第二話 勇者召喚
チート組の視点です
俺、日村歩が、正確には俺たちがこの異世界に召喚されて二週間が経った。どうやらこの世界は魔法と魔王が存在する異世界、ということらしい。俺たち、二年四組のメンバーは担任の向井田を除いて漏れなく召喚された。勇者として。
やっと落ち着いたクラスメイトを、リーダーの梧桐悠太が纏め上げ、今後について話し合うようだ。
「よし。皆居るね。今後について話し合いたい。今僕たちが置かれている状況を鑑みて忌憚の無い意見を出し合おう。今後を決める重要な話し合いだから、皆に納得して欲しい」
梧桐悠太は、クラスでも男女共に人気がある。二次元から出てきたと思うほどに整った容姿と、学年模試一位の頭脳を持つ、優秀な主人公タイプだ。彼の父は有名な武道家らしく、彼自身も凄く強いらしい。根暗オタクの俺には一切勝てる部分が無い。
「ウチからいい?」
そう言って元気よく手を上げたのは、学校で二番目に可愛いとされる羽嶋夕菜。金髪のポニーテルで癪だが胸も大きい。いわゆるギャルと言う奴で、梧桐と仲が良いみたいだ。さらにはコミュニケーション能力もそれなりらしい。俺にはその能力は見せてくれないが。
「どうぞ」
「人間の王国の人が困ってるって言うんだし、助けてあげるべきじゃない? ウチらには“固有魔法”って言う強い能力もあるから、それなら助けるべきだと思う」
まぁ、そうなるだろうな。梧桐の代弁者としてはそういう言い方になるだろうよ。召喚されて数日、俺たちは固有魔法が使えると言われた。ほとんどの生徒は見せびらかしあっていたが、俺は一切見せていない。ちなみに俺の固有魔法は“奪取”。相手の魔力を一瞬で奪う。これは既に確認済みだ。衛兵の魔力を全部吸い取ったら死にかけてちょっとした事件になったから間違いない。
「ほかに意見がある人は?」
正直、俺はこの騒動に巻き込まれたくない。この国の詳細も、大陸の情勢も、魔王軍とやらの情報も一切無い今、軽挙に王家と力を結ぶのは危険だと思う。まぁ、クラスの動き方次第では言わないとダメだろうな。クラス最下層の俺の意見が取り扱われるかは知らないが。
「無いなら一旦僕の意見を言うね。僕は夕菜の意見に賛成だ。困っている人がいるなら助ける。人としてそうあるべきだと僕は思う。それに、今僕たちを保護しているのはこのエルデンブルク王国の王家。彼らに楯突いても生きていく術が無いからね」
梧桐の意見は正しい。そうだ、彼らに楯突いても職もなければ金もない。色々独自に情報を収集しようとしたが、監視の目が厳しくてあまりできなかった。無理にでも集めておくべきだったか?
「さすが悠太! じゃあこの意見に反対の人!」
そのもって行き方はずるくないか? 大半の男は羽嶋の意見に逆らえないだろう。女子も梧桐の意見には逆らわない。……面倒だが、ここはある程度言っておくべきか。俺が手を上げると、忌々(いまいま)しそうに羽嶋が睨んできた。
「……日村、なんかあんの?」
随分と目と声が冷たいがまぁいつものことだ。
「あぁ。梧桐の意見には概ね賛成だ。だが、それでも判断を下すのは早計過ぎる。この大陸には他の国もある。もし、この王国が残虐な国だったら、俺たちはそれに加担することになる。それでもいいのか?」
俺はチラリと梧桐を見た。すると、彼は一瞬だけ目を伏せ、すぐに頷いてから口を開いた。
「その可能性はあるね。僕もその可能性は考えている。それで、日村はそれを踏まえてどうすればいいと思う?」
「表向きは協力する。ドップリ足をつけずに。俺たちが状況を把握できるまでは適当な言い訳を並べて戦わない方がいい。相手の情報を全て得た段階で判断するべきだ。正直なことを言えばエルデンブルクを全く信頼していない」
俺の言葉に羽嶋は半笑いで首をかしげた。
「はぁ? 相手が困ってんだよ? あんたが困ってる時にあしらわれたらどう思う?」
「夕菜」
珍しく梧桐が羽嶋を諌めたが、それは逆効果だ。俺のせいで梧桐に怒られたといわんばかりに睨んでいるぞ。そんなことに気がつくことの無い梧桐は、苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「信頼していない。……そうだね。信頼はできないね」
「だろ? 俺たちはこの世界に無理やりつれてこられて、戦わされようとしている。衣食住だけ与えられて、満足だろうと言わんばかりに監禁されている。確かに、困っているなら助けるべきだ。だが、今一番困っているのは王国の人間か? 違うだろう。俺たち異世界人だ」
俺の言葉に一部の生徒は賛同しているようだ。それに、このクラスで一番のキーマンとなるであろう女子生徒も、先ほどまでは興味なさそうだったが、今では俺を見ているのが視界の隅に映っている。
「困っている人を助ける。素晴らしい。だが、それは俺たちに余裕ができてからでも十分だ。だから、ここは相手に条件をつけよう」
「……分かった。それで、条件はどうする?」
梧桐の言葉に俺は頷く。
「まずは、俺たちが協力することを伝えてから、時間を貰おう。この国の制度、大陸の貨幣システム、魔王軍の脅威度、未知の力である魔法。つまり、俺たちが最悪自立していける情報を得る。そして、一番知らなきゃいけないことを、答えてもらう」
「帰還の可能性と方法」
女子生徒がポツリと呟いた。何人も寄せつけない学校一の美少女。あの、数の多いアイドルグループが目に入らないほどに完成された容姿。肩まで伸びた黒い髪の毛は緩く内側にカールしており、どこか幼さが残るも大きく開いた瞳。ここに来てはじめての発言であり、一同は驚いているようだが、俺は静かに頷いて梧桐を見つめる。
「相手もこれくらいはその内教えてくれるだろう。だが、これをあえて条件として提示することで、俺たちがあまり頭の良い集団では無いと思わせる。この程度のことを、交渉のテーブルに乗せてくる馬鹿だと思わせる。生憎と、相手方は俺たちの頭脳は求めていない。俺たちの固有魔法を求めているのは明々白々だ。なら、手なずけやすい馬鹿だと思わせておくのがいいだろう」
俺の言葉に梧桐は少し考えてから頷いた。
「……僕は賛成するよ、日村君の意見に。皆は?」
羽嶋がこっそりと俺を睨んでいる。全く、普段ならかわいい女の子に睨まれるのは嬉しいが、今は最悪だな。
「反対も無いようだし、これで僕たちの意見は決まったね。皆、生きて帰ろう」
生きて帰ろう、か。果たして、王国側が規格外の戦闘力を持っているであろう俺たちを、魔王を討伐した程度で帰してくれるだろうかね。
筆者なりに、少しひねくれた主人公っぽいのを書いてみました。これはクラスで浮きますね。思春期をこじらせたようです(遠い目)。