ。乞うご期待リボ」

「言うタイミングを考えろよお前」

 

 システムの仕様とちぐはぐなこと言うキャラっているよねー。

 そんなことを考えつつ、ようやくこれでひとまずガチャを終えた俺。

 いよいよ、最初の活動が始まろうとしていた。

 

「まずは『ハジマリ草原』リボね。チームは四人で良いリボ?」

「おう。まあすぐにガチャの機会もあるだろうしな……そん時にRしか出なかったらあと一人は考えるよ」

 

 問い掛けるリボにそう答える。

 今から行くところは『メインシナリオ』の一番最初のマップだ……恐らくはチュートリアル解説があったりするのだろう。

 

 そしてこれが重要なのだが……初回クリアとか、特定の条件を満たしてクリアとかすると英雄石がボーナスで入る。

 それにデイリー以下各種ミッションをクリアすることでも色々と手に入るのだ。

 

 これをしばらくは貯める。そしてまたガチャをして、戦力を増強する。

 なるべく高レアリティのユニットだけのチームにしたいので、Rはセイセイだけだ……そんなわけで今回は、セイセイ、マイストン、リュージュ、ミストルテインの四人での行動とした。

 

「リュージュも連れていくリボね」

「背に腹は変えられんしな……有用なスキルを持つ強力なユニットなら遊ばせてられんだろ、今は」

 

 舌の根も乾かぬうちに前言を翻すようでアレだが、強いと言うなら使いたいのが人の性なのだ……ごめんリュージュちゃん。

 

「セイセイおねーちゃん、だっこしてー!」

「良いよー! んー、可愛い! 天使みたい!」

「実際、天使なんだろぉ? おほー、良いねえおじさん和んじゃうよ」

「下らん……」

 

 呼び出した『英雄』四人はそれぞれコミュニケーションを取っている。

 うーむ、ユニット同士の会話、か。シナリオ中での出番やボイスでの言及があるようなゲームもあったが、こうした何もない日常を見られるようなものって中々無かったように思う。

 

 二次創作とか捗りそう──そんな益体もないことを考えつつ、俺はリボに続けて言った。

 

「とりあえず四人。それで行くからよろしく……あーそれとさ」

「なにリボ?」

「『イベント』は今、やってないよな?」

 

 それはソシャゲの華。期間限定でシナリオやマップ、アイテムが出現し……あまつさえ特別なキャラクターを実装したガチャイベントも行う、お祭り騒ぎだ。

 

 もしも今イベントが行われているなら、そっちへ手を付けることも考えなくもないが……ガチャにその手のものが無かったし、十中八九何もない期間だろう。

 案の定、リボは頷いた。

 

「やってないリボよ。こないだリリースした直後で、転移者も各種システムや新生活に慣れてないリボ……そんな中でイベントやってもみんなを混乱させるだけ、最悪イベント踏破者0なんてあり得るリボ」

「リアルの生活に直結してる分、まずは楽しむことより慣れることからか……そりゃそうだわな」

 

 好きな時に好きな分触れるソシャゲとは違い、ここではそれしかないのだ……やるしかない義務となるなら意識も変わる。

 まずはシステムを把握すること、それが先決か……

 

「イベントについての情報はリボが伝えるリボ。今はとりあえずこの世界のあり方に慣れて欲しいリボよ」

「分かった。とりあえずステージに行ってみるか……良い感じの草原なんだよな?」

「リボリボ。システムに慣れがてら、散歩とか昼寝とか、ピクニックがてら遊ぶのも良いリボ」

 

 色々あって気疲れしてきている俺を見抜いたのか、リボはどことなく労るように言ってきた。

 ピクニックか……子供の頃以来かな? 外で寝っ転がってのんびり過ごすのも良いかも。

 

「草原行くんですか? 私たちもお供します!」

「よろしくなぁ金さん。おじさんガンバっちゃうよぉ」

「えっへへ、ピクニック、ピクニック!」

「下らん……仕方なく力を貸してやる。泣いて感謝せよ、豚」

 

 チームメンバーがぞろぞろ寄ってくる。

 なんともバラけた、個性的な連中だ……当面はこの四人がメインなのだろうな、きっと。

 

「よし、行くか……どうやれば良いんだ? ていうか、何か消費したりするのか? スタミナとか」

「考えなくもありませんでしたが……それをすると強制的にこの家から出られない期間が発生してしまい、半ば監禁になるため精神衛生に良くないんですよねー。なのでオミットしました」

「お、おう……」

 

 いきなり中の人出てくるの止めよう?

 せめてワンクッション置いてから出てこよう?

 

「ともあれ移動はリボにお任せリボ。ハジマリ草原──レッツゴーリボ!」

 

 可愛らしい躍りを見せるマスコット──これも演出だったら、毎回見せ付けられそうで嫌だな……

 と、思っていると視界が一瞬暗転。続けてすぐに、見渡す限りの大草原が広がり俺は目を剥いた。

  

「おおっ!? 変わった、瞬間移動か!」

 

 あまりにもリアルな質感。五感すべてがここは現実だと訴えて伝えてくる。

 いや……何度も忘れそうになってるけど、もうこれは現実なんだ。俺はあの日本から、このシクバイダにやってきたんだ。

 それが今、本当の意味で実感できた。

 

「ようこそシクバイダ最初のマップ『ハジマリの草原』へ! ここがあなたの第一歩、そして世界が始まった場所!」

 

 リボが言う。

 俺の冒険が、始まったのだった。

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