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第8話 電化兵騎=ネスト

「センメツ、テキをコロし、任務を、ワタシは……」

「…………。3-1-0061734――通称「ネスト」。私は大ユグドラシルの5-1-0000127――通称「イツナ」。敵意がないなら直ちに武装を解除してほしい。特段の事情がある場合にはその旨を――」

「私は、テキをコロすんだ!」


 電化兵騎=ネストは、……いや、人類統治のアンドロイド「ネスト」は、私の言葉など届いてはいなかったようだった。いきなり青い刃を持つ剣を起動させ、私たちに向かって走り出す。


「そんなっ、ネスト担当中将は……」

「ロト! アレはもうアンドロイドだ!」

「…………!」


 動揺するロトの手を引いて私は退避しようとする。だが、背後にあった唯一の出入口は閉じられ、そのままロックされてしまう。

 振り返れば、私たちに向かって駆けてくるネストのずっと後ろにいるオイジュスが冷たい表情を私たちに向けていた。アイツ……!


「ワタシ、だい、ダイ、ユグドラシルの、の、ネスト。オイジュスくんの、――」


 人間の視界では捉えられないような速度で長剣が振り下ろされる。私はそれを刀で受け止める。ネストはすぐに離し、再度振り下ろす。今度は強力な力でそのまま押し切ろうとする。


「オイジュスくん、のテキ、センメツするの、ニンム」

「ロト! オイジュスをハッキングで破壊しろ!」

「えっ……!」

「このままだとオイジュスは、ディザイアの軍勢を、大ユグドラシル中央政府軍第7兵団を消し飛ばす」

「…………!」


 私はネストの腹部に蹴りを叩き込み、自らの前から弾き飛ばす。


「最強と名高いディザイアと第7兵団を消せば、大ユグドラシルは大きなダメージを受ける! 戦況に大きな影響を及ぼす!」

「でもっ、僕、そんなひどいことできない!」

「ワ、ワタシは、テキをセンメツするんだ、するんだ、するんだア!!」

「任務を優先するんだ! ロト、これは“命令”だッ!!」

「…………ッ!」


 ロトは下唇を噛み締め、私に背を向ける。そして、震える腕をオイジュスに向ける。そう、それでいい。オイジュスをハッキングして破壊すれば、この大型兵騎は止まる。あとは、私がこの女を壊せば、任務は完了する。


 すごくキレイなことを叫んだ――。キレイな言葉で私は本音を包み隠したのだ。

 本当は、ディザイアがどうなろうと、第7兵団が消し飛ぼうがどうでもよかった。もっといえば、首都惑星「エデン」が破壊されようと、大ユグドラシルが滅ぼうと、どうでもいい。

 私が一番恐れていることは、――ロトがオイジュスのように拷問で壊されること。人類統治に捕まって、拷問されて、心を壊されて、アンドロイドに堕とされることが、怖くて仕方がない!


 私はロトのことが大好きだ。あの子は私の全てだ。ロトの命と任務があって、どちらか一方しか選べないなら、私は迷わず前者を選択するだろう。



「おネガい、あの子を、オイジュスを、――」

「…………!」

「――あの子だけは、タスけて、おネガい……」


 腹部を深く斬られ、真っ赤な血を滴らせるネスト。彼女の口から壊れた自我から発せられる言葉が漏れる。――まだ、彼女は「電化兵騎」だった。


 私は最低だ。

 私は残酷だ。

 私は冷徹だ。


 死にゆく彼女の、“心からの”願いを、踏みにじろうとしている。

 ……だから、何なのだ? オイジュスを壊さなきゃ、第7兵団は消される。第7兵団が消されれば、人類統治の軍勢がオイジュスに乗り込んでくる。勝ち目はない。捕縛されて私もあの子も、拷問されて、オイジュスやネストのように、自我を壊された奴隷にされて、いつか電化兵騎に殺される。

 私の知能が計算した未来。希望のない、絶望の未来。そんな運命、私は歩みたくない。だったら、することは決まってくる――。

 これは理性的な判断! この女の願いを聞き入れたら、私は、あの子はどうなるんだッ! だからッ――!!


「うるさいッ!!」


 私はネストを、渾身の力で蹴り飛ばす! 右の股関節に痛みが走る。勢いをつけすぎたのだろう。だが、そんなことはどうでもいい。私は吹っ飛ぶネストを、刃の先を突き出して追いかける。


「おネガい、やめて、あのコ、だけは、だけは――」

「黙れぇぇえぇッ!!」


 床に何度も叩き付けられた身体で、立ち上がるネスト。だが、完全に立ち上がる前に、私の刀がネストの胸を貫く。彼女の赤い目が見開かれ、口から大量の血が吐き出される。

 私はようやく状況に気付き、凍り付く。取り返しのつかないことをしてしまった。――ネストを殺したこと? 違う。そうじゃない。


「あっ、……ご、ごめっ、ごめんっ!」

「…………」


 私は震えながら後ずさる。ネストのすぐ後ろに、彼女の背から飛び出した刃の先に、――ロトがいた。呆然とする少年の顔や服に真っ赤な女の血が飛び散っている。


「……ターゲットの、プログラムを破壊しました」

「えっ……? あ、ああ、了解」


 ロトがゆっくりと下げる右手の先に、オイジュスをセットするカプセル。その中に、口から血を垂らす少年の姿があった。すでに意識はないのか、がっくりとうなだれている。


「……いいコ、だったのに、みんなをま、マモって、ツカまっ、ゴウモン、イタかた、クルし! よよ、よくも、アア! ヒドすぎぎる、ユグドラシルなんて、なんて、なんて、ホロべばいいんだいいんだいいんだ!」

「ごめんなさい、ごめんなさいっ……!」


 ネストの背後でロトが泣きながら謝り出す。――なにこれ? なんで? だって、オイジュスを殺さないと、第7兵団が消される。私もあの子も捕縛される。銀河は再び大混乱だ。こうするしか、こうするしかなかったじゃないか!

 私は私たちや大ユグドラシルに対して呪いの言葉を発し続けるネストを刀で斬り裂き、床に転がった胴体を刺し壊す。何度も、何度も、何度も。ロトが泣き叫びながら、私を抱きしめて制止させる。その勢いで私は床に倒れ込む。


[システム・オイジュスを停止します。攻撃中止。装填済みエネルギーは安全に保管されました]


 こうするしかなかったんだ。これは理性的な判断。だって、事実、オイジュスは止まり、第7兵団の壊滅は免れた。大戦はまた一歩、終結に近づいた。これは素晴らしいことに分類される。……なのに、なぜ私の気持ちは晴れないのだろうか――?

  <<整理されたイツナの資料>>


 【電化兵騎=ネスト】


◆基本データ

 ◇騎種:人間型

 ◇性別:女

 ◇世代:第3世代

 ◇従者:電化兵騎=オイジュス

 ◇所属:大ユグドラシル>防衛省>防衛軍>筆頭大将付

 ◇階級:(製造・納品)→特任准将→特任少将→担当中将

 ◇容姿

  ・髪:赤色

  ・目:茶色

 ◇武器:軍用剣


◆経歴

 ◇納品~特任少将時代

  大ユグドラシル特注。メーカーにて製造され、納品後に特任准将として第1兵団に配属。配属後に13年もの実践を得て、筆頭大将付に異動。異動時に担当中将に昇格。


 ◇担当中将時代~(ロスト)

  ・異動後、電化兵騎=オイジュスとパートナーになり、以後は電化兵騎=オイジュスに指揮・命令を行うと共に、彼を護衛する任務に就くこととなった。

  ・レクリアントの戦いにて、オイジュスと共に敵対勢力「人類統治」に拘束される。拿捕後、電脳ウィルスに感染させられ、人類統治の支配下に置かれる。

  ・サーヴァントの戦いにて破壊される。電化兵騎=オイジュスもほぼ同じ時間帯に破壊。

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