表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏切りの電化兵騎 ――女性軍人と少年従者――  作者: 葉都菜・創作クラブ
 ◇第2章 人類統治・総司令官捕縛作戦
13/34

第12話 約束された勝利

 大きな、大きな銀河の河は、小さな星々のことなど眼中にないのだろう。その大河は、小さな存在など目にも留めず進み続ける。


[大ユグドラシル防衛軍が、銀河第5エリア“銀河辺境領域ウートガルズ”の完全奪回作戦を開始して早くも3ヶ月が経過しました]


 戦況という流れもまた同じだ。個人の感情などは意にも介さずに流れ続ける。ディザイアの“異動”。私の昇格。それだけが巡り、戦いは新たなステージに突き進む。


[大ユグドラシル防衛軍は連戦連勝を重ね、人類統治勢力は各星系から次々と撤退しています]


 ネストとディザイアの悲しみは、記録されない。オイジュスとルミエールのロストは、ただのロストとしか記録されない。その心は、想いは、感情は残されない。


[今後の作戦について、第5世代電化兵騎統括委員会のレーイ特任大将が、フェアラート防衛大臣、クリスティーナ筆頭大将、イツナ大将代行で協議することになっており――]


 もし、ロトが殺されて私が哀しみのどん底に突き落とされても、その記録はロストとしか残されないのだろう。そして、歴史としては“大戦は、大ユグドラシルの勝利”とだけ刻まれるのだろう――。





「人類統治を取りまとめる“ホサカ総司令官”。こいつを捕らえれば、人類統治は崩壊。長きに渡った大戦は終結する」


 黒色の短髪をした大柄な女が椅子に深く腰掛け、長い脚を組んだまま話す。彼女は電化兵騎=レーイ特任大将。私と同じ第5世代電化兵騎だが、彼女は第5世代を管理・統括する『第5世代電化兵騎 統括執行委員会』の委員長でもある。


「その居場所がアマゾネア星系。取り逃がすことがあれば、それだけ終戦が遅れる」


 レーイ特任大将と顔を正面から突き合わせる場所に座るのは、黄金色の長髪を持つ女性。電化兵騎=フェアラート防衛大臣だ。


「となると確実に捕縛する必要がありますわね。どの兵団が向かうのか慎重に協議しなければなりませんわ」


 レーイ特任大将から見て右側、フェアラート防衛大臣から見て左側、私の正面に座るのは、クリスティーナ筆頭大将。


「あまり大規模に軍を動かしますと、ホサカは逃亡しますわ。それに首都を有するエデン星系――銀河中枢領域コア・ガルズの防衛も一緒に考えねばなりません」


 クリスティーナ筆頭大将は私をじっと見つめながら、淡々と話を続ける。彼女の言わんとすることは理解している。私に行って欲しいのだろう。自身の兵団に傷を付けたくない。万が一取り逃がせば、その失態は巨大なものとなる。火中の栗は拾わない。


「……クリスティーナ閣下のおっしゃることはもっともだ。イツナ、この出撃は第7兵団に命じたい」


 レーイ特任大将が言う。クリスティーナ筆頭大将の意図は彼女も感じているのだろう。その上で私に出撃を命じている。その意図は――。


「私には、ちょっと……」


 私は少し自信なさげな表情を浮かべ、遠慮の想いを口にする。

 ――変わってしまった。私は少し前からそう感じていた。変わってしまったのは、大ユグドラシル。劣勢の時はなりふり構わず、勝利をもぎ取らんと出撃していた。

 今は違う。それぞれが様々な思惑を胸に動いている。約束された勝利が近づくにつれ、大戦後のことを考えている。


「大丈夫ですわ。これまでのあなたの戦いをずっと目にしてきましたけど、あなたなら必ずやれますわ」

「………」


 クリスティーナ筆頭大将は、なるべく自軍の力を温存しておこうとしている。そうすることで、大ユグドラシル防衛省内で、自分の影響力を発揮しようとしている。その先にあるのは、次期防衛大臣の地位。そのために、彼女はディザイアを平気で切り捨てた。

 惑星サーヴァントですぐに駆け付けなかったのも、意図的だと私は考えていた。そうすることで、オイジュスが現れることで、あわよくば彼女の戦死を願ったんだろう。

 結果はディザイアの生存だったが、彼女は政治的敗北を喫した。第7兵団を取り上げられ、筆頭大将付というよく分からない地位を与えられた。その後の消息は誰も知らない。最強の電化兵騎は消されたのだろうか。


「……万が一だ。万が一、ロトのことが心配なら、今回だけは彼をエデンに置いていけ」

「…………」

「そうすれば、彼は絶対安全だ。幸い辺境のアマゾネア星系には、第5世代電化兵騎の力が必要になるほどのシステム・セキュリティはない」


 レーイ特任大将は、第5世代電化兵騎の実力を大ユグドラシル内に示し、今は大部分が特任となっている電化兵騎たちを常任にしたい。

 そして、第7兵団は私を正式な大将に任命したい。欲を言えば、第5世代電化兵騎による大将をもう1つか2つ欲しい。


「第7兵団だけで大丈夫だ。お前なら確実にホサカを捕らえられる」


 フェアラート防衛大臣は、次期政府代表の地位を狙っているというウワサがある。どんな犠牲を払おうとも、確実且つ“大ユグドラシル受け”する勝ち方をして、大戦後に予定されている閣僚異動――内閣改造で、大臣ポストをもう1つか2つ手に入れたい。自身は政府代表代行を手にし、あとは息のかかった電化兵騎を大臣ポストに入れたい。


「……分かりました」


 それぞれが胸に秘める欲望。心があるばかりに芽生える野心。時に戦いすら引き起こす思惑。――私たちは変わってしまった。

 でも、それの何が悪いのだろう。


「第7兵団大将代行イツナ、任務を直ちに遂行致します」


 ちなみにイツナ大将代行は、――つまり私は、ロトを守りたい。彼と一緒にいるためなら、なんだってする。だから、ロトの安全と引き換えに、私は今回の任務を引き受けた。


 約束された勝利は、私たちを変えてしまった――。でも、それの何が悪いのだろう? 私には分からなかった……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ