第10話 特任中将→大将代行
――白地に青色のラインが塗装された戦艦。それは大ユグドラシル防衛軍に所属する全ての戦艦に共通する。だが、天に君臨する輝ける陽を遮り、新たなる天の覇者たらんとするその鋼を見たとき、人々が抱くモノは何だろうか。
[フェンリル、一斉砲撃を開始! オイジュスと人類統治の軍艦を全機撃ち落とせ!]
恐らくフェンリル艦に搭乗しているであろう女の発する命令。同時にフェンリル艦に備え付けられた砲撃システムが一斉の青色の光弾を連続して放つ。
僅か数秒の間に、無数の砲身が放つ青色の砲弾は、雨のごとくオイジュスに降り注ぐ。もはやコントロール・システムを失ったオイジュスは、なされるがままだった。
頑丈な外装は見る見るうちに青い光弾に撃ち破られ、引き裂かれ、炎を上げる。外側から砕かれ、本体と引き離された破片は街へと落ちていく。
何十年と大ユグドラシルの強力な兵騎であり続けたオイジュスは、大ユグドラシルの超大型戦艦によってその亡骸さえも滅ぼされる。もう、外装は破壊され尽し、内部がむき出しになっている。もう1分と持たないだろう。
そのとき、私は僅かな間だったが、確かにこの目で捉えた。電化兵騎=オイジュスの最高司令室が砲弾で半分吹き飛ぶ。そこから見えた部屋の内部。――電化兵騎=ネストがそっと電化兵騎=オイジュスを抱きしめる。だが、その2人を、青い光弾は何のためらいもなく業火に消し飛ばす。
[――オイジュス、破壊完了]
――陽に代わり、天に君臨した白と青の覇者は、黒き戦艦たちを次々と青い光で引き裂いていく。裂かれた黒き戦艦から、無数の人間とアンドロイドがばらばらと落ちていく。
「イツナ特任中将、フェンリル艦へと退避願います」
「…………」
私とロトを取り囲むようにして4機の機動兵器が高度を下げてくる。気が付けば、無数の機動兵器が次々と都市に向かって飛んでいく。
[同胞の支援に当たれ。ディザイア大将、エレナー中将、ハクア中将らを保護せよ]
私は導かれるようにしてフェンリル艦へと飛んでいく。大ユグドラシルの小型艦と戦闘機、機動兵器が次々と地上へと降りていく。
……もう、空に邪悪な黒はなかった。気が付けば、青い裁きの光は止まり、空に留まるのは正義の白だけになっていた――。
*
【超大型戦艦フェンリル クリスティーナ御座】
私とロトは青色のクリスタル・レンガで造られた階段を上る。左右の壁からは大きな白地の国旗が、一定間隔で垂れ下げられている。天井からは白銀の光が降り注ぐ。
何百段とある階段を上り、巨大な青色の扉の前に立つ。すると、分厚い扉はゆっくりと左右に開いていく。
フェンリルの最高司令室――否、クリスティーナの玉座に入ると、そこは“外”と打って変わって白銀のクリスタル・レンガが床に敷き詰められていた。壁はサファイア色に染められ、天井からは黄金色の光が差し込む。
「第7兵団所属特任中将イツナ、ただ今参上しました」
私は跪いて名乗り、自らの参上を報告する。
「ご苦労だったわね、イツナ。先の戦い、見事でしたわ」
「ありがとうございます。お褒めの言葉、光栄に御座います」
「その功績を称え、あなたを第7兵団の大将代行に任命するわ」
「…………!?」
予想しなかった言葉がクリスティーナ筆頭大将から発せられる。第7兵団の大将代行。つまり、第7兵団における大将を代行する役目。すぐに疑問、いや懸念が湧いた。
「お言葉ですが、第7兵団はディザイア大将が管理する兵団。私がその管理官となれば、指揮命令系統が――」
「――ディザイアは第7兵団から外すわ」
「……なぜですか?」
もっと予想していなかったことだった。ディザイアを第7兵団から外す。他の兵団の大将の任を与えるのか、それとも防衛軍そのものから外すのか。
「彼女は“筆頭大将付担当大将”に任ずるわ」
「私のメモリに該当する役職はありません。何の担当ですか?」
「担当任務は私の補助」
「…………。……そうですか」
私の頭にディザイアの運命が計算される。彼女は第7兵団を外されるだけじゃなく、大将の権限を失った。一兵さえも動かせず、クリスティーナ筆頭大将の使用人にされる。
そして、使用人としての立場は一時的なもの。やがて、防衛軍所属ですらなくなるのだろう。つまり、防衛軍除名――。
「クリスティーナ閣下!」
不意に玉座内に女性の声が響き渡る。
「何かしら? 今、イツナと――」
「申し訳ありません! で、ですがっ!」
「……報告を許可するわ」
「ありがとうございます! ただ今サーヴァントで、第7兵団のディザイア大将が暴走状態にあり、閣下のフェンリルへの搭乗命令を無視している状態です!」
ディザイアが暴走? まさか、コンピューター・ウィルスに侵入されたか? いや、大将クラスの兵騎にウィルスなんて聞いたことがない。
「めんどくさいわね。イツナ“大将代行”、命令を下すわ。――ディザイア“担当大将”を拘束してきなさい。この任務から第7兵団の使用を許可するわ」
「……分かりました。第7兵団大将代行イツナ、直ちに任務を遂行致します」
私はそっと立ち上がる。さっきまで同じ任務に身を投じていた仲間。いや、この大戦中、ずっと行動を共にしてきた彼女を、私は拘束しなければならない。
だが、私に拒否する選択はなかった。命令を拒否すれば、反逆になる。私が反逆すれば私だけじゃなく、……ロトまでその罪を被る。私に選択肢はない――。