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第2話 暗黙の了解

[サーヴァント北駅、サーヴァント北駅です]


 列車の扉と駅構内に設置されたホームドアがゆっくりと開く。私は列車からホームへと足を踏み出す。複数のホームが設けられた大型の駅だ。私の乗ってきた列車以外にも、3本の列車が停まっている。


[6番ホームに、エーセン方面行きの列車が参ります]

[間もなく9番ホームから、セルド行きの列車が出発します。ご乗車の方は――]


 私は人ごみをかき分けるように、駅構内を進んでいく。私たちを乗せてきた列車は、僅か数人を降ろしただけで、再び動き出した。行き先は……。


「あれ、さっきの列車……」

「どうしたの?」

「いや、……この時間に来るんだっけ?」

「少し遅れて来たんじゃないの? あんたも細かいねぇ」

「そ、そうか?」

「そうよ。この前も――」


 若い男女が、すでに走り去った列車について話していた。だが、それ以上、彼らが列車の話をすることはなかった。話題はやがて他愛のないものへと移り変わっていた。

 私たちは薄い強化ガラス製のエスカレーターに乗り、上階へと向かう。


「ねぇ、イツナさん」

「なに?」


 私の後ろにいるロトが話しかけてくる。


「エスカレーターに乗る時は、右側を開けるのが暗黙の了解になっていますが、旧統治時代のある地方では左側を開けていたそうですよ」

「……そう」


 私はエスカレーターを降り、駅の自動改札口へと足を進める。相変わらず人が多いのは、この街が惑星の中央都市だからだろう。


「でも、鉄道会社側はエスカレーターの右側を開けるのは、よくないと思っていたみたいです。そもそも、エスカレーターの右側を開けるのは、歩いて上る人向けなんですが、エスカレーターで歩くのは事故に――」

「ロト、もうすぐディザイアと合流する」

「あ、はい……。了解です」


 改札口を偽装データで潜り抜けた私たちは、そのまま駅構外へと出る。目に入ってきたのは複数の大きな建物。駅玄関口の正面に位置する建物の中腹には、大型の電子スクリーンが映し出されている。


[面倒な家事はも~イヤ! 身を守る盾が欲しい! 仕事を楽にした~い! そんな思いを持っているそこのあなたッ!]


 電子スクリーンに、家事に追われる女性、夜道で強盗か何かに狙われる子ども、オフィスのデスクでうつ伏せになっている男性の姿が現れる。


[政府公認の安全なコロシアム・オークションで“アンドロイド”を購入してみませんか!? 家事も、警護も、仕事も、たったの1台で全てをこなす!]


 女性型の“電化兵騎”が、さっきの想定シーンにあった問題を次々と解決していく映像が流れていく。家事をして、警護をして、仕事をする……。


[でも、アンドロイドって所有者に反抗するんじゃないの?]


 映像は購入者の3人にナイフを向ける電化兵騎へと移り変わる。その映像の下から声の主と思われる若いスーツ姿の男性が現れ、笑顔で話を続ける。


[そんな不安をお持ちのあなた! 政府公認のオークションに出品されるアンドロイドには、安全装置が付けられており、万が一の暴走を防ぎます!]


 襲い掛かっていた女性型電化兵騎の左足首がピックアップされ、装着された足輪の説明が写し出される。人間が一度に読むには多すぎる情報量だ。


[あなたもアンドロイドで生活にゆとりを持たせませんか!? 是非、政府公認のコロシアム・オークションへ!!]


 映像が切り替わり、美しいドーム状の建物が現れる。映像の左下半分に簡易な地図も共に写される。サーヴァント北駅からそう遠くはない。

 やがて、映像はコロシアムの開催情報と注意事項を並べたものへと変わり、音声は機械的なものになった。


[本日19時より、中央コロシアムにて強者クラスの格闘試合及びオークションが行われます。試合観戦の方、アンドロイドをお求めの方は是非コロシアムへとお越しください。なお、コロシアムは18歳未満の方の入場をお断りしています。入場に際しては身分証明証をお持ちください]


 アンドロイドとは言っているが、その実態は電化兵騎だ。広い意味では電化兵騎もアンドロイドになるのだろうけど、電化兵騎のことをアンドロイドと称する場合、大抵は蔑んだ意図を含ませることが多い。

 私たちが乗ってきたあの列車。拘束されてのは電化兵騎。彼女たちは本来ならコロシアムの地下駅に運ばれ、売り物にされるハズだった。


「“人類統治”の公認と言わないのは、やっぱり後ろめたさがあるんだろうなぁ」

「…………! ディザイアさん!」

「…………」


 いつの間にか私たちのすぐ後ろに背の高い女性が立っていた。白銀の長い髪の毛に、色白の肌をした黒衣の女性――ディザイア将軍だ。


「“大ユグドラシル”と勘違いさせる狙いがあるんだろうけど、コロシアムの運営が人類統治によってなされているのは、もう周知だと思うけどね」

「周知だけど、タブーというヤツさ。みんな知っているが、公の場では口には出さない。これも“暗黙の了解”なんだろう?」


 ディザイアの澄んだ緑色の目がチラリとロトを捉える。ロトは黙ったまま、ディザイアの言葉を肯定する。


「そして、18禁のコロシアムで何が行われているのかも、暗黙の了解。売られた女電化兵騎になにをさせているのかを話さないのも、暗黙の了解」


 ディザイアはロトに近づき、その股間に軽く手を触れる。少年は困惑の表情を浮かべ、私に助け舟を求めるかのような目を向ける。


「でも、そのコロシアムも今日で終わりだ。……そうだろう? イツナ特任中将」

「…………」


 ディザイアはロトから離れ、歩き出す。コロシアムの方向だ。私たちも続く。

 そう、私たちは大ユグドラシルの命令で惑星サーヴァントのコロシアムを制圧しに来た。非道な試合と売買を行うコロシアムを制圧し、人類統治の代表代行を捕らえる――場合によっては殺害するためにこの惑星にやって来た。

  <<ロトのデータファイル>>


 【人類統治】

 人類統治は『人類の、人類による、人類のための統治』をスローガンとした新興の統治機構です。大ユグドラシル打倒を目指しています。

 彼らは電化兵騎の排斥と人類による統治を主張し、一時は相当な勢力を築いていましたが、現在では崩壊寸前にまで追い詰められています。


◆基本データ

 ◇代表:ホサカ

 ◇主なメンバー

  ・ホサカ[政府代表]

  ※他多数



 【大ユグドラシル】

 局部銀河群の広域を統治する組織です。

 現在では、電化兵騎=ルーシーが政府代表の地位にありますが、これは大ユグドラシル史上初の電化兵騎による政権を意味しています。しかし、このことが人類統治の台頭を招いたとも云われています。


◆基本データ

 ◇代表:電化兵騎=ルーシー

 ◇主なメンバー

  ・電化兵騎=ルーシー[政府代表]

  ・電化兵騎=ディザイア[防衛軍/第7兵団大将]

  ・電化兵騎=イツナ[防衛軍/第7兵団特任中将](僕のパートナー!)

  ・電化兵騎=ロト[防衛軍/第7兵団特任准将](僕のこと!)

  ※他多数

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