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第18話 残酷な果実

 裏切りの芽は確実に育っていた。


 種は始まりの時に蒔かれ、戦いと共に育ち続けた。


 育ち切った芽は木となり、残酷な実を落とす。



 終わりの始まり。


 それは突然に迎えた――。



































「エレナー中将!」

「……イツナ大将」


 私は機動兵器を降下させ、地上で指揮を執っていたエレナー中将に声をかける。彼女はいつも通りの落ち着いた声で話す。


「人類統治の軍勢はすでに総崩れとなっている。ホサカを失い、誰も指揮する者がいないみたいだ」

「そうだね。でも、油断は禁物。これから私は人類統治の支配するリリー諸島に再攻撃をかける。援護して欲しい」

「イエッサー!」


 私は再び機動兵器を上昇させ、リリー諸島のある方角に向かって飛び出す。すでに戦況は優勢だ。人類統治の軍勢は崩れ切っている。後は、どれだけ短い時間でこの惑星アマゾネアを制圧するかだ。

 戦場の空を飛んでいると、私の前にA-S1が数十機飛んでくる。筒状の機体に鋼の両翼を持つ戦闘機型の爆撃・対空戦闘機だ。


[攻撃! 攻撃!]


 両翼の先端から赤色の光線が連続して飛ぶ。私は機動兵器から青色の光弾を撃ち、機械兵器たちを迎撃する。安価な量産型兵器は次々と青色の光弾に撃ち抜かれ、炎を上げて落ちていく。

 ――だが、そのときだった。


「…………!」


 砲弾の飛ぶ音が聞こえた。私はとっさに振り返り、シールドを張ろうとした。だが、それよりも前に、その光弾は私の機動兵器の背中に着弾した。強烈な衝撃波が私の身体を引き裂かんばかりに襲い掛かる。

 私の機動兵器は炎を上げ、急速に降下を始める。もはやコントロールすることは出来なかった。私は空中で機動兵器の操縦部から飛び出す。炎上した機動兵器はアマゾネアシティの高層ビルに突っ込む。私自身はアマゾネアシティの高架橋上に叩き付けられながら横転する。


「あッ、が、ッ……」


 私は激痛が走る身体で何とか立ち上がろうとする。両腕を付きながら立ち上がろうとする黒いアスファルト上に、自分の真っ赤な血が垂れる。


 私は確かに見た。私の機動兵器を破壊した光弾の色は――青色だった。大ユグドラシルの、私たちの軍勢が使う光弾だ。

 なぜだ? 単なる流れ弾? いや違う。確かにあれは私を狙っていた。誤射か? そうだ、そうとしか考えられない。

 ――今、私の目の前に広がる光景だって、何かの間違いだ。


「な、なにをしている……?」


 私は震える手で刀を起動させる。大ユグドラシルのシンボルカラーである青色の刃だ。だが、今、私の目の前にいる者たちが持っている軍用剣の色も同じ青だ。


「イツナさん、申し訳ありませんがそのお命を頂きます」


 白地に青色のラインが入った装甲服アーマーを纏う兵士たちが私にブラスター・ライフルや青色の軍用剣の刃を向ける。彼女たちはアンドロイドじゃない。彼女たちは、――電化兵騎だ。それも大ユグドラシル所属の……。


「まさか、電脳ウィルスに……! エレナー中将、至急応答願う!」


 私を取り囲む電化兵騎たちが一斉に発砲する。ブラスター・ライフルから青色の光弾が飛ぶ。私はその光弾を刀ではじき返す。

 エレナー中将に通信を試みる。だが、――


――通信システム:応答拒否


 私のはじき返した青色の光弾が、ある電化兵騎の胸部を貫く。彼女の胸から真っ赤な血が飛び散り、その身体は、ひび割れたアスファルト上に倒れる。私は電化兵騎を殺してしまった。


「エレナー中将、私だ!」


――通信システム:応答拒否


「撃て!」

「確実に殺せ!」


――通信システム:応答拒否


「エレナーッ!!」


――通信システム:応答拒否


 通信システムに異常があるワケじゃない。通信は確かにエレナー中将に届いている。だけど、彼女自身が私の通信を拒否している。

 次第に私の命を狙う電化兵騎の数が増え始める。これ以上は手加減できない。私は下唇を少し噛み締め、刀の柄を強く握りしめる。そして、ないハズの心を殺して――


――通信システム:応答拒否


 青色の光刃が、柔らかくて硬いモノを斬り裂く。そこから飛び散った真っ赤なエネルギー液が私の軍服を汚す。すぐ後ろで苦痛に満ちた声が上がる。もう少し後ろで何かが倒れる。


「ひッ……!」


 命の終わりを悟り、恐怖に歪んだ表情を浮かべる少年の首を、私の光刃が貫く。そのまま鋼とシリコン素材を抉りながら、彼から刃を抜き取る。

 9人の電化兵騎を殺した私は、残った者たちには目もくれずに駆けだす。


――通信システム:応答拒否


 意味が分からない。彼女たちの様子からして電脳ウィルスに侵されたワケではなさそうだ。彼女たちの目は赤くなかった。

 私を襲った電化兵騎は、電脳ウィルスに侵されていない。エレナーは私からの通信を受け取っておきながら、意図的に拒否する。

 そうなると考えられることが一つあった。――これは、エレナーによる組織的な行動。つまり、エレナーたちは、自らの意思で私を殺そうとしている。


 私は高架橋上の隅にあった機動兵器に飛び乗ろうとする。だが、そのとき、私の後ろから青色の砲弾が飛んでくる。それは、私が今まさに飛び乗ろうとした機動兵器を直撃し、アスファルトの地面をも砕く。崩れる地面。炎と煙に巻かれながら、私の身体は高架橋の下、海へと真っ逆さまに落ちていった――。


――通信システム:応答拒否

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