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裏切りの電化兵騎 ――女性軍人と少年従者――  作者: 葉都菜・創作クラブ
 ◇第2章 人類統治・総司令官捕縛作戦
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第13話 旧世代の脅威

 会議を終えた私は、第5世代の電化兵騎たちが暮らす施設「ファイブズ・センター」へと向かっていた。航空送迎車は防衛軍本部施設のプラットホームから離れ、首都エデンの上空を進んでいる。窓から見える光景は無限に広がる光の粒。超高層建築物の窓や看板、航空自動車の光だ。


[いつまでも健康でいたいあなたに、ケアミング社からのおすすめです]

[より安全に、丁寧にあなたを運びたい。私たちはスリーズ自動車です]

[皆さまの人生を向上させる資格予備校イーストズ=プレイジン駅前校は、私の足元です]


 高層建築物の間に巨大なホログラムが投影されている。それぞれの会社のイメージ・キャラクターが自社の宣伝や案内を行い、それが終わると次のキャラクターが現れてまた違う会社の宣伝を始める。


[惑星代表の電化兵騎=エデンより、首都市民の皆さまにお知らせいたします]


 次は首都惑星エデンの広報のようだ。紫色の優雅なドレスを纏った女性の姿が映し出される。銀色の髪の毛をした彼女は電化兵騎=エデン……のホログラム。


[銀河史上最大規模の内戦が開始され、早くも5年が経過しました。一時は銀河中枢領域コア・ガルズにまで攻め込む勢いを見せていた人類統治勢力ですが、現在は遥か彼方の銀河辺境領域ウート・ガルズに追い込むことに成功いたしました。

 しかし、内戦はまだ終わっていません。私たち首都エデン警備軍は引き続き、警戒を強めて参ります。不審な人物・物品を発見されましたら、近くの電化兵騎もしくは警備軍まで通報ください。

 私たちは皆さまと共に首都惑星を守っていきます。ご協力のほど、お願い致します]


 電化兵騎=エデンの姿が消え、また民間企業の宣伝が始まる。私は視線を窓から車内に戻す。

 もう戦争が始まって5年か。私たちにはそれが長いのかどうかはよく分からない。長いと言われればそのような気もするし、短いと言われればそうなのかも知れない。人間は……どうなんだろうか?

 ただ、この5年は“私が本当の意味で生きて来た期間”だ。それまでは、とある領域にある、とある惑星でずっと動作テストをしていた。テストが終われば、メンテナンスをするためにシャットダウン。終われば起動してまた動作テスト。その頃はロトも一緒じゃなかった。

 私に限らず、第5世代電化兵騎はみんなそうだった。私たちは5年前に初めて大ユグドラシルに納品された。大ユグドラシル軍を補佐するために、私たちは製造されたようなものだ。


「イツナ」

「……なんですか?」


 私の正面に座っているレーイ特任大将が声をかけてくる。


「今回の任務、頼むぞ」

「はい。お任せください」

「…………。……私たちの製造目的は知っているな?」

「もちろんです。私たちは、“予想されていた内乱”に備えて製造されました」

「そうだ。

 ――人類の一部が電化兵騎に恐れをなして、大ユグドラシルに反乱を起こす。銀河辺境領域ウートガルズの諸国や悪徳企業、反政府組織の動向も相まって、“それ”は確実に起こる。

 反乱の勢いは極めて強く、既存の大ユグドラシル軍だけでは鎮圧不可能。反乱勢力は新政府となり、戦争勃発から10年後、大ユグドラシルは彼らを認め、不可侵条約を結ばざるを得なくなる――」


 レーイ特任大将の口から紡がれるのは、大ユグドラシルの人工知能が計算した歴史だ。この戦争が始まる10年以上前に出した計算らしい。


「銀河を統治するのは大ユグドラシルのみ。大ユグドラシル単一統治を維持するために、大ユグドラシル軍を補佐する必要があった」

「だから私たち第5世代電化兵騎が作られたんですね」

「当時の政府代表と防衛大臣、そして筆頭大将の地位にあったフェアラートが、私たちの創設を決定した。でも今、……分かるな?」

「大ユグドラシルが戦争に勝利すれば、私たちの存在理由はなくなります。特任である以上、戦争が終われば解任される可能性が高いですね」


 航空送迎車が止まる。高層建築物の上層にある私の家に到着したようだ。


「……そんなことはさせない。なんとしてでも、私たち第5世代電化兵騎を防衛軍に組み込む。――“第4世代の悲劇”は……」


 私は開かれた航空送迎車の扉から玄関前の歩道に降り立つ。そして、後ろ――レーイ特任大将の方を向いて言った。


「レーイ閣下、お任せください。必ずやホサカを殺し、人類統治を崩壊させます。その功績で生き残りましょう」

「……頼むぞ」


 航空送迎車の扉が閉まり、首都の空へと消えていく。私はその姿が見えなくなるまで見送り続けると、自らの家へと脚を向ける。

 ……第4世代電化兵騎は私たちの1つ前のモデルだ。欠陥品としてほとんど製造されずに生産終了となった。すでに製造され、納品された電化兵騎たちは多くが危険な任務に使われ、半ば使い捨てられたらしい。

 レーナ特任大将は恐れている。自分たち第5世代が同じ道を辿ることに。第4世代とは異なり、欠陥品じゃないけど、フェアラート防衛大臣たち第3世代電化兵騎たちからすれば、私たちは脅威だろう。自分たちの地位を、存在価値を脅かす存在だ。


「ロト、ただいま」

「おかえりなさい、イツナさん」


 私は玄関に入ると、出迎えてくれていたロトに声をかける。黒いブーツを脱ぎ、手に持っていたバッグを廊下に放り出す。

 私は何があろうとロトを守る。もし、第4世代と同じ道を歩むことになれば、自分の命も、この子も守れないだろう。そういった意味では、レーイ特任大将と目指す方向は似ている。


「イ、イツナさんっ!」


 私はロトを抱きしめ、その唇を強引に奪う。自らの舌を彼の口腔に捻じ込み、互いに絡ませ合う。片手で彼のズボンのチャックを降ろし、更にベルトを外す。

 レーイ特任大将と唯一違うのは、彼女は第5世代電化兵騎を守るために私やロトといった『個人』単位の命は重視していない。彼女は第5世代という『全』を守ろうとしている。


「イツナさんっ、せめてベッドに」

「うん、すぐに行こう……」


 私は自らの衣服を脱ぎ捨てながら寝室へと早歩きで向かう。そして、部屋に入ると明かりもつけずにベッドに寝転ぶと、裸のロトを抱きしめ、再び甘い口づけを交わす。

 私が守るのは、第5世代電化兵騎じゃない。私が守るのは、ロトだけだ。そこだけが彼女と異なる点だった。


「いいよ、来て! ロトっ!」


 大戦の終わりが近づくにつれて湧き上がる不安。私はいつも以上に彼を貪る。不安を紛らわすように、深く深く彼と交わり続けた――。

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