フラッタの剣士
これは『うちのドッペルゲンガーはなかなか俺を殺さない』の外伝です。そちらを読まれていない方は、ぜひそちらからお読みいただけると嬉しいです。
「ねぇ、ママ?」
少女は彼女のパジャマの袖を引っ張った。
「ゴホン読んで。」
彼女は目を擦りながら、枕元の目覚まし時計を見た。短い針が12を少し過ぎたところである。
「どうしたのですか?眠れないのですか?」
「ねえ、読んで読んでぇ。」
「うーん……そうだ!一緒に羊さんを数えましょう!きっとすぐに眠れますよ。」
いやいや、と首をふる少女。そして、また彼女の袖を引っ張って、「ゴホンがいい。ゴホン読んで?」と、真っ直ぐに彼女を見つめている。
「……仕方ないですね。」
彼女は布団から少し腕を出して、空中に複雑な模様を書き出した。しばらくして、それがちゃんとした『陣』を描いたとき、空中に一つの絵が現れた。
「絵本とは少し違いますが、これを見ていてください。私がお話をいうと絵が動きますから。」
少女はうん、と首を縦にふった。すでに空中の絵に夢中だ。
「じゃあ、始めますよ──」
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『フラッタの剣士』
昔々、王様の住む都から、うーんと離れたところに『フラッタ』という町がありました。
その町は昔から平和で、何もなく、皆が退屈しながら暮らしていました。
しかし、あるときからこんな噂が囁かれるようになりました。
「「赤い瞳に気をつけろ、奴らは必ず狂い出す
赤い月に気をつけろ、ソノ日は必ずやって来る」」
誰が言い出したのか、何のことを言っているのかは誰にもわかりませんでしたが退屈していたフラッタの人々には、それはとても魅力的で、謎めいていましたので、すぐに町中に広まっていきました。
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「ママ、私その話ヤダ。」
「ダメですよ、大事なお話です。嫌なら寝てください。」
「……続きは?」
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そんなある日のことです。フラッタの町のある宿に、少し変わった客が現れました。
ボロボロの服にくたびれた鞄。
焼けた肌にボサボサの髪。
そして、瞳は『赤』。
彼は低い声でこういいました。
「次の満月の日まで此処に泊まらせて欲しい。」
例の噂はもう町中の人が知っていましたが、特に信じている人なんて誰もいませんでしたから、彼は数日間、何の問題なくフラッタで暮らしていました。
そして、彼が来て七日目の夜。
その日は赤い満月の日。月蝕の日でした。
「きゃあぁぁぁぁあああああっっ!」
甲高い声がフラッタ中に響き渡り、皆、目を覚ましました。
悲鳴のした方へたくさんの人が駆けつけます。
そこには平和なフラッタではあり得ない光景が広がっていました。
宿のオーナー、その娘、宿の隣の家の主人とその妻、さらにその向かいの家の──と何人もの人が血塗れになって道路に倒れています。
そして──
「あぁがはああはははははっはっはっはっ!」
狂ったように笑いながら、次々と人を殺していく例の赤い瞳の客。
すぐさま町の警官が彼をとらえようとしましたが、彼のナイフですぐに殺されてしまいました。
次に、町の若い勇敢な男たちが彼に向かいました。しかし、やっぱり歯が立たず、殺されてしまいました。
その次に彼に向かうものは誰もいませんでした。
フラッタ中が大パニック。
泣きわめく人、逃げ惑う人、自ら死を選ぶ人……
赤い瞳の男は何にも構わず、ただ殺し、笑い、そして狂い続ける。
彼が37人目を殺したとき、一人の男が立ち向かいました。
綺麗な青い瞳の男。彼は町外れに住む、町一番の剣士でした。
交わる剣とナイフ。鈍い金属音がフラッタの夜に鳴り響く。
月が沈むまで続いた死闘を制したのは、青い瞳の男でした。
最後は、彼の剣が赤い瞳の男の喉元に突き刺さり、死にました。
こうして悪夢のような夜を超え、フラッタに再び平和が戻りました。
フラッタの領主は二度と同じようなことが起こらないように、町中の赤い瞳の人間を殺してしまいました。
そして、いつしか青い瞳の男も姿を消し──
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「──フラッタの町には黒い瞳のものだけが住むようになったのです。」
彼女は一度伸びをして、少女を見た。スヤスヤと可愛い寝息をたてて眠っている。
「あらあら。寝ちゃいましたか。何だか寂しいですね。」
彼女は空中の絵を消して、少女の布団を整えた。そして耳元でこう呟く──
「お休みなさい、リンナ。」
こんにちは。ななるです。
この作品は『うちのドッペルゲンガーはなかなか俺を殺さない』の外伝です。そちらを読まれていない方は、ぜひそちらから!
さて、次回。……てこれは短編です。




