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第1話 囚われの「電化兵騎」

 黒に近い灰色の曇天の下。枯れた木が点々と頭を垂らす荒れた山々。そこに引かれた1本の線路上を、鋼の列車が駆け抜ける――。

 列車には、まだ見ぬ未踏の地に期待を膨らませる旅人や、日頃の憂鬱から解放されて観光を楽しむ者、愛を誓い子を設けた家族連れの姿などない。この列車が運ぶのは、――絶望か、恐怖か。



「…………」


 薄暗い列車内。他の車両に通じる扉が開かれ、紅色をした装甲服に身を包んだ軍人がブラスターを手にゆっくりと入ってくる。座席に浅く座る者たちの1人が、俯いたまま小刻みに頭を軽く揺らす。他の者たちも僅かながらに落ち着きなく小さく身体を動かす。

 明らかに大きすぎる灰色の分厚いコートのような服。フードを深々と被らされた彼女たち、彼らの表情は私には伺うことは出来ない。だが、誰一人として笑みを浮かべる者も、希望に満ちた明るい表情をする者たちもいないだろう。なぜなら、――。


「イツナさん……」

「……静かに」


 右隣にいた少年が、不安げな声で私の名を口にする。私は小さな声で少年に沈黙を求める。装甲服の男には気づかれていないようだ。彼はブラスターの銃口を乗客……いや、護送される囚人たちに向けながら歩いてくる。ブラスターの暴発による事故。そんなことは問題にならないのだろう。どうせ、私たちは――。


「…………」


 男が私のすぐ側にまで歩いてくる。そのとき、向かいに座っていた女が恐怖からか大きく身体を震わせる。微かに服が擦れる音がする。その音に警戒した男がブラスターの銃口を女に向ける。

 そのとき、私は男に素早く飛び掛かる。不意打ちのような体当たりに、男は身体のバランスを崩し、ブラスターを床に落とす。男と私はそのまま座席に倒れ込む。囚人たちから悲鳴とどよめきが上がる。


「き、貴様っ!」


 男が私を押しのける。だが、男が立ち上がる前に赤い光線が飛び、紅色の装甲服を貫く。私の側に座っていた少年が床に転がったブラスターを拾い上げ、男に向かって発砲したのだ。


「ロト!」

「はいっ!」


 私の呼びかけに応じた少年が、ブラスターの銃口を私を拘束する手枷に向ける。再び赤い光線が放たれ、鋼の手枷は撃ち壊される。壊れると同時にブラスターを受け取り、ロトの手枷も撃ち壊す。

 そのとき、別車両への扉が開かれ、灰色の機体に緑色のラインが塗装されたアンドロイド兵が2体、姿を見せる。


[暴動を確認!]

[全員殺せ!]


 アンドロイド兵たちは私にブラスターの銃口を向ける。私は着ていたコートを脱ぎ捨て、一糸まとわぬ姿となって赤い光線弾を避ける。避けて、列車の窓を蹴り、空中でブラスターの照準を合わせる。光線弾がアンドロイド兵たちの胸部プレートを撃ち砕く。


「えっ、わっ、イツナさんっ! ふ、服っ!」


 私の身体を目にして動揺したのか、ロトが顔をそむける。ただ、目はちらちらと私を見ていた。恥ずかしくないことはない。ただ、あの服は動きにくい。戦いでは邪魔になる。


「拘束した“電化兵騎”が逃げ出したぞ!」

[殺せ、殺せ!]

「…………!」


 隣の列車から声が聞こえる。私は扉を開けると同時にブラスターの引き金を引く。赤い光線弾が何発も飛び、走り迫ってきたアンドロイド兵と人間兵士を射殺する。

 敵兵を撃ち殺しながら、私は列車を駆け抜ける。奥の車両からさらに奥の車両へと進んでいく。途中で出くわす兵士を次々と射殺する。


「おのれ、電化兵騎! 人間社会に蔓延る悪魔め!」


 先頭車両の1つ前の車両に辿り着いた時、紅のコートを纏った男性将校が赤色に輝く剣を手に襲い掛かってくる。鋼をも簡単に斬り裂く高電圧・高熱の光線剣だ。


「……私たちは人間社会をサポートするための存在」

「人の皮を被った汚らわしいアンドロイドがぁッ!」


 男が飛び掛かってくる。私は素早くブラスターの銃口を向け、躊躇なく発砲する。赤い光線弾が男の額を撃ち抜く。本来、光線剣はブラスターの光線弾をも弾けるが、この男にそこまでの技量はなかったようだ。


「イツナさん、車両を制圧……う、うわぁっ!?」


 背後の扉が開き、ロトが話しながら入ってくる。私の裸体(後ろ姿なんだが)を目にして情けない声を上げる。私は男の羽織っていたコートを身に纏う。


「これでいい?」

「よ、よくないですよぉっ! 脱がされた服を保管している車両が途中にあったじゃないですかぁ!」

「忙しかったから仕方ない。車両のコントロール・システムを乗っ取ったら着替えに――」

「もうシステムも制圧しました! 僕がこの列車を操縦しますから、イツナさんは服着てきてください!」

「……分かった」


 私は列車のことをロトに任せ、自分の服を取りに行こうとする。だけど、その前に私はロトの頭に後ろからそっと手を置く。


「イツナさん?」

「ありがとう、ロト。後は任せたよ」

「……任せてくださいッ!」


 私は軽く穏やかな笑みを浮かべ、背後からロトを軽く抱きしめる。


「“今回も”、絶対に生き残ろう」

「もちろんです! 死なないでくださいね! ……あと、早く服を、そのっ、胸、当たってますから……」

「……そうだね」


 私は緊張から解放された笑みとはまた違った笑みを浮かべる。そっとロトから腕を離し、衣服が保管されている車両へと向かう。いつまでも全裸じゃ、さすがに恥ずかしい。



































 こんな日々がずっと続けばよかった――。

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