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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

注文の多い異世界シャワー

作者: ふじやま

「おめでとうございます。あなたは勇者と認められました。

 我々は謹んで貴方を歓迎いたします。

 さあ、どうぞこちらへ。国王陛下がお待ちです」


 なんだかわからないが、目が覚めたら突然妙な場所にいて、妙な服を着た妙な(やから)に妙なことを言われた。


 これはあれか?

 異世転生ってやつか?


 試しに最後の記憶を辿ってみる。


 確かに俺は引きこもりを拗らせたアラフォー男。仕事はおろかバイトをしたこともなく、親から貰ったお年玉貯金を全額Bitcoinにぶち込んだら一瞬で溶けたのでカネもない。特技はTwitterで声優を監視することで、声優がUPした写真からどこのレストランに行ったか程度なら1時間もあれば特定できる。まさに異世界転生向けの人生だ。異世界転生に向けて完成されている。


 俺の両親はそんな素質たっぷりな俺に業を煮やしたのか、俺を田舎の祖母の家へと送り込んだ。なあに田舎だってインターネットにはつながる。田舎でも俺の引きこもりライフに揺らぎはなかった。まさに無双。俺無双である。しかも田舎だから、そこらを走ってる車は基本的に軽トラだ。転生トラック大豊作。すべての準備は整った。


 と、思ったんだけど普段からハクビシンだの鹿だのと戦っている婆ちゃんは強かった(なおイノシシ相手は猟銃なしには厳しいらしい)。ある夜、俺の部屋に突入してきた婆ちゃんは「根性注入! 根性注入!」と叫びながらバールのようなもので俺を何度も殴打した。転生根性注入棒なんて聞いたことがないぞ、でも広いネット小説の世界を漁れば1つや2つあるに違いない、なにせ人気ネット小説作家が書いた転生シャワーなんていう短編をそのときの俺は読んだばっかりだったんだ。


 それで、目が覚めたら、こうなってたってわけだ。サンキュー婆ちゃん。サンキュー転生根性注入棒。あれだな、次は転生ビール瓶でよろしく。


「まだ混乱されていらっしゃいますか?

 この世界については、後ほど私から概要をお伝えいたします。

 恐縮なのですが、まずは国王陛下に……」


 おっと、すまんね。大丈夫。俺は混乱なんかしちゃいねえ。

 つうか転生したにしてはどうも俺のボディは生前のままっぽいんだけど、これどうにかならなかったのか?


 なんてことを考えていると、妙な服を着た(やから)――体つきからするとどうやら女だ――が、念を押す用に言葉を重ねてきた。


「ジャンルとしては異世界転移、とお考えいただくのが良いかと思います。

 ご安心ください。この世界におきましては、貴方はただ存在しているだけで大きな意味があるのです。

 無論、その内なる力を使いこなし、世界を救う戦いに参じて頂けるなら、これ以上の喜びはございません」


 なるほどなるほど。了解ですよお嬢さん。

 で、俺はまず何をすればいいのかな?


「まずは第1の間に。

 輝きの侍女、アウラがお待ちしております」


 ほほう。ところでお嬢さん、あんたの名前は?

 ――なんて洒落た言葉が発せられるなら引きこもりなんてしてねーっつうの。

 でも妙な服を着たお嬢さんは俺の「アア……アェ」みたいな言葉から巧みに意図を汲み取ったのか、自分の名前を教えてくれた。


「私は導きの侍女、ザニと申します」


 はいはい、ありがとありがと。

 というわけで俺は第1の間とやらに入る。つうか何だな、えらく質素というか、ぶっちゃけ貧乏たらしい作りだ。何もかもが。まあいいや。どうもー、アウラさんはじめましてー。


 第1の間に入ると、同じように妙な服を着た女が待っていて、無言のまま俺が着ていた上着を脱がせにかかった。おいおいおいおいおいおいおいオイオイ、ちょっとジャストまってウェイト。いきなりそういう展開、ちょっとノー心の準備。えっでもこれ第1なんでしょ? てことはハーレム? 子供は何人がいい?


 なんてことを考えているうちに、アウラちゃんとやらはさっさと俺の上着をズボンも脱がせて、それからドキドキがムネムネでマキシマムになっている俺のテンションを華麗にスルーしつつ、なにやら着る毛布みたいなものを俺にかぶせた。ぶっちゃけ寒い。いやでもこれってザニちゃんとかアウラちゃんとかが着てる服と、わりとおそろいじゃねえの。ウッホ。女の子とおそろい。なにこれ最高。異世界最高でしょ。


 激しいテンションの上げ下げにのたうっている俺に向かって、アウラちゃんは次の扉を指し示した。


「第2の間へ、どうぞ。

 賢き侍女、ブレナンがお待ちしております」


 ブレナン。つーとあれですか。ゲームブックの。それとも洋ドラの。いやさすがにどっちもねーだろ。つうかアウラちゃんとはここでお別れですか? それって寂しくないですか? あ、でも後でまた会えるんですかね。うん、きっとそう。つうかそういうことにして次行こう次。


 てな感じで指示されるがままに第2の間に入ると、今度はちょっと綺麗気味な感じの部屋だった。わりとちゃんとした机があって、机の横には椅子が2つ。椅子の1つには、たぶん賢き侍女ブレナンちゃんとやらが座ってる。


「椅子に座って。診察します」


 OH……診察。えっこれどこまで診られちゃうんですか。見られちゃうんですか。っていうか異世界にも聴診器ってあるんすね。いやでも冷静に考えればあって当然か。だって転移してきたの俺が初めてって感じじゃないもんな。あ、ちょ、ちょっと待って、ちょ、ちょっとブレナンちゃん、てかブレナン先生、そこ、そこはちょっと早いっていうか、まだそういう関係じゃないっていうか、


「すみません、もう少し口を大きく開けてください。

 はい――それでいいです。

 ……ふむ。虫歯はありませんね。銀歯のたぐいもなし。珍しいですね」


 ああん、お口の中を女の子に見られちゃうだなんて。でもこんなこともあろうかと、俺は歯磨きだけはガキの頃から毎朝毎晩欠かしたことがない。つうか実を言うとガキの頃に何回か乳歯が虫歯になったことはあったりする。虫歯ってのがバグじゃねえのこれってくらい痛いってのも知ってる。で、こちとらガチで引きこもる以上、虫歯になんかなってられねえんだよ。プロの引きこもり舐めんなよ? 健康な身体の維持はプロにとって常識だぞ?


「――先程から眉をひそめていますが、勇者様は視力が悪いのですか?

 視力が悪いようでしたら、なんらかの矯正具をお持ちでは?」


 おっとブレナンちゃん、そいつはいい指摘。てか俺もさっきから眼鏡探してるんだけど、婆ちゃんに転生根性注入棒で殴られたショックでどこかにぶっ飛んだっぽいんだよね。残念無念。でも聴診器がある異世界なんだから眼鏡もどこかにあるでしょ? さもなきゃ魔法でチョチョイのチョイと。


「矯正具はお持ちではないようですね。

 まあ、仕方ありません。では第3の間にお進みください。

 技芸の侍女、キャサリンがお待ちしております」


 おおっと、ここで技芸。しかも名前からしてキャサリンちゃん。これはヤバイ。もうヤバイ。いや地味っ子アウラちゃんもインテリブレナンちゃんも、そうそう当然だけど不思議なザニちゃんもいいけど、キャサリンちゃんは名前からしてヤバイでしょ。もうこれはあれでしょ。あれ。あれしかない。技芸だし。


 なんてことを思いながら第3の間とやらに入ると、今度は大きな椅子1つ、大きな鏡がひとつ。

 えー。これアレじゃないですか。床屋。もうどこからどう見ても床屋。

 床屋苦手なんだよなあ。プロ引きこもりになる前は丸刈りしかしてなかったし。プロ引きこもりになってからはナチュラルロン毛だし。


 でもその点、キャサリンちゃんはちゃあんとこっちのことを分かっていてくださった。


「いらっしゃいませぇ、勇者様!

 私は技芸の侍女、キャサリンでーす!

 早速ですけど、勇者様に一番似合う髪型に仕上げさせていただきますねぇ!」


 やっば、キャサリンちゃんめっちゃ有能。超有能。しかも飛び抜けて可愛い。てかあれですよ、他の子よりも群を抜いて立派なお胸をなさっておられる。ヤバイ。あれは視覚的な凶器。世の中には貧乳ラバーズがいるのは知ってるけど、あいつら馬鹿ですよ。おっぱいは正義。大きなおっぱいは大正義。これが一貫性ってものでしょう。


「うーん、そうですねえ……勇者様はこれから魔物と戦ったりすることもありますしぃ。

 残念ですけど、短く切っちゃったほうがいいかもですねぇ……」


 オッ、プロっぽい見解きたこれ! いやもうキャサリンちゃんの思う通りにやってください。バッサリと。やっちまってください。


「――そうですねぇ。じゃあ思い切って、全体に短めで仕上げましょーう!

 社交の場にも出なきゃですからぁ、立ってるだけでも迫力がある雰囲気、作っちゃいますよぅ!」


 いやもう、おまかせ。超おまかせです。あ、うわ、その、キャサリンちゃん、その、なんかこう肩のあたりとか頭の後ろとかがときどきふにってするんですけどそれ、つまり、あ、またふにってしたんですけど、ふにっ、ふにっ、ふにっふにっふにってしたんですけど!!

 みたいな感じでテンション爆上がりしたまま15分ほどで、生まれ変わった俺様が鏡の中に出現した。おおー。すごいイメチェンだ。他人みたいだぜ! あれだな、前にいた世界でいうと1980年代くらいにめっちゃ流行った殺人ロボットがこんな髪型だった気がする。いやいいね。似合ってるかどうかは知らんけど。いいね。似合ってない気がするけど。いいね。


「さっすがです! お似合いですよっ!」(ふにっ)


 おし、超似合ってる。サンキューキャサリンちゃん!


「では続いて第5の間にご案内しますぅ。

 あ、第4の間は勇者様には必要ありませんので、パスってことでー!

 ダイアナ、あとで悔しがると思いますけど仕方ないですぅ!

 では第5の間は、改めて導きの侍女ザニがお待ちしておりまーす。いってらっしゃいませー」


 ういーっす。そっかー、ダイアナちゃんってのもいるのかー。てことはなんですか、全部で5人のハーレム? 十分すぎない? てかめっちゃ良くない? 最高じゃない? 転生根性注入棒ってすごくない?


 そんなことを考えながら第5の間に入ると、キャサリンちゃんのお言葉どおりにザニちゃんが待っていた。俺も会いたかったよザニちゃん! で、今度は何すんの?


「ここまでの工程――失礼、試練の間、お疲れ様でした。

 第5の間が、最後の部屋となります。ここでは勇者様に身を清めて頂きます」


 おっと。風呂。風呂イベント。最後の最後に風呂イベント。

 マジで? マジですか? これはマジでマジっちゃいますか?

 あ、でも本当に風呂なのかな。侍女さんたちの名前からして、ここってヨーロッパっていうかジェネリック・ファンタジーっぽい世界っぽくない? だとすると案外シャワーだけだったりする?


「申し訳ないのですが、シャワーしか用意がございません。

 それからまだ、シャワーをお手伝いすることもできないことになっております。

 どうか勇者様お一人で、シャワー室にお進みください」


 ――お、おお、おおおお……ま、ま、まあ、しゃーない、しゃーないよね。それにいま「まだ」って言ったよね。俺は聞いたよ。間違いなく「まだ」って言ったよね。てことはアレだよね。「まだ」じゃなくなる段階があるってことだよね。それにザニちゃんって確か「導きの」侍女さんだもんね。俺を導いてくれちゃったりするんだよね。そうじゃなきゃ話が合わないもんね。うん。てか俺もあれだわ、ほんのちっとだけ冷静になって考えてみたけど、ザニちゃんに手伝ってもらってシャワーとか、たぶん心臓発作で死ぬ、とまでは言わないけど、固まっちゃって動けない。てか心の準備ゼロすぎ。うん、無理。マジで無理だわ。そうね、「まだ」で正解。大正解です。つーことでザニちゃん、行ってきます……って、あー、その、ええと、着替えはここ? ここでスッポンポンになる? のかな?


「お召し物はこちらで脱いでください。

 脱いだお召し物は、このカゴの中へお願いします」


 えっ……ザニちゃんの前で、スッポンポンになる、の――? え。え。えええええええ。いやそれ無理でしょ。無理。無理ったら無理。めっちゃ無理。お嫁にいけなくなっちゃう。無理。無理ったら無理。


「勇者様。どうかお願いします。これは規則なのです。

 私は導きの侍女として、勇者様が全裸でシャワー室に向かうまでのすべてを、見届けねばなりません。

 なぜそんなことをと思われるかもしれませんが、勇者様から見れば異世界の習わしと思って、どうかご寛恕いただけませんでしょうか?」


 えー……いや、そりゃ、まあ、規則って言われると、弱いけど、さあ。

 でもさあ――俺、勇者なんでしょ? 嫌な規則、守る必要あんの? いやさ、何もシャワー浴びないなんて言ってないよ? 浴びます。てか浴びたい。でもザニちゃんの前で裸になるのだけは、ちょっとキツイ。それだけなんだけど。それでもやっぱり、ここで脱がなきゃダメ? 規則? 規則なの? 規則ナンデ?


「……どうしてもということでしたら、私は下を向いております。

 勇者様の裸体を見るような不躾なことはいたしません。お脱ぎになられた衣服を籠の中に入れて頂いたのを確認すれば、それでも規則は満たされます」


 なんだかザニちゃんの声が半泣きになってきた。う、うわ、ごめん。マジでごめん。ほんとごめん。そうだよね、規則だもんね。別にザニちゃんが決めたわけじゃないもんね。わかった。わかったよザニちゃん。脱ぐ。脱ぎますとも。俺も男ですから。でもって今後はこんな馬鹿な規則、なくしちゃおう。それがいい。そうしよう。だからちょっちザニちゃん、下向いてて? うん、やっぱめっちゃ恥ずかしいんで。そう。そんな感じで。はい。はいはい。じゃあ思い切って、スルっとな。スルスルっとな。うっほ全裸。女の子の前で全裸。ヤバイ。犯罪臭がヤバイ。つうかこれ犯罪でしょ。わいせつ物陳列罪ど真ん中。いまここにSWATが飛び込んできたら俺確実にアウト。だからとっととシャワールームに消えます。はい。消えますとも。じゃあザニちゃん、また後で。


 逃げるようにシャワー室に入ると、どうにも殺風景な部屋だった。つうかシャワーノズルめいたものが見つからないんだけど?



 シャワー室(・・・・)の鍵が、カチリと音をたてて、閉められた。



 次の瞬間、シャワー室の中に煙が充満しはじめる。え、こういう文化? いや違う。めっちゃ息が苦しい。死ぬ。これ絶対に死ぬ。ザニちゃん扉、扉開けて! ザニちゃん! 死ぬ! え? なに? なにこれ? 死ぬ、死ぬって。マジで死ぬって。ザニちゃん。扉。扉! 扉を! 開け! て! 開け、ろ! てめえ、なんだこれ、くっそ、クソ、くそ、くそ、くそくそくそ、息、息が、息が苦しい、死ぬ、死ぬ、死ぬ! 死ぬ、死ぬ、死ぬ死ぬ、死ぬ死ぬ、死ぬ死ぬ、死ぬ死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死 死死死死 死死死死死死死死 死死死 死死 死死死死 死死 死 死 死死 死  死 死   死






          ■




「悪霊退散! 悪霊退散!」


 私は村の衆と声を合わせて、一心に祈る。

 東京から孫息子が来ると聞いたときにはいろいろと期待もしたけれど、いざ孫が来てみれば日がな一日、部屋にこもってばかり。しかも夜になると「ばーちゃるゆーちゅーばー」とやらで奇声を上げるわ、そうやって朝まで奇声を上げ続けたかと思うと夕方まで寝込むわで、これは私が本気を出すしかないと覚悟を決めた。


 間違いなく、孫は悪い狐に憑かれている。

「ばーちゃるゆーちゅーばー」があげる奇声は、間違いなく歳経た狐のものだ。

 狐を追い出し、孫を正気に戻さなくてはならぬ。

 この村で最後の拝み屋をやってきた私の沽券に賭けて、狐憑きを払わねばならぬ。


「悪霊退散! 悪霊退散!」


 孫に憑いた狐はだいぶ強いようで、爺様が遺した根性注入棒で一発殴った程度ではどうにもならなかった。これまでは海軍さん譲りの霊験あらたかなあの棒で1発、多くても3発殴れば、どんな子供でも正気に戻ったというのに。

 とはいえ狐も無傷というわけではなかったようで、4発目を入れたところで孫はバッタリと倒れた。ここまでくれば、あとは仕上げだ。孫を村の神社のお堂に入れて、お堂を下から燻す。狐憑きは煙に弱い。こうやってしっかり燻して、悪霊退散の念を周囲から送り込めば、根性注入棒で弱った狐など簡単に追い出せる。


「悪霊退散! 悪霊退散!」


 そうやって1時間も祈祷を続けると、突然お堂の扉が開いて、孫が転げだしてきた。

 念のため根性注入棒を大上段に構えたまま、孫に近づく。


「どうじゃ。狐は出てったか?」


 孫はしばらく私の顔を呆然と見つめると、やがてはらはらと涙を流しながら、「出ていった」と言った。私は根性注入棒を下ろし、孫をしっかりと抱きしめてやる。孫は一瞬、身体を震わせたが、すぐにオイオイと大声で泣き始めた。

 上出来だ。きっとこれからは、孫は普通に毎日を送れることだろう。もっとも、また狐が戻ってこないように、3年ほどは私のところで守ってやらねばならぬだろうが。


 だが、今は狐が離れたことを喜ぼう。

 孫もさんざ疲れただろうし、いたわってやらねばならん。


 しゃくりあげるように泣き続ける孫に向かって、私は優しく問う。


「帰ろう。帰って風呂にしよう。

 それから飯じゃ」


 孫は何度も頷いた。

 だがそこで私は、ちょっとしたミスに思い至る。


「――おっと、そうじゃった。悪いが風呂に湯が張れておらん。

 シャワーでよければ、すぐにでも浴びれるぞ?」


 シャワー、という言葉を聞いた孫は、またびくりと身体を震わせた。

 そして震えながら、こう言った。


「シャワーはもう懲り懲りだよう」




 うんとこどっこいしょ


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[良い点] 色々とヒドイw [一言] ああ、「シャワー室」ってそういう……
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