第4話 電化兵騎の反撃
[さて、本日の試合が全て終了しました! これより、競りに入ります! 試合をご覧になって、お気に召したアンドロイドがあれば、是非是非ご購入をご検討ください!]
狂気の催しもフィナーレだ。コロシアムのステージ中央がスライドして開き、下から司会を務めていた年若い女性が上がってくる。緑髪をしたショートヘアの彼女は、6体の屈強なアンドロイド――親衛型アンドロイドを伴ってステージの中央に立つ。
「……いよいよだ、あの小娘が――」
「――“人類統治リーダー”の1人だね……」
私はステージの中央に目を向けたまま言う。
今回の任務は、人類統治リーダーの1人――エクリア=ユロフスキーの逮捕。彼女はコロシアムの管理・運営を行うだけじゃなく、人類統治の執行部メンバーだ。
コロシアムのステージでは、戦闘用アンドロイドに引き連れられた数十人の、衣服をまとわぬ女性型電化兵騎たちが並べられている。今日敗北した電化兵騎や捕らえられた子たちだ。
[それではッ、本日の競りを始めます! まずルールのご説明を――]
ディザイアがステージに向かって右手を手を大きく振る。すると、ステージ上に並べられた女性型電化兵騎の1人が、いきなりステージ中央――エクリアに向かって走り出す。
「…………!」
異変に気付いた親衛型アンドロイドが手にしていた槍を起動させる。銀棒の先端に黄色をした鋭い突起物が展開される。全裸で何も武器を持たない彼女は形勢不利と判断したのか、素早く距離を取る。
[おおっとぉ~、間抜けなアンドロイドがまさかの場外乱闘だぁ! 解体ショー番外編、スタートですッ!]
エクリアが叫ぶと、6体の親衛型アンドロイドが槍を手に、襲い掛かろうとした女性型電化兵騎に向かっていく。――これがディザイアの狙い。
「……「ドレスデン=メカニック」の貧弱アンドロイドか。エクリア、お前よりかは役には立ちそうだな。だが、私には及ばない。こいつらを壊し、お前も“アナトリー”と同じように監獄という名の地獄に送ってやるよ」
「…………ッ! なんだと、貴様……」
裸の電化兵騎の言葉に、エクリアの表情がみるみる険しくなっていく。
「電化兵騎排斥とかアンドロイド兵器の再配備とかワケの分からない言っていたが、あの男は自社の製品を売りたいがために――」
「……黙れ」
「大ユグドラシル議会議員や防衛組織に汚い賄賂を贈り、電化兵騎軍縮小法案を可決させようと――」
「黙れ」
「――「ドレスデン=メカニック」。時代に取り残された哀れな地を這うネズミ。この戦争を最後に消えるんだな。お前も“お前の父親が遺した会社”も――解体だ! 解体ショーの見世物は――」
「こいつを、こいつらを殺せぇぇえッ!!」
鬼のような形相でエクリアが叫ぶ。会場の観客たちも激しい怒号を電化兵騎たちに浴びせる。その怒りを命令として受け取った親衛アンドロイドと戦闘アンドロイドたちは一斉に裸の電化兵騎たちに凶器を向ける。
「えっ、えっ!?」
「ひっ、やだ助け――」
「わ、私は――」
突然の展開に驚き、恐怖に震えあがったのはオークションにかけられるハズだった電化兵騎たちだ。戦闘アンドロイドが放つブラスターの赤い光弾に、彼女たちは悲鳴を上げ、ステージ上を逃げ惑う。オーディションは殺戮ショーへと姿を変える。
ステージ上にいる電化兵騎たちの全滅は時間の問題だ――。誰もがそう考えたであろう時だった。
「…………!」
エクリアが腰に装備していた二丁の小型ハンド・ブラスターを両手に持ち、発砲する。赤い光弾が飛ぶ。何者かが飛んでくる光弾を瞬時に避け、彼女に迫る。
「なッ、お前!?」
エクリアは左手首に装備していた小型端末のタッチパネルに触れ、重厚シールドを展開する。自身を囲うように球状の黄金色をしたシールドが張られる。
だが、迫りくる彼女は突き出した拳で、戦艦からの砲弾にすら耐えられる上級のシールドを砕き壊す。そして、――
「きゃあぁぁあぁッ!!」
「お、おい! どうなってんだ!!?」
「エクリアさんが、エクリアさんが!」
気づいた観客の一部が悲鳴を上げる。その声に、ようやく他の観客やアンドロイド兵士たちも、その事態に気付く。
「あっ、……がっ、ぁ――」
真っ赤な液体が冷たい地面に垂れる――。
「――遅いですよ、ディザイア将軍」
「すまないな、エレナー中将」
エクリアの側に並んだ2人の電化兵騎。1人は私と一緒に会場に乗り込んだディザイア。もう1人はさっきエクリアを挑発した裸の電化兵騎――エレナーだ。
そして、彼女たち2人の電化兵騎に挟まれる形で立っているのが、左腕を斬り落とされ、右腕を折られた人類統治リーダーの1人にして「ドレスデン=メカニック」の代表――エクリアだ。
「っ、あぁぁああぁぁあッ!!」
激痛を感じ、会場中に響き渡るような悲鳴を上げるエクリア。彼女は地面に倒れ込み、のたうち回る。その身体を踏みつけるディザイア。
[殺せ!]
[撃て!]
アンドロイド兵士たちがブラスターの銃口を2人に向ける。ステージの出入口からも無数のアンドロイド兵士たちが走ってくるのが見える。
だが、赤い光弾が放たれようとしたとき、不意に2人とは別方向から光弾が何十発と飛んでくる。青い光弾がアンドロイド兵士たちに浴びせられる。
青い光弾の発砲元に目を向けると、そこにはコロシアムの外壁から、背中に装備したジェット・パックを起動させ、会場内に降り立つ無数の電化兵騎たちの姿があった――。