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第九話 因果応報。

前半が魔王軍元帥、ローグの部下デフック視点。後半はチート組のリーダー、悠太君です。本当に遅れて申し訳ありません。明日は十時ごろ投稿します。

「頭が痛い……。なんだこの被害は」


 珍しく、私の主が頭を抱えている。いつもは陽気で色香に弱い。忠誠を尽くすに値する主が、顔をゆがめている。


「デフック、軍はなにをしている」


 いつもの姿からは想像できないほど冷たい声に、流石は魔王様の息子だと感心させられますが、今はそんな時じゃない。


「はっ。召喚された勇者たちは神出鬼没だそうで、対応が後手に回ってしまっています」

「対策は」

「既に」


 王国との国境を接する村や街は既に避難が完了しているが、六個師団を派遣した。これで当分は被害も抑えられるでしょう。ですが、これも後手でしかない。こちらから仕掛けるか、向こうに仕掛けさせるか……。


「前回の侵攻のときはどうして村々は無事だったんだ?」

「敵の狙いが偵察だったからでしょう。略奪もせずにすぐ帰る所みますと、それなりに優秀な人材が率いていたのでしょうね」

「……勇者を侮るなよ。奴らは俺たちを倒すためにやって来たんだ」


 ふぅ。流石に魔王様の御子息。いえ、この場合は流石ローグ様といったところでしょうか。ご自分では気付かれていないようですが、纏うオーラはまさに大陸半分を有する器を象徴しているように壮大です。……これは、来月の戴冠式が楽しみです。魔王様にはまだ言うなと言われていますが……。


 えぇ、そうです。来月の戴冠式に花を添えるためにも仕掛けましょう。相手の力量を確かめる良い機会です。勇者とやらに、私が勝てるのか勝てないのか。


「一つ、策を奏上したいのですが」

「どんな?」

「それは――」







 僕はこのクラスメイトたちになんて声をかけたらいいんだろうか。殺戮と略奪を誇るようになってしまった彼ら。間違いなく魔王軍の報復がある。それでも、自分たちの力なら余裕とでも思っているのだろうか。それなら、いいんだけれど。


「悠太? どうしたの?」


 いつものように金色のポニーテルを揺らしている夕菜は、僕の背中に抱きついてきた。柔らかい感触を、どう捉えていいのかいつも分からない。好意を持っているのはわかるけど。


「いや、このまま誰も怪我をしなければいいなって」

「悠太は優しいね」


 後ろから顔をのぞかせる夕菜の笑みに、僕は僅かながらの罪悪感を抱いてしまう。僕は、優しいんじゃない。ただ……。


「悠太?」


 心配そうに僕を見つめる夕菜にせめてもの笑みを返す。


「大丈夫だよ。でもやっぱり、皆には注意しないと。僕たちの力だけでうまくいくなら、最初から人類は苦戦してないはずだから」

「……そうだね。ウチからも言っておく。それと……」

「二条さんについてだね」


 不服そうに頷く夕菜に、僕の手は自然に彼女の頭を撫でていた。地球に残した大事な妹に、夕菜はどこか似ている。表情は豊かで、人の心を読むのが得意で、わがままな所が。


「ゆ、悠太!?」


 顔を真っ赤にしてしまうところは似てないかな? 妹なら、もっと撫でてと言わんばかりに頭を摺り寄せてくるから。


「ありがとう、色々心配してくれて。大丈夫、二条さんにも考えが合っての行動だろうから。もし、僕たちに害意があれば僕が何とかするよ。それに、二条さんもそんな短慮で動くような人じゃないからね」

「……随分と知ってるみたいだね」

「そうかな?」


 確かに、僕と二条さんは繋がりがある。といっても中学が一緒だっただけだけれど。その時の彼女に比べれば、高校生の彼女は大人しすぎる。怖いほどに静かだった。けれど、ここにきて中学の時の彼女が顔を出し始めた、そう考えたほうが良さそうだね。


「うん……その、もしかして」

「うん? 僕と二条さんはクラスメイトだよ。幼馴染なんかじゃないよ」

「そ、そっか。てっきり昔から知ってるのかと思っちゃったよ」


 露骨にほっとしている夕菜に掛ける言葉を捜す。このままじゃ流石に気まずい。そんな時、僕の心を察したかのようにドアがノックされた。


「悠太! 大変だ! すぐそこまで大量の魔族がきてるらしい!!」

「分かった。すぐに行くよ!」


 やっぱりきたね。心配そうな表情を浮かべる夕菜に、また手が勝手に動いてしまった。いずれ僕は地獄に落ちるだろうね。


「夕菜、行こうか」

「うん!」


 占領したばかりのこの街は、僕たちが住まう所だけが急速に復旧された。戦闘系の固有魔法を持つクラスメイト二十一名と王国軍の兵士、それと冒険者合わせて六百名。少ないと王女殿下に言ったけれど、彼女にも思惑はあるらしい。この戦力で行って欲しいと頼まれた以上は、これでやるしかない。


 十五分も西に歩くと、下を一望できる丘に辿り着いた。僕たちの二キロほど先、黒く蠢く集団は二万を超えている。


「やっときたか。ボコってやろうぜ!」


 野球部の……佐藤君だったかな?彼の得意げな発言に、周りの皆は自信に溢れた表情で頷いていた。ここで僕が何か言ったら士気に関わるだろうから、あまり強くは言えないけれど、釘を刺しておく必要はあるだろうね……。


「皆、聞いてほしい。僕たちは確かに強い。たぶん、あの大軍にも勝てる。でも無理はしないで。僕たちは生きて日本に帰るんだから。危なくなったらちゃんと引くんだよ?」

「へへ。わーってるよ悠太。大丈夫だって」


 駄目だ。初めての戦闘の時は血を見ることすらできなかった彼らに、もう戦う恐怖心は無い。ただ、自分の身の丈にあわない力を暴れさせたいだけなんだ。そんな時、魔王軍の陣営が二つに割れた。統制の行き届いた行動に、流石のクラスメイトたちの動きも止まり、魔王軍に視線を向ける。


『聞け! 人間よ! 俺は魔王軍元帥、ローグだ! 貴様らは我が同胞を焼き、犯し、奪っている! 謝罪の後に即刻撤退せよ! さもなくば、我が軍隊は貴様らに裁きを下さねばならない。 即刻撤退せよ!』


 ローグ、そう名乗った男は間違いなく人間だった。特徴もない、どこにでも居そうな青年だった。恐らく僕たちと年齢はそう変わらないだろう。服装も人間の、それも平民のそれ。そのせいか、クラスメイトたちにかなり余裕が戻っている。


「うるせぇ! お前たちのせいで人間は迷惑してんだよ!! 今すぐ占領している土地を人間に返せ!!」

「そうだ! お前ら魔族が撤退しろ!!」


 こちらの返答は、ローグに届いたのだろう。彼は首を横に振って片手を挙げた。まるでその振り上げられた片手が、直接降りかかってくるような恐怖に、一瞬身が竦む。


『それなら、裁きを下そう。貴様らが焼いた村の、今は無き我が同胞の鎮魂にならんことを願って』


 ローグがあげた手を振り下ろした時、僕の視界は黄色く輝いた。何がなんだか分からなかった。とっさに防御魔法を展開したけれど、急激な光に包まれた僕の目は当分使い物にならなかった。それは、同時に襲ってきた轟音も相まって、聴力すら奪われた。一体、何が?


 耳鳴りは止まないけれど、僕の疑問の答えは視界が僅かに戻ったことで解決してしまった。


僕は息を飲むことすら忘れさせる光景を目の当たりにしている。隣にいたはずのクラスメイトたちは遥か遠くに飛ばされ、痛みを訴える悲鳴と、焦げた地面がそこにはあった。何人かは防御魔法を展開していたけれど、怪我をしていないのは僕だけだった。遠くに飛ばされたクラスメイトも息はあるようで、僅かに動いていることに安堵した。


けれど、その先からゆっくりと魔王軍が堂々と行軍してきているのも視界に入った。これは、固有魔法を使うしかない。今まで魔王軍には隠してきたけれど、もうそんな段階じゃない。


「転移――」


悠太君にも色々ありそうですね。感想や批判等おまちしています。

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