シクバイダは絆の紡がれる世界!
あるところに創造神がいました。
創造神とは造る神様。世界を造り、命を造り、そして光と闇を生み出し管理する。とてもすごい神様です。
そんな創造神はある日、他の創造神が造り上げたとある世界のとある国に興味を持ちました。
日本という国です。いえ……正確には、日本という国を中心としたとある文化に着目したのです。
それは非常に素晴らしいシステムでした。
知的生命体の持つ欲望を程よく刺激し、程よく満足と不満と、そして金銭を回収するシステム。
それを見て創造神は思い付いたのです──これは、転用できると。
「そして私はシクバイダを創りました。人間の欲望を上手に刺激する、あの『システム』の思想を流用し……この世界をより良く整えるために必要なエネルギーを回収することを思い付いたのです」
「邪神やんけ」
「創造神です失敬な!」
失敬も何も、やってることが完全に邪神なのだから仕方ない。
ソシャゲレベルならまだ個人の責任で済むこともあろうが……死んだ人間を呼び寄せておいてそれは酷い。
「せやったら人間も自前で用意せんかい。何でよその世界からかっぱらっとんねん」
「それは、その……費用節約のために、ひとまずは中古の魂で切り詰めていこうと思いまして」
「中古言うな!」
何て失礼なやつだ。いうに事欠いて中古呼ばわりとは……
腕を組み考える。
色々とあり得ない話が続いて混乱するが……ひとまず整理しよう。
「迷惑な創造神が出来の悪い体験型ソシャゲを作って、日本で死んだ奴を引きずり込んでる、と。まさかと思うけど呼び込むために殺したりしてないよな?」
「そんなことしません! 若くして不慮の死を遂げられた方のみ、あの世界の創造神から許可を得て呼び寄せています!」
「許可を出すなようちの創造神も……」
聞いてるだけで頭が痛くなる。なんて神様どもだ、ちくしょう。
ふう、と息を吐いて落ち着く。とりあえず、現状はそこそこ分かってきた。
「……仕方ないけど、この世界に呼び込まれた以上はここで生きていくしかない、よな」
「! そうだリボ、金太郎さん! さあ絆の力で英雄を召喚するリボー!」
「何さっさとキャラ戻しとんねん。まだ用事あんねや、やめい」
「はい……」
まったく……
さて、次はどうするべきか考えるべき、だ。
俺はふよふよ浮かぶぬいぐるみに問う。
「具体的にどうしたら良いんだ、俺は。リボじゃなくて中の人が答えてくれ」
「あ、はい。ええと、一応『メインシナリオ』と『イベントシナリオ』の二通り用意しておりまして……」
「何でそんなことを……」
「目標がないのも寂しいですし。あとシナリオ追加にかこつけて新規英雄実装すれば捗りますしね!」
「ガチャか。ガチャだな。ガチャだろ!」
「『英雄召喚』です」
この女!
「……まあいい。シナリオを攻略していけば良いの? ゴールあんのか?」
「一応は。貴方たちの活動によって得られるエネルギーでこの世界は発展しますから、次第にコンテンツも充実していくと思いますよ」
「ほー……ところでそうだ、この家から出られないの? ドア開かないんだけど」
気になっていたところを問い質す。
大体やることは分かったし、こうなった以上はやるしかないんだろうが……この家に引きこもりっぱなしではまさかないだろう。
そう思っている俺に、あっけらかんと女神は告げた。
「あ、今はちょっと。外は今は異空間になってて出ると死にますから、強制的に隔離させてもらってます」
「……いや、いやいや。窓の外は町なんだけど」
「おどろおどろしい混沌の広がる風景を見続けると発狂すると思いますから、演出でそうしてみました。結構真に迫ってますよね、えへ」
えへじゃねえよ。
声音から何やら可愛らしく自慢げなのだろう中の人を思い浮かべつつ、しかし配慮自体はありがたいので良しとしておく。
良しとしておかなければ、話が進まない。
「はあ……それで、シナリオ進めるのはここでなのか? 家の中でシナリオ進むの?」
「いえ。シナリオ攻略用のマップだけは作ってます。まだまだ開発途中ですけど……行ってみます?」
「どんなとこ?」
「最初のステージですし原っぱですよ。陽当たりも風も柔らかな、ピクニックに適してるところですね」
それを聞いて俺は頷いた。とりあえず、この閉鎖空間から一旦逃げたい……現実逃避なのは分かっているが、混乱もあってか気が滅入る。
ぬいぐるみはそれを受けて中空で一回転してみせた。歓喜の仕草だろうか。
「分かったリボ、それじゃあ行くリボ! ──っとその前に、『英雄召喚』をするリボー!」
「……おう」
歓喜の仕草でした。
こうして俺は、まんまと『英雄召喚』なるガチャをすることになったのであった。
エジキの画面を点ける。実に課金意欲をそそるデザインを前にする俺に、リボは言った。
「『英雄召喚』は一回につき5個、英雄石が必要になるリボ!」
「……ですよね、はい」
まあガチャだしそりゃそうだ、当然あるわな……『石』。
それは数多のソシャゲプレイヤーが求めて止まず、時には生活費まで削ってしまう魔性の宝石だ……時には別の形で提供されることもある。
ふう、とため息一つ。リボに言う。
「手持ちねーぞ、俺? そもそもこの世界だとどうやって手に入れんだよ」
「無償石は定期的に入手できるリボ! 毎日や毎週、毎月のミッションだったりシナリオ攻略時に課される条件をクリアしたりすると初回のみもらえるリボー!」
「あー、うん……そっか、ミッション形式あるのかー」
デイリー、ウィークリー、場合によってはマンスリー。
期間内に指定された行動をすることで報酬を得ることができる、ソシャゲ恒例のシステムはここでも健在らしい。
そこもまあ、知れて良かったのではあるが……本題はそこではない。
「『有償石』は?」
「──」
実費を伴う入手法、すなわち課金。
それについて質問したところ、リボの動きがピタリと止まった。
いきなりすぎて不気味だ……覗き込む俺に、ぬいぐるみは口を開いた。
「課金につきましては日々の活動に応じて支払われる『給料』からご自身の状況に合わせた額、ご購入頂けます」
「いきなり中の人出てくんなや! ビビるやろ!!」
「そうは言われましてもこればかりは、デリケートな問題でもありますので……」
普段リボの口調なのだが、こいつ中身はあの女なんだよな……しばらくしたら忘れそうだ。
不覚にも跳ねた心臓を抑えつつ、しかし聞き捨てならない部分も押さえる。
「『給料』? 日々の活動って、シナリオ攻略か」
「はい。シナリオマップやイベントマップ、その他の特殊マップを攻略すれば基本給に上乗せされます」
「基本給はあるんだな……」
「やる気なく過ごされる場合でも、最低限度の生命活動はできるようになっております」
変なところで良心的だ……ベーシック・インカムとは。
まあ現状、引きこもるのは無理だろう……偽りの町を眺めながらこの、そこまで広くない部屋で何もせず引きこもるなど地獄でしかない。
理解したと両手を挙げる。
「オーケー。で、今回の場合はお前がくれるんだろ、初回石」
「さすがお詳しいリボ! はい、英雄石5個リボ!」
ぬいぐるみにポンと手渡された、ビー玉ほどの大きさの虹色の石。
うーむ……ガチャだ石だと言ってはきたが、実際の現物として『石』に触れるなんてのははじめてだ。
こんなので何かしら喚べるのか? 本当に?
「それに加えてななな、何とぉ! 新規転移者のためのスタートアップキャンペーンがあるリボ!」
「おっ。そっかそういうのもあるか」
「リボリボ。今日から七日間、毎日活動すればするだけボーナスが付くリボよー」
つまりは初心者キャンペーンだな、これは。
そしてこの分だとログインボーナスもあるみたいだ……何かしらの活動を以てログインと見なすのだろう。
「で、初回は?」
「ぬっふふふリボー……じゃーん!」
どこからか取り出されたのは金色の紙切れだ。
何やらよく分からない言葉が書かれてある。
それを俺に渡しつつリボは、高らかに言うのであった。
「『プレミアムチケット』リボー! なんとこれ一枚で! ランダムで一体、最高レアリティであるSSRユニットが手に入る赤字覚悟の代物だリボ!!」
「おい中の人。不満が漏れてるぞ」
「リボ?」
可愛らしく首をかしげるな、折るぞ。
ともかくチケットを受けとる……これはたしかに、すごい代物だ。
最高レア、SSR……大体どのソシャゲでもレア度が高いと性能も高い。場合によっては大枚はたいてまで手にいれたのが金メッキでした……などユーザーの怒りを買うだけだからだ。
これで強いユニットを手に入れられれば、シナリオ攻略とやらも捗るかもしれない。
そうすればこの開発途中な世界も発展して、やがては家の外にも出られるだろう。
よし……何となく、目標が定まってきた。
「それじゃあ、さっそくやってみるかぁ……」
「それに加えてリリース開始キャンペーンにつき英雄石を50個、プレゼントだリボ! これで10連できるリボね!」
「おほ、中々分かってらっしゃる」
「これに釣られて色々やって、見事に財布が空になったことがあるリボー……」
「廃課金か!?」
それで良いのか創造神?
さておいて、記念すべき最初の一回目ガチャ……リボからもらえた石を使って例の『ピックアップ英雄召喚』なるものを回すことにしたのだ。
「他にも色々召喚法は実装していくリボ! 何なら石を貯めとくのも有効リボね!」
「色々ねえ……」
「有償ガチャも随時更新していきますからお忘れなく、金太郎さん!」
「いきなり中の人に戻るな……あと言っとくけどな。もしもステップアップガチャなんか導入してみろ、殺すからな」
「そんなに!?」
段階を踏んで複数回行い、後になる程ガチャの内容が豪華になる形式のガチャ──無償石でもできるならまだしも、大体有償石オンリーだからアレは嫌いだ。
と、いよいよ画面の真ん中、『召喚』ボタンを押す。
するとエジキが勝手に宙に浮き、手に持っていた英雄石5個がその周りを漂う。
そしてそれを中心に、立体的な魔方陣が球形状に展開された。
「おおお!? これあれだな、ガチャ演出だな!?」
「ちなみにSRは金色、SSRは虹色に変わるリボ!」
「ほう!」
「まあ初回は確定でRなんだけどリボね!!」
「窓から投げ捨てるぞクッション人形が!!」
言い合いをしている間にも演出は続く。
エジキを完全に包んだ魔方陣が、やがて中心に収縮し──
そして破裂するがごとく弾けとび、何者かを召喚した!