▽ 人間なんて。
下村、金城、隅田がいるビルの入り口の前に
身なりがきっちりした女性が、金城達が乗っていた車とビルを見つめていた。
「…。先を越されましたか。」
そう呟いた女性は去っていった。
「で、あんたらの目的って?計画って?」
隅田は開き直ったのか、椅子に座り話を進め始めた。
「私達の最終目的は、この社会を変えること。そのためには隅田。貴方が欲しい。」
「ざっくりだし、よくそんな恥ずかしいセリフが言えるな。もっと具体的な説明はないの?
てか、そこでずっと隠れてる人も入ってきなよ。俺最初から気づいてたし。」
隅田は金城が待機してた場所に向かって声をかけたが、金城は隅田に姿を見せることや返事をすることはなかった。
すると少し不敵な笑みを浮かべ
「ふーん。あくまでも俺はアンタの顔しか分からないわけか。ま、別にいいけど…
俺、人間嫌いだから。」
と、左手の中指を立て金城に向けて突き出した。
下村は金城に外に出ていく合図を出し、金城は静かに外に出た。
「…具体的に言うと、この社会の秩序を殺すの。
貴方もこんな社会が嫌で家から出ないのでしょう?私もね、こんな社会
嫌いだからね。」
「まぁ、何でもいいけど協力してやるよ…暇だったし。」
その言葉を聞いた下村は端末を手渡した。
受け取ると急いでパソコンに差し込み、読み込みを開始させる。
「あ、そうだった。俺が協力する代わりに条件がある。」
「…条件?」
「俺を本名で呼ばないこと、外に出るような協力はしない。
この二つが飲めるのであれば、俺の能力の詳細を教えるし、協力もする。」
「…。いいよ。その条件で。」
端末の読み込みが終わると嬉しそうにしてタイピングを始めた。
「俺の能力は”Connecting”。任意の場所へ繋がることができる。
例えば、ロックされたサイトにパスワードなしで入れたり、
鍵のかかった部屋に鍵なしで入れたりできる能力だ。」
下村は隅田の能力を聞くと納得したかのように手を合わせる。
「…。あ~だから条件に外に出ない事を含めたのね…」
「文句ある?」
タイピングをしている手を止めて隅田は下村を睨む。
下村は顔色一つ変えることなく落ちていた紙に何かを書き始めた。
「…そうね…まぁいいよ。連絡手段はこの携帯に電話して…名前は…」
「あ、俺アンタらみたいな神から名前とるとか却下だから。
あと、仲間になったんじゃなくて、協力するだけだからな。」
下村から紙を受け取るとポケットに入れ、タイピングを再開する。
「そう…じゃあ、鼠でいい?」
「…好きにすれば…。」
下村は隅田に了承を得ると何も言わずに部屋を出て、金城が待つ車に戻る。
「いいの?あんな条件をのんで…。鼠の能力があれば、パンドラの箱も開けれるんじゃ…」
「まぁね…。でも、彼はまだ仲間にはなってないもの…それは追々にしようかと」
「でも、かなり手強そうよ?人間嫌いは…」
「…私には彼が人間嫌いに見えなかった…。人間が嫌いなら、
パソコンで時事の記事を集めてると思う?」
「…相変わらずね…いいわ。戻りましょう、怪しまれる前に」
金城はサングラスを外し、警視庁に向かって車を出した。
下村が去って行ったあと隅田は手を止め、下村から貰った紙を見つめて
「…人間なんて…。」
そう言った隅田の顔は、悲しそうに見えた。
口に出したら灰色になる言葉があるのって知ってますか?