第5話 人類統治の電化兵騎
「かかれ! ディザイア将軍とエレナー中将をお守りし、戦犯エクリアを捕縛しろ!」
「イエッサー!」
白地の軍服にサファイア色のラインが入った軍服を纏う大勢の電化兵騎を指揮するのは、真っ青なコートを纏う女性型電化兵騎――ハクア中将。彼女の指揮下、大ユグドラシルの電化兵騎たちは次々とコロシアムのステージに降り立つ。
一方、人類統治のアンドロイド兵士たちも一斉に電化兵騎に向かっていく。施設内からは更に大勢のアンドロイド兵器が繰り出される。
「だ、大ユグドラシルの侵略だ!」
「どうなってんだ!? サーヴァントの防空セキュリティは万全のハズじゃ……!」
「そ、そうよ……。厳重なプロテクトがかけられてて……。と、とにかく安全のハズじゃない!」
防空セキュリティ、厳重なプロテクト……。残念だが、それらはもう――
[ディザイアさん、大丈夫ですか!?]
「な、なんだ!? あのスクリーンに映っているのは!」
会場に設けられた大型の電磁スクリーンに、白銀の髪の毛をした少年が写し出される。彼の後ろに私のパートナー――ロトも控えている。
[この惑星の防衛システムを全て停止させました。いまから僕たちもそっちに向かいます!]
スクリーンの中で話す少年はルミエール。大ユグドラシルの少将だ。彼は私のロトと一緒にコロシアムの地下施設に潜入し、この惑星の防衛システムをハッキング・ストップさせる任務を与えられていた。そして、状況からして任務は成功したのだろう。
ディザイアは地面に転がったエクリアの左腕を拾い上げ、手首に装備されていた小型端末を操作する。
「よくやった、ルミエール。今日の一番の功労者は君だな」
[そ、そんなことないですよ! ディザイアさんが一番です! 僕なんて――]
「謙遜するな。敵地の奥深くに潜り込んで強力なプロテクトを解除するのは、並大抵の電化兵騎には出来ないことだ」
[いやいや、ディザイアさんだって、あのシールドを拳で壊すなんて――]
お互いがお互いを今日一番の功労者だと称え合う中、エクリアを小型ガンシップに放り込んだエレナーが言った。
「なぁ、わざと人類統治に捕縛されて、大衆の前で裸を晒してまで任務を遂行した私が一番なんじゃないのか?」
「…………」
[…………]
「……すまない」
エレナーの言うことは間違いじゃないなと、密かに“私のロト”が最大の功労者だと考えていた私もそう思った。
なにはともあれ、エクリアは捕縛され、この電化兵騎の処刑場と悪名高いコロシアムも制圧できそうだ。そして、惑星サーヴァントを制圧すれば、銀河第5エリア『銀河辺境地域』の更なる深部への攻撃が可能になる。
私たちの今回の任務は、エクリアの捕縛と惑星サーヴァントの制圧。ルミエールとロトが防衛システムを停止させ、ディザイアとエレナーがエクリアを捕縛し、ハクアが惑星制圧のための軍を指揮する。そして、私は遊撃担当。不測の事態に備え、各員を必要に応じて補佐する。
「だが、この様子じゃ出番はないかな……」
私はもはや誰もいなくなった客席で1人呟く。だが、私に出番がないということは、裏を返せば、作戦は順調に進んでいるということだ。
[イツナさん!]
「……ロト? どうしたの?」
急にロトから通信が入る。
[惑星サーヴァント、惑星首都サーヴァント東部上空に大型兵器の接近を確認しました]
「……人類統治の大型軍艦?」
[違います! この反応は……!]
「…………?」
私はコートを脱ぎ捨て、背中に装備していたジェット・パックを起動させてコロシアムの上空に飛び上がる。
「これは……!」
コロシアムの外壁に降り立った私の目に、驚愕の光景が目に入る。白い雲を割って現れたのは白地の外装を持つ超大型の宇宙軍艦。
[人類統治の保有する最大にして最強の“兵騎”『オイジュス』です!]
「分かっている……! 電化兵騎=オイジュスまで投入してくるなんて……」
私はサーヴァントシティと周辺地域の空を完全に覆いつくさんばかりの大きさを誇る超大型“兵騎”を目にしながら、拳を握り締める。己の敗北と死を計算し、バイタルがおかしな数値を刻む。
「大ユグドラシルから奪い取った亜人型電化兵騎=オイジュスをこのタイミングで投入してくるなんて――」
「――ワナだったんだろうね」
私はロトの発したセリフの続きを紡ぐ。いつの間にか、私の後ろには、白色の人型機動兵器を纏ったロトが浮かんでいた。
人間型をしたこの機動兵器は、腹部から胸部にかけて設置された操縦部に電化兵騎が乗り込ん操る兵器だ。言ってしまえば、大型のボディを纏うようなもので、機動兵器操縦時に使用するブラスターも、一発が戦艦から発せられる砲弾並みの威力を持つ。
「電化兵騎=オイジュスはそれ自体が戦艦だ。主要砲から発せられる光弾は、最大出力で並の大陸を丸ごと消し飛ばせるだけでなく、着弾の衝撃波で惑星の大気を吹き飛ばすことも可能だ。そんな衝撃波を受ければ、私たちは全滅だろうな」
「…………! ディザイア!」
いつの間にか、ロトの後ろにはディザイアとルミエールが機動兵器を纏って飛んでいた。まさか、2人で電化兵騎=オイジュスに挑む気のか!?
「イツナ、ここは任せた。エレナーとハクアと一緒に地上の制圧を続けてくれ。私とルミエールで電化兵騎=オイジュスを奪い返す」
「だけど――」
「大丈夫さ。ルミエールがハッキングで、電化兵騎=オイジュスの思考回路を正常に戻す。ハッキングの間に飛んでくる攻撃や飛行兵器は、私が破壊する」
「待っ――」
私が止める前に、ディザイアとルミエールは機動兵器で、大ユグドラシル軍と人類統治軍が激しい空中戦を繰り広げる上空へと飛び上がる。だけど、それは――
「イツナさん、僕たちもディザイアさんたちを助けましょう!」
意気込むロトに私は一言、冷静に答えを返した。
「……ダメだ」